第223話 ネロ、参戦!
魔法的を壊した件については忘れよう。俺は何もやっていない。そうと決まれば、何事もなかったかのように練習を始めよう。
「それじゃ二人とも、お城でたまったものを吐き出しちゃって良いからさ」
「いや待った」
「まさかユリウス、このまま終わらせるつもりなの!?」
二人からちょっと待ったコールがかかった。どうやら許されなかったようである。特にイジドルは俺がどんな魔法を使って魔法的を壊したのか、興味津々だ。だが俺はその魔法について言うつもりはないぞ。そんなことを話せば、今度は大魔導師とか言われかねない。そんなのノーサンキューである。
「終わらせるも何も、俺は何も特別なことをしてないよ。いつも通りにやっただけさ。ほらイジドル、今回は魔法的だからさ。普段は使えない魔法を使っても良いよ」
そしてイジドルも魔法的を壊すんだ。そうすれば、俺が特別な存在でないことが分かってもらえるはずだ。良いぞ、この作戦。
「良いの!? そ、そうだよね。魔法的だもんね。使っても良いよね」
何度も自分に言い聞かせるイジドル。イジドルだって男の子。ピエトロが普段から魔導師団長の目を盗んでやっているように、自分も強力な魔法を使ってみたいはずなのだ。
イジドルがいつもとは違う魔法を詠唱し始めた。初めて使うのか、発動しない魔法もあった。だが、イジドルはとても楽しそうである。魔法が発動するまで、同じ詠唱を繰り返していた。
多彩な魔法を放つイジドル。それを見たアクセルが絶句している。ここまで魔法が使えるとは思ってもみなかったのだろう。もはや初級魔法なんかを放つ気もないようだ。中級魔法を一通り試すと、上級魔法にも試し始めた。
「良いのか? イジドルの目が普通じゃないぞ」
「そうだね。開けちゃいけない扉を開いちゃったかも……」
あははと笑って返そうかと思ったら、アクセルが真剣な目でこちらを見ていた。ちょっと殺気がこもっている。
「俺も本気でやりたい」
「あれ、アクセルはいつも本気で練習してないの?」
「俺じゃない。ユリウスの本気だ」
アクセルの目が本気だ。いつから気がついていた? やっぱり最初からかな。アクセルほどの剣の才能があれば、違和感があってもおかしくはない。
「絶望に身をよじることになるかも知れないよ?」
「それでも知りたい。俺とユリウスの間にどれだけの差があるのか」
「剣を捨てることになるかも知れないよ?」
「絶対に捨てない。俺はユリウスの剣だ。約束する。そして必ずユリウスに追いつく」
何だか良く分からないうちに俺への忠誠度がやけに高くなっているな。でもここまで言われて本気でやらないのはアクセルに失礼だよね。剣を捨てないと言う言葉、アクセル、信じているぞ。
「分かったよ」
そう言って木剣を手に取った。真剣でやるのは無理だ。さすがに死者蘇生をするのはまずい。それをやれば確実に人間を超越したことになる。そう考えると、ゲームの世界はとんでもない人たちであふれかえっていたな。
などと考えているうちに、アクセルが構えを取った。いつになく殺気が漂っている。それだけ本気なのだろう。練習のときには見せないオーラを出していた。対して俺は静かに構える。アクセルの顔からサッと血の気がなくなったように感じた。
テーブルを挟んだ目の前にはアレックスお兄様が座っていた。両腕を組んでおり、どこか不機嫌そうな様子である。普段あまり見せないその様子に、俺はハムスターのように縮こまった。
「それで魔法の練習と、剣術の練習をしていたんだね。二人ともグッタリとしているけど?」
「ちょっとやり過ぎたとは思います」
「ちょっと?」
「かなり」
お兄様の物言わぬ迫力に訂正する。俺の両脇に座る二人はかなり消耗していた。それに気がついて魔法薬を飲ませようかとしたところに、アレックスお兄様が帰って来たのだ。
ネロとリーリエを連れて。
「まったく、目を離すとすぐにこれだ。ユリウスには監視が必要だね」
「監視」
「そう、監視。それでユリウスには監視役としてネロを付けようと思う」
「ネロを監視役! ありがとうございます!」
素直にありがたくて頭を下げたのだが、お兄様は複雑そうな顔をしていた。これで良かったのか悩んでいるのかな? 良いんです、これで。相談役のネロがいれば色々と楽ができる、じゃなかった、普通が何かを知ることができる。
「あの、ユリウス様、本当に私でよろしいのですか?」
「もちろんだよ。ネロが良いんだ」
「……どうしてそこまで私のことを買って下さるのですか?」
「ネロなら大丈夫。俺の勘がそう言っている」
その場にいたみんなが口を開けている。何言ってるんだコイツみたいになっているが、ネロを一番うまく扱うことができるのは俺だと思っている。あのままどこかわけの分からないところで働いて才能を潰すよりかはよっぽどいい。
「ユリウスがそこまで言うのなら仕方がないね。ネロ、さっき話したように、私にも必ず報告を入れるんだよ」
「かしこまりました」
なるほど、お兄様とつながっていると言うことか。まあ、そんなの関係ないけどね。ネロなら俺を優先してくれるはずだ。これでアレックスお兄様に俺が問題児だと思われることは、金輪際ないだろう。
「ネロ、まずは俺の部屋に案内するよ。アクセルとイジドルはここで待っててよ。すぐに魔法薬を持って来るからさ」
「分かりました、ユリウス様」
硬いなー、ネロは。まあそのうち柔らかくなるさ。一方の二人は微妙な顔をしている。何か問題でもあるのかな。
「ありがとう」
「だ、大丈夫だよな?」
「大丈夫。俺が作った魔法薬だからさ」
そう言うと、二人は露骨に安心したような表情になった。リーリエは……どうやら使用人が面倒を見てくれるようだ。すでに話を聞いているのか、不安な表情はしていない。むしろ逆にうれしそうな表情をしていた。何だろう、あまり良くない気がして来たぞ。
俺がリーリエを気にしていることに気がついたのか、ネロが口を開いた。
「心配は要りませんよ、ユリウス様。リーリエはここで使用人としての教育を受けて、ユリウス様の専属の使用人になると意気込んでいましたからね」
「安心できない! 専属の使用人って何するのか知ってるの!?」
「一応は知っています」
「じゃあ何で止めないの!?」
「本人の希望ですから」
にべもない言い方である。良いのかなぁ。いつも近くにいて、お風呂に入った俺の体を洗ったりするんだよ? 汚れ物も預けることになるし。まあ本人がそうしたいなら、俺にはどうすることもできないんだけどね。
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