第218話 同じ穴のムジナ

 お茶を飲みながらどのようなパーティーになるのかを尋ねた。どうやら夕方から夜にかけての夕食を兼ねた社交界になるようだ。当然のことながら、ダンスの時間もあるようだ。


「ダンスですか。私は踊らなくても良いのですよね?」

「踊りたいのかい?」

「遠慮しておきます。踊る相手もいませんからね。カインお兄様とミーカお義姉様は参加するのですか?」

「いや、二人は学園があるからね。参加はできないよ。だからこそ、ユリウスが王都に呼ばれているんだよ」

「なるほど」


 納得したわけじゃなかったが、一応、そう答えた。学園があるから参加しないで済むくらいなら、俺が参加しなくても良くないか? 何か別の意図があるのかな。こればかりは行ってみなければ分からないか。まさか、どこかのご令嬢を紹介されたりとかしないよね? あり得そうな気がする。


「お兄様、私にだれか紹介するつもりですか?」

「んー、今のところはないかな。顔見せ程度にするつもりだからね。でも、相手側からは来るかも知れないね。気に入ったご令嬢がいたら遠慮なく言うんだよ」

「わ、分かりました」


 早くもパーティーに行きたくなくなった。俺のところに娘を送り込むことができれば、それはダニエラ様とつながり、その結果、王家ともつながることになるのだ。相手側の家にとってはおいし過ぎるほどの餌だろう。

 こんなことなら俺も早いところ婚約者を決めておけば良かった。


 これは俺の頼もしき友、アクセルとイジドルの力を借りる必要があるな。そうと決まれば善は急げだ。さっそく二人を鍛えるところから始めないと。ある程度のマナーはできているけど話すのは苦手みたいだからね。徹底的にたたき込んでおかねば。それにこのことは将来にも役に立つはずだ。


「お兄様、アクセルとイジドルも一緒に連れて行っても構いませんか?」

「そうだね……分かった。許可しよう」


 アレックスお兄様がうなずいた。俺が何を考えているのかをだいたい察したのだろう。これでよし。お兄様からの許可ももらえたので、遠慮なく準備ができるぞ。


「何だか楽しそうですわね、ユリウスちゃん」

「そんなことありませんよ?」

「いいえ。何だか悪巧みをしていそうですわ」


 鋭い! でも悪巧みじゃないぞ。ちゃんとした正攻法のはずだ。三人で常に固まって行動して、周りに人を寄せ付けないようにする。男三人の中にご令嬢が入り込んでは来ないだろう。


 そんなことを考えていると、なぜだか分からないが、ダニエラ様が席を立って俺の方に近づいてきた。何事? 理解不能な行動に口を開けて顔を上げた。次の瞬間。ダニエラ様がギュッと俺を抱きしめた。すっぽりと胸の谷間に挟まる俺の顔。


「そう言えば忘れていましたわ。ユリウスちゃんにはお父様の命を救っていただいたお礼をしないといけないと思っていたのでしたわ」


 そのお礼がこれ……って言うか、苦しい! 俺は慌ててダニエラ様の腕をタップした。


「ダニエラ様、そろそろユリウスを離してあげないと、窒息してしまいますよ」

「あら! ごめんなさい。ミーカさんに抱きしめられて『うれしそうにしていた』って聞いたので、ちょっと力が入り過ぎましたわ」


 だれだ、そんなこと言ったやつ! ってお兄様しかいないか。俺は目を少し細めてお兄様を見た。お兄様は何食わぬ顔をしている。良いのかな、こんなことして。子供とはいえ、お姫様の胸の谷間に顔をうずめちゃったんだよ? 本人からそうしたとはいえ、お兄様から嫉妬の目の一つや二つ、あっても良いはず。……ちょっと待てよ。


「ダニエラお義姉様、アレックスお兄様も窒息しかけたのですか?」

「え? えっと、確かに苦しそうにして……」

「ダニエラ様! 答えなくて良いですからね!?」


 やはりお兄様も同じ穴のムジナだったか。ミーカお義姉様を見た限り、カインお兄様も同類だと思う。これはもはやハイネ辺境伯家のお家芸だな。

 攻めるなら今がチャンス。ここぞとばかりにお兄様の顔をニヤニヤした顔で見た。おっ、おっ、顔が真っ赤になっているぞ。初めて見る顔だ。告白したのがお姫様なので怒ることができない様子。見つけたぞ、お兄様の弱点。

 コホンと一つ咳をするお兄様。


「さ、ユリウス、そろそろおいとまするとしようか」

「まだ来たばかりですよ。そう言えばお兄様とお義姉様のなれ初めの話を聞いたことがありませんでしたね。今後の参考のために聞かせてもらえませんか?」

「ちょっとユリウス!?」

「えっと、あれは確か、学園に入ってからすぐ……」

「ダニエラ様も、真面目に答えなくて良いですからね!?」


 メッチャ焦ってる。学園に入ってからすぐにダニエラ様の胸でもガン見したのかな? あり得そうだぞ。

 お兄様は終始否定していたが、学園に入った当初はダニエラ様がお姫様であることは知らなかったようである。ダニエラ様も最初は王族という身分を隠して学園を終えるつもりだったらしい。


 でもその類いまれなプロポーションと美貌によって、主に男子生徒からの注目を集め始めたため、自衛のために正体を明かすことになってしまったそうだ。


 そして正体を明かされても態度を変えずにグイグイ来たのがアレックスお兄様だったらしい。そんなにグイグイ行ってない! とお兄様は必死に否定していたが、ダニエラ様は何も言わずに笑っていた。どうやら本当のようである。


 俺も好きな人ができたら、なりふり構わずにグイグイ行った方が良いのかな? でも最終的には親の判断が必要になるし、そう考えると頑張るだけ無駄なような気がする。どっちが正しいのかな。

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