第199話 監視役兼護衛
二人と魔道具のことを話しているうちに夕食の時間になった。どうやら夕食は部屋まで運んでくれるそうである。良かった、国王陛下と一緒に食事をするとかじゃなくて。
「夕食の準備ができるまで、ちょっと調合室の様子を見てくるよ」
「俺たちもついて行くぜ」
「え、ボクも!?」
調合室のあの臭いを思い出したのか、顔をしかめたイジドルが驚きの声を上げた。別に強制する気はないのだが、アクセルはイジドルを連れて行きたいようである。
「そりゃそうだろ。俺たちはユリウスの監視役兼護衛だぞ」
「そ、そっか~」
納得したのか、イジドルがソファーから立ち上がった。どうやら監視役であるという自覚はあるみたいだ。……やっぱりそう思うよね? 俺ってそんなに何を仕出かすか分からない人物なのかな。ちょっとへこむ。
調合室には相変わらず独特の臭いが充満していた。だがしかし、先ほどの俺の指導が良かったのか、それとも王宮魔法薬師の腕が良いのか、特に指摘する箇所はなかった。
「みなさんすごく良い感じになってますよ。これなら私の指導はもういりませんね」
「何を言っているのですか。ユリウス先生の指導が的確で、とても分かりやすかったからですよ」
「そうですよ。温度管理、圧力管理、私たちは新たな境地を切り開きましたよ」
それはちょっと言い過ぎなのでは、と思ったのだが、どうやらそうでもないらしく、みんなの目はキラキラと輝いていた。どうやら俺の教えを他の人にも教えているようである。
この団結力なら万能薬は問題なく作ることができるな。
万能薬を作ることができれば、それと同レベルの難易度の魔法薬も問題なく作ることができるようになる。高度な魔法薬は数人がかりの数日かがりで作ることになるからね。
ここは現実世界。ゲームの中とは違うのだ。チート能力を持つ俺と同じようにはいかない。
無事に万能薬が仕上がっていることを確認すると、ちゃんと交代で食事と休憩、それから睡眠を取るようにと指導した。口を酸っぱくして言ったので、あからさまに無視する人はいないだろう。
調合室の様子見も終わり、部屋に戻ると、夕食の準備が整っていた。どうやら俺たちが調合室を出たタイミングで準備を始めてくれていたようだ。料理はどれも温かいままである。
「すごい豪華!」
「ほらイジドル、ちゃんと石けんで手を洗うんだよ。風邪を引くと困るからね」
手洗いとうがいをしっかりやらせてから席に着いた。いつもの様に神に祈りをささげてから食事を食べる。本日の夕食はローストビーフに黄金色のスープ、パンに新鮮なサラダである。どれもおいしかった。
「こんなにおいしいものが食べられるなんてな。予想もしてなかったぜ」
「そうだね。しっかりと味わっておかないと」
「おかわりもあるから、遠慮なく食べていいよ」
そう言いながら、三人で食事を食べる。テーブルマナーなんて気にしない。好きなように食べた方がおいしいに決まっている。良かった、二人が一緒に泊まってくれて。これが俺一人だったら、「国王陛下やダニエラ様と一緒に食事」なんてこともあり得たのだ。
ひたすらテーブルマナーを気にしながら食事をするなんてとんでもない。絶対に味がしなかったはずだ。
「二人がいてくれて良かったよ」
「いきなりどうしたんだよ」
「何かあったの? ボクで良ければ相談に乗るよ?」
その気持ちだけで十分である。そう言うと二人から変な顔をされた。これで俺にも王都での友達ができた。出会いがあれば別れもある。それが生きているってことだよね。
クロエ様とキャロリーナ嬢のことが気になったが、俺の力ではどうすることもできないのは事実だ。この世界は貴族社会が息づいている。その呼吸に従うしかないのだ。
「そう言えば、ユリウスは王宮魔法薬師の指導のために王都に来てるんだよね? それが終わったらどうするの」
「終わったら領都に戻るよ。元々領都から外に出る予定はなかったからね」
「それじゃ、もう王都に来ることはないのか」
アクセルが目をさまよわせた。俺は首を振ってそれを否定した。
「今回みたいに国王陛下に呼び出されることがあるかも知れない。それに王都には新しい物がたくさん入って来るからね。時代の流れに取り残されないためにも、これからはなるべく王都に足を運ぶようにしようと思っているよ」
さすがに王都に住むつもりはない。ここでは自由が利かないからね。それに領都には大事な人たちがいる。それを捨てるわけにはいかない。
「そっか~、それじゃボクたちがハイネ辺境伯領に行くのも良いかも知れないね」
「その時は歓迎するよ。ハイネ辺境伯領には王都に負けないくらいの色んな特産品があるからね」
「楽しみだな、必ず行くよ」
そんな話をしながら食事は進んで行った。
食事も終わり、三人でカードゲームをしていると、使用人が手紙を持って来た。アクセルとイジドルの両親からの手紙である。
「もしかして、宿泊禁止とか書かれているのかな?」
「そんなわけない。もしそう書かれていても、無視だな」
「そんなことして大丈夫なの? お父様にぶたれるよ」
イジドルが心配そうにしてる。そんなイジドルをアクセルが笑った。
「それじゃイジドルは父親に燃やされるな」
「しないよ、そんなこと!」
さすがに家庭内で魔法を使うことはないか。まあ、そんなことをしたら警備兵に捕まるな。ちょっとドキドキしながら、使用人に渡されたペーパーナイフで手紙の封を切った。
どちらの手紙も宿泊を非難するものではなく、よろしくお願いしますと書いてあった。
そうだよね。有力貴族からよろしくお願いしますと言われたら、断ることはできないし、むしろつながりができたと思って喜ぶのが普通だよね。俺の悪評が出回っていたら話は別だろうが、今のところはそんなことはなさそうだ。
「二人をよろしくって書いてあった」
「まあ、そうだろうな」
「そうだよね」
ホッと息を吐いたイジドル。もしかしたら怒られるかも知れないと思っていたのだろう。アクセルはそうでもないが、イジドルは繊細なのかも知れないな。その辺りは気をつけて付き合う必要があるな。
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