第153話 王都での友達

 見慣れない剣をジッと見つめるアレックスお兄様。この謎の沈黙が怖いぞ。俺はドキドキしながらお兄様の顔を伏し目がちに見つめた。

 しばらくすると、一つため息をついてその剣を俺に返してくれた。


「大事にするんだよ。それにしても、そんな形状の剣を使うのは初めてだろう? ちゃんと使えるのかい? 私の友達にそれとよく似た剣を持っている人がいるんだけど、戦い方が独特だったよ」


 おおう、もしかして侍がいるのかな? だからアレックスお兄様はこの剣を見て不審に思ったのか。確かに一般的な騎士の「剣と盾」のスタイルとは違うからね。刀一本で剣にも盾にもなるのだ。しかも両手で武器を持つ。


「観賞用に良いかなと思っています。珍しい剣みたいですからね」

「ああ、なるほど。そうするつもりだったのか。刃の部分にキレイな紋様があるからね」


 納得したかのようにウンウンとうれしそうにうなずくアレックスお兄様。ふう、どうやらごまかすことに成功したようだ。何とか危機を脱したな。


「あれ? でもユリウスはその剣を使いこなしていたよね?」


 ピタリと動きが止まったアレックスお兄様は、グルンと音がしそうな勢いで顔をカインお兄様の方に向けた。チッ、余計なこと言いやがって!


「カイン、その話、詳しく」


 その時のできごとをかくかくしかじかと話すカインお兄様。しまいには一緒にいた騎士も呼び出して話していた。あの時の光景を思い出したのか、若干興奮気味に話す騎士。

 俺はその隙にスタコラサッサとその場から逃げ出したのであった。




「うーん、お父様の手紙によると、ユリウスが王城に登庁するのは七日後なんだけど、早めた方が良いかも知れないな」


 夕食の席で、アレックスお兄様が突然そんなことを言い始めた。あごに手を当てて、真剣な顔をしている。何かあったのかな?


「どうしてですか?」

「だってほら、ここにいてもユリウスはすることがないだろう? それにここでこれ以上問題を起こされるのは困るしね」

「……」


 早くもアレックスお兄様の中で問題児にされてしまったぞ。まだタウンハウスに来てから二日しか経過していないのに。俺の隣でカインお兄様がウンウンとうなずいている。

 個人的にはカインお兄様も一枚噛んでいると思うんだけど……だって俺を止めなかったし、脇差しにいたっては勧めてきたのはお兄様だよね? 納得がいかないぞ。


「ユリウスの友達が王都にいれば良いんだけど、いないんだよね?」

「そうですね……いるとすれば、クロエ様とキャロリーナ嬢くらいですかね?」


 それを聞いたアレックスお兄様が腕を組んで考え込んでいる。俺がどっちのところに行っても困ることになるよね。

 クロエには婚約者の問題が、キャロには、キャロの姉のヒルダ嬢とアレックスお兄様の気まずい関係が。どちらも俺のせいじゃないぞ。

 それにキャロは今、クロエのそば仕えとして一緒にいるはずだ。


「やっぱり登庁を早めた方が良いな。クロエ様もキャロリーナ嬢も王城にいるだろうからね」


 どうやら面倒事を王城に押しつけるつもりだぞ。それとも、王城なら俺が問題を起こすことはないと思っているのかな? でもね、お兄様。ミラの前例があるよ。それに、お兄様は知らないかも知れないけど、万能薬でもやらかしている。

 うん。やっぱり俺はトラブルメーカーだな。領都で大人しくしていた方が良かった。


 カインお兄様は明日からは王都にいる友達と再会するつもりなのかな? そこに紛れ込んで交流を広げるという方法もあるな。

 アレックスお兄様は明日も生徒会なのかな? さすがにそっちについて行くのはダメそうな気がする。


「カインお兄様は明日、お友達に会いに行くのですよね? ついて行ったらダメですか?」


 うわ、めっちゃ嫌そうな顔してる! まさかそんな顔をされるとは思ってなかったぞ。もしかして、彼女に会いに行くつもりだったのかな? それで新しい剣を購入していたのかな?

 反応が悪いカインお兄様とアレックスお兄様を交互に見た。

 アレックスお兄様は何かを知っているのか、困ったような顔をしている。


「カインは都合が悪そうだよ」

「そうですか。カインお兄様が好きな人に会いに行くのなら、邪魔はできませんね」

「ちょ、ちょっと待った! そ、そ、そんなことは別にないぞ?」


 アレックスお兄様と二人で生暖かい目でカインお兄様を見つめた。カインお兄様が目をそらした。間違いない。あれはウソを言っている目だ。


「良いんだよ、カイン。君だってそろそろ婚約者候補が必要になるからね。あとでどこのお嬢さんなのか聞きに行くからね」

「……はい」


 観念したようである。どんな女の子を好きになったのか気になるが、これは俺が恋のキューピットになったようなものだろう。ほめてくれても良いんだよ? あ、カインお兄様から恨めしそうな目で見られたぞ。さっきのお返しだ。


「それじゃますますユリウスを王城にお願いするしかなくなったね」

「心配はいりません。一人でも大丈夫ですよ。私ももう十歳なんですから、自分のことは自分でできますよ」

「そうかも知れないけど、面倒事を起こされるのはちょっと……」


 あ、これダメなやつ。全然信用されてないぞ。

 まあ確かにここにいてもすることがないので、調合室を用意してくれているという王城に行った方が、することがあって良いのかも知れないけどね。でも予定よりも早く行ったら相手の迷惑にならないかな?


「よし、それじゃあ、王城に手紙だけ送ってみるよ。ユリウスがすでに王都に到着したってね。まずはそれで様子を見よう。お城から催促の手紙がくれば登庁する。どうかな?」

「それで構いませんよ」


 さすがはアレックスお兄様。何だかんだ言っても無理やり押しつけてくることはないんだよね。ちゃんと嫌がることはやらせないという配慮がある。だからこそ、俺が何をしたのかが気になるのだろう。アレックスお兄様のコントロール下に俺を置きたいのだ。そして俺もその方が良いと思っている。安心して任せられるからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る