第123話 黒幕はだれだ
しばらく手紙を見ていた国王陛下はそれを宰相に渡した。宰相はこちらを気にしながら手紙を見た。ややあって考え込んだ。
「ふむ、上級回復薬に強解毒剤ですか。どちらも貴重な魔法薬ですね。ですがこの二つなら、すでに宮廷魔法薬師も作ることができます」
「そうか。それを聞いて安心した。その作り方まで教えてもらわなければならないかと思ったぞ」
国王陛下が息をはいた。宰相が苦笑いしている。どうやら国王陛下は上級回復薬と強解毒剤を、宮廷魔法薬師が作れないかも知れないと思ったようである。その発想はなかったわ。
「必要な素材が全てそろっているかは分かりませんが、万能薬を作ることは可能でしょう」
「うむ、早急に作らせるとしよう。ところでユリウス、宮廷魔法薬師としてここで働く気はないか?」
え? 宮廷魔法薬師として? 考えたことなかったな。でもそれって国に直接雇われるってことだよね。そうなると、魔法薬を改良したとしても世界中に広めることができなくなるんじゃないかな。実際に宮廷魔法薬師が使っている魔法薬の作り方は公開されてないしね。
効果の高い魔法薬、飲みやすい魔法薬が国内だけで生産されていれば、外交カードとして使えるもんね。俺の思惑とはちょっと違うような気がする。俺は世界中の人に分け隔てなく魔法薬を使って欲しい。
「ありがたいお話ですが、私はまだ子供ですので……学園を卒業してから結論を出したいと思います」
「そうか、分かった。それまで待つとしよう」
何とか納得してもらえたようである。それまでに何とか手を考えておかないといけないな。他国に留学するか、修行の旅に出るか、それとも他に何か手があるのか。
俺がうつむいて考えていると、宰相が今回の事件についてのことを話し出した。良いのかな、こんな話を聞いても。もしかして、そのためのこの機密の部屋なのか?
「今回、毒殺という卑劣な手を使ったのはどうやら隣の大陸のラザール帝国のようだ」
「ラザール帝国……なぜ分かったのですか?」
お父様がうめくような声を出した。俺は初めて聞く名前だが、何か知っている様子である。この国と仲が悪いのかな?
「使われた毒が特殊でな。調査によるとラザール帝国のとある場所でしか採取できない希少な毒らしい。そのためヤツらはそれを無効化することができる魔法薬があるとは思っていなかったようだ」
「実行犯がそう言っていたのですか?」
「ああそうだ。実行犯は毒味役の一人だったよ。この日のために、二十年も前から毒味役としてこの国にいたらしい。これでこの国も終わりだと笑っていたよ」
うーん、とお父様が唸り声を上げた。「この国も終わり」と言っていたならば、国王陛下の死をきっかけに何かことを起こすつもりだったのかな? でも国王陛下が健在だったので未遂に終わった。そう言うことだろう。
「他国の動きは?」
宰相は首を左右に振った。なかったのだろう。それもそうか。国王陛下に何かあったことは公表されなかったもんね。相手も動くに動けなかったのだろう。
「確か、ラザール帝国は隣国のルンドアル王国と交流がありましたな」
「その通りだよ、マクシミリアン。だが証拠は何一つない。無関係であると思いたいところだな」
目を閉じ、眉間に深いシワを作りながら国王陛下がそう言った。先生に習った内容では、ハイネ辺境伯家があるスペンサー王国は、現在明確に敵対している国はなかったはずだ。隣国のルンドアル王国とも良好な関係だと聞いている。
もしかして、スペンサー王国とルンドアル王国の仲を引き裂こうとした? それとも、スペンサー王国に何かあれば、ルンドアル王国が攻め込むようになっていた? うーん、情報が少なすぎて分からないな。
「現在、ラザール帝国とのつながりを調査中だ。この話をしたのはハイネ辺境伯に注意喚起をしたかったからに他ならない」
「心中、お察しします」
幸か不幸か、ルンドアル王国と国境を接している領地にはハイネ辺境伯が含まれている。そしてその領地の中でも最大の広さと戦力を持っている。頼りにされるのは当然のことだろう。これはアレだな。これまでのように、お父様が領地を離れるわけにはいかなくなったな。
まあ、今年一年を何とか無事に過ごすことができれば、来年からはアレックスお兄様がお父様の補佐として付くことになる。そうなれば王都や他の領地での情報収集や貴族関係の維持も、問題なく行うことができるだろう。
もしかすると今回の毒殺事件はお婆様だけでなく、お爺様も狙っていたのかも知れないと邪推してしまいそうだ。まだルンドアル王国が敵だと決まったわけでもないのに。
「頼んだぞ、マクシミリアン。それでユリウスへの報酬についてだが、名誉魔法薬師勲章を授けよう」
「ありがとうございます」
何だその勲章は。よく分からないが取りあえず頭を下げておく。国王陛下がくれるものを拒んではいけない。これ臣下の鉄則。
「本来なら大々的な式典を開いて授けるものなのだが、今回はそう言うわけにはいかない。すまないがここでの受け取りとなる」
「ご配慮いただき、ありがとうございます」
宰相がどこからともなく箱を取り出した。中にはエメラルドグリーンのリボンが付いた金色のメダルが入っていた。お父様に促されて国王陛下のそばに立つ。
国王陛下がその勲章を俺の左胸に着けてくれた。
「これでユリウスが魔法薬を作っても法律違反にはならない。今後もこの国のために励んで欲しい」
「はい。もちろんです」
お父様と共に深々と頭を下げた。どうやらこの勲章があれば、魔法薬を作りたい放題になるらしい。
あれ、これってもしかして、俺もう学園に行く必要ないよね?
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