第250話 一家に一台
工作室を見渡した。そこには俺が王都に行っている間にロザリアが作ったと思われる魔道具の残骸が残されていた。パッと見た感じ、どうやら設計図はなさそうだ。
「ロザリア~? 設計図はどうしたのかな~?」
「設計図はお兄様が持っているのではないですか?」
「いや、持ってないよ」
え、みたいな顔をして動きが止まるロザリア。いや俺、設計図があるなんて話は一言もしていないんだけど。何ならロザリアが作るようにと言ったはずなんだけど。いつから俺が設計図を作っていると錯覚していた?
「でもお兄様、すでに設計図があるかのような話し方でしたよね? 作り方も、使う魔法陣も、形も、名前も、全て決まっていましたよね?」
「それはそうなんだけど……」
いかん、具体的な内容を出し過ぎたか? ロザリアが洗濯機を作るように誘導するためにカードを切り過ぎたようである。ロザリアが困ってから小出しにすれば良かった。
今さら気がついてももう遅い。
「それじゃロザリア、一緒に設計図を作ろう。王都に行っている間にロザリアがどれだけ成長したのかを見せてくれ」
「分かりましたわ。お任せあれ!」
元気良くロザリアが答えた。その後は夕食の準備ができるまでロザリアと一緒に設計図を描いた。もちろんメインで描いたのはロザリアだ。
ロザリアは魔道具師としての才能を開花させつつあるようで、少しの手直しですむほどの精度で設計図を描いていた。これはもう、俺はヒントを出すだけで良いな。
「ユリウス、ロザリアと一緒に何やらやっていたそうだが?」
夕食の席でお父様が聞いてきた。俺たちが何を企んでいるのか気になるのだろう。帰って来てから早々、また何かやらかすんだろうと思っているのかも知れない。だがそれは違うぞ。否定しなきゃ。
「ロザリアが新しい魔道具を作るのを見ていただけですよ」
「ほう」
「すごいのよ、お父様! ユリウスお兄様の頭の中には洗濯機の魔道具が出来上がっているのですもの!」
まずい、このままでは俺が全て仕組んだことになってしまう。まずはロザリアを黙らせないと。
「ロザリア、食事中にそんな大声を出して、はしたないぞ。お義姉様たちを見てご覧。静かに食事をしているだろう?」
キョロキョロと周囲を見渡すロザリア。……静か、と言うよりかは手が止まっているな。若干目が大きくなっているし、これは驚きで手が止まっているのかも知れない。
「そうですが……それでもお兄様がすごいのには間違いありませんわ」
「ユリウス、その洗濯機という魔道具はどのようなものなのかしら? 名前からすると、洗濯をしてくれる魔道具のようだけど?」
お母様が笑顔で尋ねてきた。目が笑っていないぞ、お母様。でもこの魔道具があれば、世の奥様方からは大変喜ばれるだろうし、悪いことは一切ない、と思う。何だか自信がなくなってきた。
そしてすでにロザリアじゃなくて俺に注目が集まっている。どうしてこうなった。謀ったな、ロザリアー!
「えっと、汚れた服なんかを入れると、勝手に洗ってくれて、勝手に乾かしてくれる魔道具ですね」
「そんなすごい魔道具が作れるの?」
「ええ、もちろん。水と風と火の魔法陣を組み合わせることで可能ですよ。あ、あと、冷却の魔法陣も必要ですね」
氷室を作るときに培った技術がさっそく役に立ちそうだ。乾燥するときに熱くなった本体を冷やす必要があるからね。
食卓がシンと静まり返った。特に問題なく作ることができると思うんだけど。
洗濯機は汚れた物を横から入れるドラム式にする予定だ。この方式の方が汚れがよく落ちるし、水も少なくてすむ。乾燥には火の魔法陣で暖めた空気を風の魔法陣で送る方式だ。冷温送風機のときに使った魔法陣なので問題ない。
「ユリウスはその魔道具をどうするつもりなの?」
「どうするって……一家に一台置いてもらえるようになれば、洗濯する手間が省けるんじゃないかなと思いますけど。元々は王都の友達が母親の洗濯する姿を見て、大変そうだと言っていたのがきっかけですしね。少なくとも友達の家にはプレゼントするつもりです」
いきなり洗濯機を送りつけたら怒られるかな? 何なら掃除機も送りつけようと思っているんだけど。それとも自動掃除機にするか? 夢が広がるな。
「一家に一台……ユリウスは庶民にも便利になって欲しいのね」
「それはそうですよ。空いた時間で買い物にでも行ってもらえれば、領都の経済も回りますからね」
笑顔でそう言ったのだが、ロザリアとミラを除く全員が固まっていた。そんなに衝撃的なこと、言ったかな? まあいいや。俺はそれに気がつかない振りをして食事を再開した。
「ユリウス、ちなみに他にも何か考えている魔道具があるのかな?」
お父様が何となく笑っていないような笑顔でそう聞いてきた。うーん、どうせだから言っておいた方がいいかな。洗濯機を作ったら、次に取りかかるつもりだしね。
「床やカーペットに落ちたゴミを吸い込むことができる『掃除機』を作ろうと思っています」
「ゴミを吸い込む?」
「そうです。風の魔法陣を使ってゴミを吸い込んで取り除くのです」
「さすがですわ、お兄様! もう次の魔道具を思いついているなんて」
隣に座るロザリアが目をキラキラさせてこちらを見ていた。気がついているのかどうかは分からないが、実際に作るのはロザリアだぞ。俺はロザリアが作るのにほんの少し手を貸すだけだ。これでハイネ辺境伯家のロザリアが作った魔道具として世に知れ渡ることになるだろう。なるよね?
「剣術だけじゃなくて、魔法薬も魔道具も作れることを知っていましたけど、ユリウスちゃんは本当に多才だわ~」
「あら、ミーカさん、ユリウスちゃんは魔法もお上手ですわよ?」
「そうなのですか!? まだ見たことがないので楽しみです」
キャッキャ、キャッキャとお義姉様たちが楽しそうに話し始めた。しかもどうやら俺が魔法を見せる前提で話が進んでいるような気がする。俺の魔法は見世物じゃないぞ。分かっているのかミーカお義姉様!
でもあの胸でおねだりされたら屈するしかないかも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。