第249話 密かな目論見
久しぶりに再会したジャイルとクリストファーはどことなくたくましくなっているように感じだ。それもそうか。俺たちは今が成長期だ。数日会わなかっただけで大きく成長していてもおかしくない。
ジャイルは縦にも横にも、クリストファーは縦に伸びていた。パーティーを組むことになれば、ジャイルは良い盾役になりそうだ。クリストファーはちょっと気が弱いので、長槍を持たせるのが良いかも知れない。弓矢でも良いかな?
「二人とも、ずいぶんとたくましくなったね。ちょっと驚いたよ」
「ユリウス様もたくましくなられましたよ」
「そうですよ。それに、王都で騎士団と魔導師団の子と仲良くなったとか……?」
ああ、なるほど。何となく理解した。二人がどこからその情報を手に入れたのかは分からないが、どうやらそのことで危機感を抱いたらしい。きっとそれで、いつもよりも気合いを入れて鍛錬に励んだのだろう。
「その話は本当だよ。でも二人は王都に住んでいるからね。王都に行けば頼りになるけど、ここでは二人が頼りだよ」
そう言うと二人はそろってはにかんだ笑顔を浮かべた。かわいい。しかし冗談ではなく本心だ。ここで何か起こっても王都の二人はやって来ない。逆に王都で何かあってもすぐに俺が駆けつけるわけにはいかないのだ。
……ワープホールを設置しておく? でもなぁ。さすがに王都と領都を一瞬で行き来するのはまずいと思う。バレたら絶対にダメなものであることくらいはさすがに分かる。保留だな。
「俺もネロもまだまだ訓練をする必要があるから、これからは一緒にやっていこう。そして郊外に魔法薬の素材を集めに行くんだ」
アタッカーが俺とクリストファー、斥候がネロ、盾役がジャイル。パーティーとしては十分問題ないだろう。魔法薬があるので、回復役は不要だ。想像するだけで楽しい。思わずほほ笑んじゃう。
「……ユリウス様、それ大丈夫なんですか?」
「あとから怒られるやつですよね!?」
「大丈夫、怒られても死にはしないから」
「いや、そう言う問題じゃ……ネロも止めて下さいよ」
「お止めしたいのは山々なのですが、無理ではないでしょうか?」
「デスヨネ」
ジャイルが天を仰いでいる。どうやら満場一致であきらめてくれたようである。これで遠慮なく素材採取に向かうことができるぞ。領都が雪に埋もれるまでにはもう少し時間がある。今ならまだ素材を見つけられるはずだ。
「本格的な訓練は明日からになるな。せっかくだから野外訓練にしよう!」
「いきなりやるんですか? 心の準備が……」
「そんなのを準備していたらいつになるか分からないよ。思い立ったが吉日さ」
「思い立ったが吉日? なんですかそれ?」
ジャイルが首をかしげている。おっと、どうやらこの世界にはこのことわざはないようだ。こりゃうっかり。うれし過ぎてテンションが上がり過ぎちゃったかな? 鎮めないと。
「とにかく、準備なんてしていたら他の人に見つかるだろう? それを避けるためにも、早さこそ大事なんだよ」
「それってダメなことだって分かってやってますよね!?」
その後は四人でワーワー言いながら素材採取の計画を立てた。周囲の見習い騎士たちは年下の子供たちが騒いでいるだけだと思ってくれているようだ。こちらを警戒している様子はなかった。
ジャイルたちと別れ、騎士団に備蓄してある魔法薬の確認と、屋敷や宿舎に設置されている魔道具の確認作業を行った。簡単に壊れるような設計はしていないので特に問題はなかった。話によると、ロザリアが定期的に見に来てくれているようだった。問題が起こらないので不満そうな顔をしていたそうである。どういうことなの。
「ここが自慢の温室だよ。俺がいない間は庭師が管理してくれていたのかな? 簡単に育てられる薬草は問題なく育っているようだね」
「すごいですね! 初めて見ました。冬でも植物を育てるために部屋を暖めるだなんて、考えもしませんでした」
「植物に使うよりも人に使えって普通はそう思うよね」
確かに贅沢な設備ではある。だが、一年中新鮮な素材を手に入れることができるのは大きなメリットがある。ゲロマズ魔法薬から解放されるのだ。人々への恩恵は計り知れない。
温室も特に問題なし。手を入れる必要がないことに満足して屋敷へと戻った。
屋敷に戻るとすぐにペンと便箋を用意してもらった。ファビエンヌ嬢に手紙を書かなければならない。ファビエンヌ嬢への手紙は王都にいる間もちょくちょく書いていた。俺が領都に戻る日程も書いていたので、向こうも俺が戻ってきていることを知っているだろう。
まずは無事に帰ってきたことを書き、そのあとに魔法薬を準備してくれたお礼をしたいから貴女に会いたいと書いて……これ完全に恋文だわ。良いんだけど、ちょっと照れるな。そうだ、プレゼントを購入してから会いに行くので、日程は俺が指定しないといけないな。
俺が手紙と格闘していると部屋の扉が開いた。チャイムを鳴らさずに入って来るのはきっとミラだな。
「キュ~!」
「ミラ~? ちゃんとチャイムを鳴らすようにしないといけないよ~?」
「キュ?」
う、あざとかわいい。でもなにしに来たのかな? ミラがしきりに俺の袖を引っ張っている。きっと何か用があるのだろう。書きかけの手紙をいったん置いてミラについて行った。
たどり着いた先はロザリア専用の工作室だった。部屋のドアをノックしてから中に入る。そこではロザリアとリーリエが何やら作業を行っていた。
結構大きな箱形の金属が鎮座しているが、その形には見覚えがあった。洗濯機だ。どうやら昨日話した「こんな魔道具があったら便利だよね」というアイデアをすぐに形にするつもりのようである。
でもさ、昨日の今日で設計図が出来上がっているのかな? それともまさか、俺が知らない間にロザリアが大魔道具師として覚醒しているとか!?
「あ、お兄様! このあとはどうすれば!?」
いや、考えてないんかーい! 思わずツッコミそうになったが何とか踏みとどまった。落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ……。
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