第207話 うっかり忘れていた
資材置き場にある木材を使えば、氷室の壁の一面だけはどうにかなりそうだ。床に転がっている木材を『クラフト』スキルを使ってちょうど良い幅にスライスしていく。
ゲーム内では気にならなかったが、現実世界だととても加工しにくい。道理で使われないわけだ。
「ユリウスは器用だね」
「このくらいのことは、魔道具師ならだれでも簡単にできるよ」
これ以上、大魔道具師として認識されないためにも、あえて「魔道具師ならだれでもできますよ」感を出しておいた。これなら俺がすごいとは思うまい。
「そうなのか? それにしてもこの木材、本当にもろいな」
端材を手に取ったアクセルが軽く曲げると、簡単にポキンと折れた。こんなに簡単に折れたら、すぐに木が倒れると思うだろう。だがこの木は、生きている間は非常に硬くて丈夫なのだ。
恐らく地中から魔力を吸い上げて、自己強化しているのではないかと思う。それならば、切り倒されるともろくなるのも納得できる。魔力を利用しているのは動物だけではなく、植物も利用している。根っこを強化して「歩く植物」なんかも実在するみたいだからね。
「たとえそうでも、使いこなせば役に立つよ。よし、これで準備完了。この木材を壁に敷き詰めるんだ」
「了解、手伝うぜ」
「任せてよ」
俺たち三人だけでなく、使用人や護衛の騎士も巻き込んで作業をする。子供の力と身長ではどうにもならないこともある。寸法通りにピッタリと収まった。それを見たイジドルが感心している。
「すごいや。ピッタリだよ」
「それはそうだよ。ちゃんと計測したからね」
「魔道具師には正確さが必要なんだね」
「魔道具師だけじゃないぞ。魔法薬師も素材の量をキッチリ計測しないと品質が落ちるし、下手すれば魔法薬作成に失敗するよ」
「大変なんだな。俺にはとてもできそうにないな」
想像しただけで、アクセルはギブアップのようである。不器用なのかな? でも、剣を使ったりしているので、十分に器用だと思うのだが。敷き詰めた木材が腐らないようにするために防腐剤を塗っていく。これは注文していた素材の中にあったものである。普段は服の染料に使うのだが、こういった使い方もできるのだ。
「今日のところはこれで終わりだな」
「もう終わりなの? 氷室の内部は木の壁にするんだね」
「いや、最終的には石の壁になるよ。ほら、イジドルの家で使われていたあの石の壁だよ」
納得がいったのかしきりにうなずいていた。木の壁だと不安だったのだろう。ただでさえもろい木材だからね。
石材が届き次第、鉄板に冷凍の魔法陣を鉄板に描こう。それを木材と石材の間に挟めば、外からはそこに魔法陣が施されているとは思わないだろう。
あとはどうやって冷凍の魔法陣をごまかすかだな。王城内の図書館に行こう。
「それじゃ、今日はご苦労様。解散しよう」
「ユリウスは家に帰るのか?」
「え? うんそうだよ」
図書館について来られると困る。申し訳ないけど、ウソを言っておこう。すまぬ。そう言って二人と別れると、俺は一目散に図書館へと向かった。使用人たちは何も言わずについてきてくれた。
図書館にたどり着くと、司書に頼んで魔法陣について書かれた本のある場所へと向かった。
さすがは王城内の図書館なだけあって、たくさんの魔法陣の本があった。どうやら前回、クロエ様に連れて行かれた禁書のコーナーはほんの一部でしかなかったようだ。その他の本は自由に閲覧できるようになっている。
禁書のコーナーに行けばもしかして冷凍の魔法陣について書かれた本があるかも。いやいや、それだと結局表に出せないことになるか。何としてでも目の前の本の中から探し出さないといけないな。
俺は両手で抱えられるだけの本を抱えると、閲覧席に陣取った。近くの利用者がギョッとした表情をしているが、気がつかない振りだ。急いで見つけなければこれからの作業に支障が出る。
それにしても、この本の中から探すのは大変だな。検索機能とかがあれば良かったのに。
残念ながらそんなものは存在しないので、地道に本をパラパラとめくっていった。うん、この本には載っていないな。次。
「ユリウス坊ちゃま、そろそろ帰るお時間ですが……」
「え? もうそんな時間!? 本当だ、外が真っ暗だ。なんで教えてくれなかったんだよ。お兄様に怒られる!」
「その、何度かおたずねしたのですが反応がなくて……」
「そんなの気にしなくて良いよ。大事なことならもっと揺さぶっていいから」
どうも変なところで気遣ってくれているようだ。そんな気遣いをするくらいなら、お兄様に報告する前に、俺に報告しても良いかを聞いてもらいたい。
急いで本を片付けるとタウンハウスへと急いだ。
一応、収穫はあった。そのまんま「冷凍の魔法陣」はなかったが、二つの魔法陣を組み合わせると、たぶん、冷凍の魔法陣と同じ効果を発揮すると思う。ただし、二つの魔法陣で重ね掛けするのが一般的なのかどうかを調べなくてはならない。それに時間がかかっていた。
「アレックスお兄様、ただいま戻りました」
「お帰り、ユリウス。何やら王城内の図書館で調べ物をしていたようだね」
どうやら気を利かせた使用人がお兄様に事前に報告してくれていたようだ。グッジョブ。これならお兄様からお小言を言われなくてすみそうだぞ。もっとも、これからの受け答え次第ではあるが。
「はい。氷室で使う魔法陣について調べていたのですよ。もっと効率の良い魔法陣はないかと思いまして。良さそうなものがあったので、これから試してみようと思います」
「ユリウスには苦労をかけてしまっているね。それがうまくいけば、氷室の設計図も渡してもらえるのかな?」
そうだった、お兄様に氷室の設計図を描いて渡す約束をしていたのをうっかり忘れていた。でも、完成してない魔道具の設計図を渡すわけにはいかないな。
「それなんですが、今作っている氷室がうまく機能してから描きたいと思っています。設計図通りに作ったのにうまくいかなかったでは信用問題に関わりますからね」
「なるほど、そこまで考えていたのか。分かったよ。氷室の設計図は氷室の改良が終わってからになりそうだとダニエラ様に伝えておくよ」
「よろしくおねがいします」
ふう、どうやらお小言は言われずにすんだみたいだ。今日は何とか乗り切ったぞ。
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