第201話 新たな魔道具のフラグ?
翌朝、朝食を食べ終わるとすぐにダニエラ様へ手紙を書いた。中身は昨日二人と話していた氷室の改良期間についてだ。社交シーズンが終わるまでに完成すれば良いのなら、余裕を持って取り組むことができる。
しかし、急ぐようなら、剣術と魔法の訓練を一時ストップして作業をしないといけないだろう。国王陛下の胸三寸次第だな。これはやはり上からの指示を受けるべきであろう。
「アクセルとイジドルは、午前中は何をしてるの?」
「家の手伝いかなぁ?」
「俺は弟と妹の面倒を見てるぞ。朝は忙しいみたいだからな。俺が面倒を見ておかないと、落ち着いて朝の片付けができないらしい」
なるほど、確かに庶民の家だとそうなるのか。洗濯機とか掃除機とかはまだないみたいだからね。……作るか? 三種の神器。いや、やめておこう。これ以上目立つと、本当に魔道具師にされかねない。
「洗濯とか掃除が楽になれば、母さんも楽になるんだけどなー」
そう言いながらチラチラとこちらを見るアクセル。
「洗濯機とか掃除機とか、作らないからね!?」
「あ、もう名前も決まってるんだー」
のほほんとした感じでイジドルがそう言った。ずいぶんと気が緩んでいるようである。緊張しているよりかはずっと良いが、締まりのない顔をしているぞ。今の俺の顔はきっと困惑していることだろう。
「そのうち気が向いたら作るかも知れない。だが今は目の前の氷室に集中する場面だな」
「その日が来るのが楽しみだな。母さんが喜ぶぞ」
わざとなのか、たまたまなのか。アクセルがずいぶんと俺を追い込んでくる。よっぽど困っているのかな。我が家は使用人が全て片付けるから、その仕事を取ってはいけないと思って遠慮していたけど、困っている人は多いのかも知れない。
手紙を書き終えて一段落しているところに、アレックスお兄様がやってきた。こんなに朝早くに王城に来たということは、よほど俺のことを心配しているようである。大丈夫、何事もなく過ごしたからさ。
「おはようございます、お兄様」
「おはよう、ユリウス。アクセルとイジドルもおはよう。何も問題は起きなかったみたいだね」
「おはようございます。何もありませんでした」
二人の返事に笑顔でうなずくお兄様。俺に直接聞かないところがいやらしい。そんなことよりも、ちょうど良いところに来たぞ。
「お兄様、この手紙をダニエラ様に渡していただきたいのですが。中には氷室の改良期間について書いてあります」
「改良期間? なるほど、急ぎなのかどうなのかってことだね。分かったよ。必ずダニエラ様に届けておくよ」
あとはこの手紙の返事次第で動きが変わるな。しばらくの間、訓練に参加しないことになったら二人が残念に思うかな。
そうだった、万能薬が完成すれば、午前中の時間を氷室の改良に使うこともできるようになるのか。要検討だな。
とりあえず今日はいつも通りに過ごすことにした。アクセルとイジドルは今日の午前中一杯まで俺に付いてきてくれるようだ。今から家に帰っても手伝わされるだけだし、家とお城と何度も往復するのは、何だか損したような気がするらしい。
「それではお兄様、私たちは調合室に行ってきます。特に報告が来ていないので、問題は起きていないと思います」
「それなら私も一緒に行くよ。どんな状態なのか一度見ておきたいと思っていたところだからね。そうだ、ダニエラ様もお誘いしてみようかな」
「やめた方が良いですね。臭いがあまりよろしくありませんので」
俺がそう言うと、アクセルとイジドルの顔がクシャクシャになった。あの独特の臭いを思い出したのだろう。それを見たお兄様も察したのか、苦笑いを浮かべている。
そんなお兄様を連れて調合室に行くと、やはり嫌な臭いがしていた。
「おはようございます。問題は起きていませんか?」
「おはようございます、ユリウス先生。問題は起きていませんが、交代で作業をするのがちょっと……」
「みなさん交代したがりませんか」
「はい」
どうしたものか。みんな熱心なのは良いことだが、本来休憩するべき人が休憩せずに調合室にいるのだろう。ここはシフト表を出してもらうべきだろう。
みんなにさらなる負担をかけるわけにはいかないので、俺がそれぞれのチームを回って個人の作業時間を記録していく。なるほど、大体分かった。
「みなさんが自主的に休まないようなので、私が強制的に休ませます。最初に名前を呼ばれた人は隣の休憩室で睡眠を取るように。次に名前を呼ばれた人はお風呂に入ってから食事です」
そうして事細かに指示を出した。王宮魔法薬師たちは俺の指示に素直に従った。良いのかそれで。良いんだろうなぁ。これはチームごとにリーダーを決めた方が良かったかな? 次からはそうしてみるか。
俺がテキパキと指示している様子をアレックスお兄様が感心したかのようにうなずきながら見ていた。あの、困るんですけど……。
指示出しも終わり、一息つくことにした。さすがにいつまでもこの独特の臭いがする空間にお兄様をとどめておくわけにはいかない。
アレックスお兄様に休憩の話をすると、いかにも高位貴族しか使えないような談話室へと連れて行かれた。三人で縮こまりながらお茶を飲んでいると、ダニエラ様がやってきた。
まあ予想通りだな。アクセルとイジドルの背筋がシャンと伸びた。
「私にお話があるとうかがいましたわ」
「お手数をおかけしてしまって申し訳ありません」
「良いのですよ。頼ってもらえて、うれしいですわ」
本心からそう思っているのだろう。柔らかい笑顔を向けたダニエラ様に手紙を差し出した。手紙を読み終わると、隣に座っていたお兄様にその手紙を渡した。
「この件に関しては、私から国王陛下に確認をしておきますわ。急いでいる様子はなかったので、心配は要らないと思いますよ」
「そうですか。それはありがたい」
どうやら訓練の時間を削る必要はなさそうだ。そのことに気がついたのか、二人がホッと息を吐いた。そんなに俺と一緒に訓練がしたいのか。そう言えば、俺が訓練を受けるのは社交シーズンだけか。残りの時間はそれほど長くはないな。
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