第255話 良い考えがある
残念なことに、お茶会は途中で解散となってしまった。両親がそろって不在になってしまったからね。しょうがないね。
自室に戻った俺はさっそくネロに相談した。
「ネロ、何か良い案はないかな?」
「そうですね、ファビエンヌ様と一緒にプレゼントを買いに行ってはどうですか?」
「そっち!? いや、でも、それは良い考えだぞ。ファビエンヌ嬢の好みを知ることができるし、一緒に領都を歩くことで親密度アップだ」
ネロの素晴らしい提案に「さすネロ」と思っているその隣で、ネロはしきりに首をかしげていた。どうしよう。もう一つの方も相談してみるかな? でもこの様子だと、そんなこと相談されるとは思ってもないみたいなんだよね。やっぱり俺がガツンと言わなければダメか。ガツンと。
「これで問題は解決しそうだな。ありがとう、ネロ。もう一つは自力で何とかするよ」
「ユリウス様」
「おっとそうだった。良くやったぞ、ネロ」
「ありがとうございます」
貴族って、超、面倒くさい生き物だな。お礼はダメで、褒めるのは大丈夫だなんて。常に上から目線でいなければならないのがツライ。
夕食の席でさっそくネロの案を提案した。もちろんネロの名前は出せない。ネロの案は俺のもの、俺の案は俺のものである。紛う方なしジャイアニズム。すまないネロ。
だがそんなネロといえば、そんなことにはまったく気にしていないのか、笑顔で俺のそばに仕えていた。ネロ、良い子。あとでお菓子をあげよう。
「なるほど、会いに行ったときにデートに誘うのか。良い案だと思うよ。ユリウスにしてはまともな案だね」
「アレックスお兄様、それどういう意味ですか」
「それだけ素晴らしい提案だと言うことよ。いいじゃない、そうしなさい」
夕食までに復活したお母様は、先ほどの光景をすっかりと忘れてしまったかのように元気になっていた。もしかしたら本当に夢だと思っているのかも知れない。これはまた精霊がアポなしで訪問してきたら卒倒するぞ。今度は会わせないようにしよう。
チラリとお父様の方を見ると、目が合ったお父様がうなずいた。御意。
ファビエンヌ嬢への贈り物が決まった俺は次の日には訪問の日程を書いた手紙を出した。手紙にはデートについてのことは書いていない。会ってからのサプライズにするつもりだ。リボンの代わりに蝶ネクタイでも着けて行こうかな?
その日、ネロの手を借りながらいつもよりも豪華で、とても一人では着られないような服に身を包んだ。さすがに完全礼服ではないが、王城で国王陛下に会うときに近い服装である。
「ネロ、こんな服を着て行って、ファビエンヌ嬢に引かれないかな?」
「大丈夫です。良くお似合いですよ。ファビエンヌ様には少しでも良い印象を持っていただかねばなりません。手を抜いているように見られては失望されますよ」
「そこまで!?」
まさか装い一つで失望されることになるだなんて。やっぱり貴族って怖い。だからと言って今さら平民になるのもなぁ。貴族の方がなにかと優位なのは間違いない。
ビシッとした姿になったことで俺がどこかに行くことを察したロザリアとミラが俺を取り囲んだ。
「お兄様、私たちもついて行きますわ!」
「キュ!」
「ダメダメ。今日は大事な人と会うことになっているんだから。悪いけど、一緒には連れて行けないよ」
「でもネロは一緒に行くんでしょう?」
「ネロは良いんだよ、ネロは」
「キュ」
ああ、ミラがめっちゃ不機嫌そうな顔をしている。どうしてこうなった。こうならないように。今日の今までタップリ遊んであげたじゃないか。もう忘れたのかい?
ロザリアも、ずっと魔道具を作るのを手伝ったよね? そのおかげでもうすぐ完成だよね?
「帰って来たら遊んであげるから、良い子にして待ってるんだよ」
「分かりましたわ。それじゃあ、一緒にお風呂に入ってくれますか?」
「キュ?」
「いやぁ、それはちょっとそろそろダメなんじゃ……分かった。一緒に入ろう」
今にも泣き出しそうになったロザリアとミラをなだめることに全力をそそぐ。ここで足止めされたらアンベール男爵家でのお茶会に遅れてしまう。お呼ばれしたのに遅刻するとかシャレにならんしょ。
「それじゃあ、一緒に寝てくれますか?」
「キュ?」
「分かった。一緒に寝よう。それじゃ行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ、お兄様!」
「キュ~!」
手を振る二人に別れを告げて玄関へと急いだ。こうなってしまったからにはしょうがない。だが私に良い考えがある。
お母様だ。お母様を使うんだ。きっとお母様なら何とかしてくれる!
「あのような約束をして大丈夫なのですか?」
「何とかなるさ」
「リーリエもうなずいていたんのですが……」
「あーそれは良くないな」
どうやらリーリエも参戦する気、満々のようである。これは何としてでもお母様に止めてもらわないといけないな。でもディフェンスに定評のあるお母様ならきっと大丈夫だ。
巨大なヘビににらまれたカエルのようになってしまう、あの有無を言わせぬ瞳。思い出しただけでゾクゾクしてきたぞ。
ハイネ辺境伯家の家紋が掲げられた馬車に飛び乗ると、すぐに出発した。人が動き出す時間帯だったこともあり、道は徐々に混み始めていたが御者の素晴らしい運転テクニックによって何とか約束の時間までにはたどり着くことができた。ちょっと酔いそうだったけど。
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