第271話 驚きの白さ
今日もまた「神棚作製」という仕事が増えてしまった。家庭教師との勉強の間に少しずつ作っていくことにしよう。授業はネロも一緒に受けている。どうやらネロは頭も良いみたいで、それほど苦労する様子もなく学問を吸収していた。
イケメンで頭も良くて運動もできるとか、スペックが高すぎるな。まあ、冷静に考えると、俺もそうなんですけどね。世の女性たちからは優良物件だと思われていることだろう。今後のお茶会が怖いことになりそうだ。今から行きたくなくなってきたぞ。
「どうされたのですか? 先ほどから集中力が欠けているようですが」
「ああ、ちょっとお茶会のことを考えていてさ」
これでも高位貴族の息子だから行かないわけには行かないんだよね。それならば、早いところ婚約者を決定しておいた方が、集まってくる蝶も少なくなるはずだ。
「そうでしたか。そう言えばもうすぐファビエンヌ様との約束の日でしたね」
そうだった。忘れていたわけではないが、もうすぐファビエンヌ嬢とのデートの日だった。どうやらネロは俺がファビエンヌ嬢をお茶会に誘おうとしていると思ったようだ。今の流れだとそう思うよね。
アレックスお兄様とダニエラお義姉様から領内のデートスポットについては調査済みだ。すでにお店の予約も取ってある。問題があるとすれば、プレゼントを何にするかだな。宝石店に行くのでそこで気に入ってもらえる物があれば良いんだけど。
せっかくなので、これから領都の名産品となるドライフルーツも持って行こう。馬車の中で気楽に食べることができるからね。手も汚れないし。あとは液体洗剤もプレゼントするかな? いや、こちらは作り方を教えた方が良いかも知れない。ファビエンヌ嬢はもう立派な魔法薬師だからね。
「さすがに神棚をプレゼントするのはマズイよね?」
「デートのプレゼントには向いていないかと」
ネロが言いにくそうにそう言った。やっぱりそうだよね。一度ファビエンヌ嬢を家に呼んで、神棚の感触を確かめてからどうするかを決めることにしよう。
午後からは剣術と魔法の訓練だ。ようやくいつもの日常を取り戻しつつあるぞ。最近はやたらと物作りが多かったからね。
「ユリウスちゃん、見てよ!」
「ちょ、ちょっとミーカお義姉様、何をしているんですか!」
どうやらカインお兄様とミーカお義姉様は午前中から剣術の訓練をしていたようである。勉強はいつするんだろう? まあいいか。それは良いとして、俺を見つけたミーカお義姉様が一目散に近寄ってくると、防具を脱ぎ捨てた。白い肌着がまぶしい。
「液体洗剤で洗ったらこんなに白くなったのよ。それに嫌な臭いもしないの。ほら、ほら、嗅いでみて!」
「は、はぁ」
早く止めに来いよ、カインお兄様! 何やってるんだ、あの人は。自分の婚約者をほっぽり出して。あ、向こうで伸びてる。どうやらはしゃぎすぎたようである。どうして全力投球するのですか!
仕方がないので、スンスンと臭いを嗅ぐ。確かに嫌な臭いはしないが、何か違う、良い香りがする。たぶん、ミーカお義姉様の香りだ。
「どう?」
「わー、本当だー。嫌な臭いがしませんね」
「そうでしょう、そうでしょう。ユリウスちゃん、この液体洗剤、少し分けてもらえないかしら?」
どうやらミーカお義姉様は液体洗剤がとても気に入ったようである。そして学園に持って帰りたそうにこちらを見ている。特に断る理由はないので、引き受けることにした。
「もちろん構いませんよ。何なら、カインお兄様の分とまとめて、学園にいる間も定期的にミーカお義姉様のところに送りましょうか?」
「本当!? ありがとう、ユリウスちゃん!」
ぐえ、胸が、ちょっと汗ばんだ胸が!
何とかミーカお義姉様に防具を着させて俺たちも訓練に参加する。カインお兄様が俺と手合わせをしたそうだったが、すでにハイネ辺境伯家の騎士団の面子にボコボコにされたらしく、その元気はなかった。これはこれでラッキーだな。
「久しぶりですな、ユリウス様」
「ちょっと忙しくてね。なかなか時間が取れなかったんだよ」
「ウワサは色々と伺っておりますよ」
騎士団長のライオネルが笑っている。本当に色々とウワサを聞いているのだろう。俺もどうしてこうなったのかを聞きたいところだ。
さすがにライオネルと打ち合うのはやめておいた。今日は基礎訓練に費やす。ライオネルは残念そうにしていたが。
同年代の見習い騎士たちに混じって打ち合いを始める。もちろんジャイルとクリストファーの姿もあった。騎士の基本はやはり剣だ。苦手でも毎日の鍛錬は必要である。
俺とネロが打ち合っているのを見て、ライオネルはすぐにネロの才能に気がついたらしい。本格的に教えてくれるみたいだったので、邪魔しないように魔法の訓練をすることにした。
適当に魔法を撃つだけなのだが、何だか前よりも魔力の消費が少ないような気がした。まさかこれが精霊の加護の効果なのかな? 一つではあまり効果が実感できなかったが、三つになったことで、気がつくレベルにまで上がったようである。
どうやら割合で魔力が減るみたいだな。それだと、強力な魔法を使うときほど、真価が発揮されるということか。そんな機会ないと思うけど。俺が大魔法を使う機会なんてない方が良い。
「ユリウス様、よろしければ、我々に魔法を教えていただけないでしょうか?」
「え、何で? 俺が教わる方だよね?」
「いえ、もはやユリウス様に教えることなどないでしょう。むしろ、教わる方かと思います」
ハイネ辺境伯家専属の魔導師団員がそう話しかけてきた。どうやら先ほどから俺が的に向かって魔法を撃っているのを見ていたようである。しかしそれだけで、どうして俺に教えてもらおうと思ったのだろか。
「何でそう思うの?」
「それはユリウス様の魔法の精度が高すぎるからですよ。ユリウス様の使っている的を見て下さい。見事なサザンクロスの形です。……もしかして、無意識にやっていたのですか!?」
なぜか興奮気味にそう話し始めた。何だ何だと他の魔導師団員も集まって来る。どうしていつもこうなるんだ。何かののろいか?
「無意識であの精度……意識したら一体どうなるんだ」
いや、どうにもなりませんからね!? そのことに次々と気がつく人たち。この場がにわかに熱気を帯び始めた。
俺はどうやってこの場から逃げ出すかを必死に考えていた。
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