第208話 万能薬が完成する

 部屋に戻ると、さっそく先ほど見つけたやり方で冷却装置を作ってみた。魔法陣を二つ描かなければならないというデメリットはあるが、問題なく機能した。これなら大丈夫だ。

 あとは消費魔力の問題だな。これは間に省エネの魔法陣を挟めばいいか。必要な魔法陣が三つ。大量生産しようと思ったら大変そうだ。

 頑張れ、魔道具師のみんな。俺は魔法薬を作るのを頑張るからさ。


 これで下準備はOKだな。あとは材料が集まるのを待つだけだ。そのうち完成するだろう。完成すると言えば、明日には万能薬が完成するはずだ。品質は悪いが、三つ作って、その全てが成功すれば、国王陛下も安心するだろう。王宮魔法薬師団の実力を認めてくれるはずだ。


 これまでの成功率が悪かったからね。俺としては昔のあのやり方でよく完成させたと思っているくらいだ。王宮魔法薬師の腕前が確かであることは間違いない。


 早めにまともな魔法薬を広げるなら、王宮魔法薬師団に頼るのが一番なんだよね。でも、やたらと俺に対する忠誠心と言うか、期待値が高いんだよね。「王宮魔法薬師団の名前で新しい作り方を広げてくれ」と言っても、俺の名前が出るのは間違いないだろう。どうしたものか。


 考えてもしょうがないな。そのときになってから柔軟に対応しよう。せめて俺が成人していれば良かったんだけど、まだ子供なんだよね。周囲がそう思っているかどうかは別として。




 今日はアレックスお兄様も登城する予定があるらしく、一緒に行くことになった。王家から派遣される馬車ではなく、ハイネ辺境伯家の馬車なので安心して乗ることができる。なんならカーテンを開けて外を眺めながら行くことができるのだ。

 朝もそれなりに早い時間なのに、ずいぶんと人が多くて活気がある。領都もそのうち、このくらいのにぎわいにしたいところだ。


「今日は万能薬が完成する日だったね。ユリウスから見て、どうなんだい?」

「間違いなく完成させることができると思いますよ。ですが、品質はまだまだですね。氷室の改良が終われば、素材を良い状態で長期保存できるようになるので、品質も良くなって来ると思います」

「そうなんだね。ユリウスはずいぶんと王家に、この国に貢献してるよね?」


 なんだ、どうして疑問形なんだ? なんか怖いんだけど。お兄様は一体なにを言おうとしているのか。今日の登城と何か関係があるのかな。


「どうして急にその様なことを?」


 アレックスお兄様が目を細くして、眉をハの字に曲げた。困ってる?


「それがね、ユリウスに勲章を贈ろうかという話が出ているみたいなんだよ」

「勲章!?」

「うん。国に特に貢献した人に贈られるものだよ」


 それって国に認定されるってことだよね? 成人してない子供がもらっても良いものなのかな。俺が困惑していることに気がついたのだろう。お兄様が口を開いた。


「ユリウスの年齢で勲章をもらった人はまだいないんだよね。もしこれが実現すればユリウスが最初の人になるね。これを機に、他の貴族が自分の子供に勲章を欲しがるかも知れない」


 貴族っていつもそうだよね。勲章をもらったり、領地をもらったり、爵位を上げたりすることにはすぐに躍起になる。ここで俺が勲章をもらうと、国内に一波乱が起きそうだ。ここは断る一手だな。


「お兄様、そのお話はお断りします。私に褒賞は不要です。国の危機を未然に防ぐことができるのであれば、それだけで十分です」

「そうか。ありがとう、ユリウス。そう言っておくよ」


 ホッとため息をつき、苦笑いするお兄様。どうやらアレックスお兄様は、俺に勲章を贈ることに反対だったみたいだ。だが勝手に決めるわけにもいかず、この場で話したのだろう。


 そんなに俺に気を遣う必要はないと思うのだが、もしかすると、王都で俺の存在がどんどん大きくなっているのかも知れない。不本意だな。何とかしたいけど、何とかできるかな。領都にこもるくらいしか手が浮かばないんだけど。


 停車場でお兄様と別れると、まっすぐに調合室へと向かった。万能薬が完成間近ということもあり、室内はどこか熱気に包まれているようだった。


「ユリウス先生! お待ちしておりましたよ」

「見て下さい! もうすぐ完成しそうですよ」

「三つとも完成するだなんて。快挙ですよ。さすがはユリウス先生の教えだ」


 まずい。三日間ぶっ続けて魔法薬を作っていたからなのか、変なテンションになっている。まずはみんなを鎮めないと。


「落ち着いて下さい。まだ魔法薬は完成していませんよ。ここから失敗する可能性だって十分にあります。最後まで油断せずにいきましょう」

「はい、ユリウス先生」


 これで大丈夫だと思うけど、完全に主従関係が構築されてしまったな。しょうがない、のかなぁ。王宮魔法薬師団長のジョバンニ様はこれで良いのか。あ、良いみたいですね。むしろ俺を王宮魔法薬師団長にしようとしてませんかね? お断りしますよ?


 そのままそれぞれのチームの鍋を見て回りながらそのときを待った。鍋の中で煮込まれている液体がわずかに輝き出した。魔法薬が完成した兆候だ。『鑑定』スキルで確認すると、間違いなく万能薬が完成していた。


 みんなそれに気がついたのだろう。火を止め、圧力を加えるのをやめると、あらかじめ準備していた特製の容器に鍋の中の液体を移した。合計三つ。一つも欠けることなく作ることができた。


「よく頑張りましたね。これでもう万能薬を作れるようになりましたよ」

「ありがとうございます、ユリウス先生。まさか作り方の根本が間違っていたとは思いませんでした。一つの魔法薬を複数人で作る。考えたこともありませんでしたよ」


 感慨深そうにジョバンニ様がそう言った。他の人はそれを聞きながらも、今の感覚を忘れないようにメモに書き残していた。そのメモはきっとこれからも役に立つはずだ。後世にまで伝えて欲しいと思う。ただし、俺の名前は伏せておいて欲しい。……あとで確認した方がいいかな。

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