第200話 気になる弟子たち

 おなかがこなれたところでお風呂に入ることになった。使用人に聞いたところによると、大浴場と個室のお風呂があるらしい。ちなみに部屋付きのお風呂はなかった。それもそうか。そんなことをしていたら、いくらでも風呂が必要になるよね。


「大浴場と個室、どっちのお風呂がいい?」

「個室で良いんじゃないのか? 貴族は大浴場に入りたがらないって聞いたことがあるぞ」

「別にそんなことはないさ。広いお風呂の方がゆっくりと入れるからね。でもそうだね、せっかくだから個室にしてみよう」


 使用人に目配せをすると、すぐに動いてくれた。どうやら個室は事前に予約しておく必要があるらしい。そんなに数はないのかな。しばらくすると、今ならすぐに入ることができると言われた。


 そんなわけで、さっそく個室のお風呂へと向かった。どうやら個室のすぐ隣は大浴場になっているようである。個室は三つほどあった。


「ここが個室のお風呂か。思ったよりも広そうだな」

「思ったよりもって、ずいぶん広いぞ?」


 アクセルが困惑しているが、ハイネ辺境伯家にある風呂に比べると一回りほど小さかった。高位貴族向けのお風呂だから、それなりに大きいと思っていたのだが、お城の中ということもあり、広さに限度があるのだろう。


「ユリウスの家のお風呂はこれよりも広いんだね」

「まあね」


 脱衣所で服を脱いでお風呂に入る。浴槽には並々とお湯が張ってあった。浴室の中を見渡して見たが、シャワーはないようだ。どうやらまだ王都には普及していないようである。便利なのに。


「どうしたの、ユリウス? キョロキョロしてさ」


 イジドルが前を隠しながら聞いてきた。男同士なんだし、そんな気遣いは無用だと思う。まさかイジドル、女の子じゃないよね? 胸は隠してないし大丈夫か。


「シャワーがないなと思ってさ」

「ああ、ユリウスが言っていた先端からお湯が出る魔道具のことか。そんなに良いものなら、俺も使ってみたいな」


 その魔道具を想像しているのか、アクセルは宙空に目を向けている。実物を見たら、きっとその使い勝手の良さに気がついてくれるはずだ。王都にいる間に作ってプレゼントしてあげようかな? 剣術の練習で体を動かすから汗を大量にかくだろうし、良いかも知れない。


「王都にはまだしばらく滞在することになるし、作ってあげるよ。そんなに難しい魔道具じゃないしね。イジドルにも作ってあげよう」

「本当!? やったー!」

「ありがとう、ユリウス。楽しみにしてる」


 そんな二人と肩を並べながら体を洗う。桶でお湯を汲んでかけてを繰り返す。うん、やっぱりシャワーの魔道具があった方が便利だな。

 さすがにこの場には使用人はいない。体を洗うと言っていたのだが、丁重にお断りした。ちょっと残念そうにしている二人が印象的だった。スケベか。


「んー、貴族専用の風呂も俺たちが入る風呂とそんなには変わらないのか」

「水を温めただけだからね。中身は同じだよ」

「甘かったりするのかな?」

「本当に飲むんじゃないぞ、イジドル」


 最初は豪華なお風呂の装飾に萎縮していた二人だが、だんだんと慣れてきたようである。見た目以外はいつものお風呂と変わらないことに気がついたようである。

 ガッカリさせてしまったかな? ゆずでも浮かべておけば良かったかな。


 お風呂から上がると、もう一度、調合室へと向かった。何だかんだ言って、やっぱり気になる。ここまで来たらあとは現状を維持するだけなので問題はないと思うのだが、どうも弟子たちの様子が気になるらしい。


「ユリウス先生、見に来て下さったのですね」

「ええ、ちょっと気になったもので。でもこれなら私がいなくても大丈夫そうですね。安心しました」

「それは我々の言葉ですよ。ユリウス先生が見に来てくれるので、安心して鍋と向かい合うことができますよ」


 夜もだんだんと更けてきて疲れもたまっていることだろう。それなのに、調合室の雰囲気は明るかった。疲労の色はそれほど見えない。


「そうだった、氷室を改良する許可がようやく下りましたよ。さっそく明日から取りかかろうと思います」

「おお! これは朗報だ。我々に手伝えることがあるなら何でも言って下さい」

「ありがとう。でも今は、魔法薬を作るのに集中して下さい。完成までにはまだまだ時間がかかりますからね。最後まで気を緩めてはいけませんよ」

「はい」


 しっかりとうなずく王宮魔法薬師たち。難易度の高い魔法薬を作っているという自覚はあるようだ。気の緩みさえなければ大丈夫。


「ユリウスは間違いなく先生だね」

「イジドルの言う通りだな」


 どうやら二人は俺が魔法薬の先生であることに納得しているようである。良いのか悪いのか。信頼されているみたいなので、良いんだろうなぁ。

 何だかアクセルとイジドルから熱い視線を感じるような気がする。ちょっとこそばゆいぞ。


 調合鍋の確認を終えた俺たちは部屋へと戻った。あとは明日に備えて寝るだけだな。王城に泊まるのも今日一日だけで済みそうだ。あの状態なら、問題なくあと二日間の調合を行うことができるはずだ。


「ユリウス、明日はどうするんだ?」

「明日はいつも通り午前中に調合室に行って、午後からは魔法の訓練だね。その後に氷室の改良になるのか。……あれ? 思ったよりも忙しいぞ」

「確かにそうだね。その日程だと、氷室の改良が終わるまでには時間がかかりそうだね。大丈夫なの? 国王陛下に怒られたりしない?」

「どうかな?」


 イジドルが言うように怒られるかな? でも早急に作って欲しいという感じではないような気がするんだけどな。

 こんなときはアレックスお兄様に相談だ。今ならダニエラ様でも良いな。頼って欲しいと思っているのかも知れない。ここは交流を深めるためにも、ダニエラ様に聞いてみるとしよう。




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