第104話 人気者
お茶会の準備は整った。あとはみんなが来るのを待つだけである。おっと、忘れないうちに魔道具や魔法薬を並べて置かないといけないな。
使用人に頼んで持って来てもらっていると、ロザリアがミラを連れてやってきた。
「お兄様、このドレス、どうでしょうか?」
「キュ?」
ロザリアは薄い黄色の生地をした華やかなドレスを身にまとっていた。リボンがたくさんついており、元から持っている可憐なかわいさをさらに引き立たせていた。髪もリボンで結ばれている。さすがに宝石類は身につけてはいなかったが、それでも十分にロザリアの魅力が際立っていた。
「良く似合ってるよ。どこからどう見てもお姫様だね」
「キュ!」
ロザリアがお淑やかに笑い、ミラが自分を見てと言わんばかりに声を上げた。ミラは……ミラにも首元にリボンがつけられている。有りなのか、これ? でも本人は喜んでいるみたいだしな……。
「ミラも良く似合っているよ。かわいいね」
ミラの頭をなでる。その手にミラが頭突きをしてきたところを見ると、喜んでいるみたいである。聖竜にオスメスの区別はないと聞いたが、ミラはメス寄りなのかも知れない。
それならば、これからはそっちの方向で接した方が良いのかな?
使用人に持って来てもらった魔道具と魔法薬を並べて行く。ロザリアが手伝おうかとしていたが、ドレスが汚れるといけないので断った。ロザリアは「このドレスにしたのは失敗でしたわ」とつぶやいていた。どうやら自ら魔道具を使って、みんなに紹介したかったようである。
ミラは散水器の魔道具を、今にも星が湧き出そうなほどのキラキラした目で見ていた。ビショビショになると困るので触らせないよ、ミラ。そんなミラを小脇に抱えてテーブル席へ移動する。もうすぐみんながやって来るはずだ。
「お兄様、なんだか見たことがない魔法薬があるのですが?」
「ああ、それは化粧水とハンドクリームだね。ファビエンヌ嬢やナタリー嬢、メリッサちゃんに魔法薬に興味を持ってもらおうと思って作ったんだよ」
「ハンドクリーム?」
「そうだよ。これを手につけると、手がキレイになる、かも知れないんだよ」
まずいまずい。変なことをロザリアに吹き込むと、自分も欲しいと強請られることになるぞ。それがお母様に伝わって、お母様から……考えただけでも恐ろしい。チラリとロザリアを見ると、化粧水とハンドクリームをガン見していた。
「お兄様」
「ろ、ロザリアにはまだ早いんじゃないかな? まだ子供だから、必要ないよ」
「お兄様、私はもう子供ではありませんわ!」
出たよ、子供特有の自分は子供ではない発言。一人でお風呂に入れないような子が大人なわけありません! それに胸もペッタンコだぞ。大平原も良いところだ。ロザリアはほほをフグのように膨らませていたが、それ以上は突っ込まなかった。
「ユリウス様、エドワード様がお見えになりました」
「すぐに迎えに行くよ。それじゃロザリア、ミラ、良い子にして待っているんだよ」
そう言って二人の頭をポンポンして玄関へと向かった。手のかかる子供が二人もいると大変だ。
玄関前にはすでに馬車が到着していた。どうやら間に合ったようである。すぐに馬車からエドワードが降りてきた。
「ようこそ、エドワード殿」
「本日はお招きいただきありがとうございます」
社交辞令の挨拶を交わすと、肩をたたき合った。
「冬が本格化する前にお茶会を開催できて良かったよ。みんなに紹介したいことがあるんだ」
「新しい魔道具ですか? 楽しみですね。王都に行ったと聞きましたが」
「ああ、お爺様とお婆様が毒にやられてしまってね……どちらも俺が到着する前に亡くなっていたよ」
「……そうですか。残念です」
肩を落としたエドワードを連れて、そのまま中庭に移動した。一緒に悲しんでくれるエドワードとは良い仲間になれそうだ。
エドワードは中庭に入ると足を止めた。ロザリアとミラが座っている方を見て、口をパクパクさせている。その様子は昔動画で見たことがあるくるみ割り人形にそっくりだった。
「ユリウス様、あれ、あれ……」
エドワードの語彙力が一気になくなった。吹き出しそうになったのを何とか堪えた。吹き出してはダメだ。失礼だぞ。
「紹介するよ。新しく家族になった、聖竜のミラだよ。今日はミラを紹介するためにお茶会を開いたんだ。ほら、ミラ、挨拶して」
「キュ!」
ミラが「ヨッ!」とばかりに片手を上げた。一体だれにそんなことを教わったんだ。ロザリアか? その様子を見たエドワードは口元をはわはわと波立たせていた。どうやら何かの琴線に触れたらしい。
「こ、言葉が分かるのですね。あの、触ってみても?」
「キュ」
俺が返事をするよりも先に、ミラが頭をエドワードの方に差し出した。なでろと言うことなのだろう。その頭にゆっくりと手を伸ばすエドワード。手のひらがミラの頭に到達すると、味わうようになでていた。その顔はだらしなく歪んでいた。
よしよし、どうやらミラが恐れられることはなさそうだな。まあ、パッと見、動くぬいぐるみだもんな。畏怖の対象にはならないか。
その後も次々と友達がやってきた。それぞれにミラを紹介すると、エドワードと同じような反応を示した。
大変人気のようである。主催者である俺をそっちのけでキャーキャーとミラを取り合っていた。ちょっと寂しい。
そんな中でも、やることはやった。まずは魔道具の紹介だ。
「この短期間にまた新しい魔道具を作ったのですね。水やりが楽になる魔道具ですか。これがあれば、我が家の庭師も喜びますよ」
「そうかな? これは思ったよりも需要があるのかも知れないな。そのうち魔道具店に並ぶと思うよ」
「それよりも、自分で作ってみたいです」
エドワード、ビリー、プラトンの三人の目が輝いている。別に独占するつもりはないので、設計図を渡しておくことにした。『クラフト』スキルがないと加工が難しいのだが、その過程でスキルが身につくかも知れないし、無駄にはならないだろう。
三人とも大変喜んでいた。そして開発者の一人であるロザリアと楽しそうに魔道具話に花を咲かせていた。うんうん、良い感じだ。仲良くなってくれれば、将来に期待できるぞ。
「ユリウス様、この化粧水とハンドクリームを試してみることはできませんか?」
「もちろん構わないよ」
お、こっちはこっちで食いついたぞ。さすがは女の子。美しさに興味を持たない女の子はそれほどいないだろう。俺は使用人の一人を呼んだ。
「ハンドクリームを使うとこんな感じになるよ」
使用人に両手を見せてもらう。そこにはツヤツヤでピカピカの両手があった。手荒れの手の字もなかった。
「先日までは本当に手荒れがひどかったのですよ。それがユリウス様からいただいたハンドクリームのおかげで、一晩でこうなりましたわ」
弾むような声でそう言った。そこに嘘偽りはないと見た、ファビエンヌ嬢、ナタリー嬢、メリッサちゃんがハンドクリームを手につけた。
三人ともすでにキレイな肌をしているからあまり効果は見られないかな? と思っていたのだが……予想に反して、さらにツヤツヤのピカピカになっていた。
ちょっと効果、高すぎない!?
「ユリウス様、こちらの化粧水を試してみても?」
暗がりに潜む猫の目のように、目を輝かせたファビエンヌ嬢が代表で聞いてきた。
「あ、ああ、うん、もちろんどうぞ」
その眼力に思わず腰が引けた。
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