第103話 日頃の感謝に
お茶会に招待したのは、ファビエンヌ嬢、ナタリー嬢。それから魔道具作成仲間のエドワード、ビリー、プラトンの三人組だ。
ロザリアは親友のメリッサちゃんを呼んだみたいである。
三人組は魔道具師の道に進むと思う。となれば、魔法薬師の道に引きずり込めるのはファビエンヌ嬢、ナタリー嬢、メリッサちゃんの女の子三人組だろう。魔法薬師仲間を増やすんだ。頑張ろう。
当初の予定ではお茶会のときにこれまで開発した魔道具を紹介しようと思っていたのだが、これまで作った魔法薬も加えることにした。お婆様の遺作と言えばたぶん大丈夫だろう。
それにしても、学校を卒業して資格を取らなければ魔法薬を作ってはいけないという縛りのおかげで、魔法薬の魅力を普及できない。一度みんなの前で魔法薬を作っているところを見せることができれば、もっと興味を持ってもらえるかも知れないのに。これが大きな足かせになっているような気がする。
だからと言って、使い方を誤れば毒になる魔法薬を、だれにでも作らせるわけにはいかない。……これは魔法薬師仲間を増やすのは学校に通い始めてからになりそうだな。それまでボッチで魔法薬を作るしかないか。
というよりも、俺、違法で魔法薬を作ってるんだよね。犯罪者であることを自覚しなければならないな。お父様とライオネルが見逃してくれているからと言って、甘えていてはいかんな。
今回は「こんな素晴らしい魔法薬もありますよ」くらいの紹介で終わらせておこう。これでだれかが興味を持ってくれたら万々歳だ。それにメインはミラのお披露目だもんね。主役を差し置いてはいけない。ダメ絶対。
そうと決まれば、女性陣を魔法薬の世界に引き込めるようなアイテムを準備しておかなければならないのではないだろうか?
女性陣が喜ぶ、魔法薬っぽいアイテム。それは化粧品。いつの時代も女性は美を追い求めるのが世の理である。うん、そうしよう。
ゲーム内にもいくつか化粧品があったな。まずはすぐに作れる化粧水から作るかな。あとは使用人たちの手荒れがひどそうなので、ハンドクリームを作ってプレゼントしてあげよう。
そうと決まれば、善は急げだ。俺はすぐに調合室にこもった。入り口の扉には立ち入り禁止の札をつけている。
化粧水もハンドクリームも、必要な素材は薬草である。本当に薬草は万能だな。残りの素材は味付け程度にあれば十分である。
片手鍋に蒸留水を入れると、薬草をそのまま投入する。それをゆっくりと加熱していくことで、薬草からほのかな治癒成分を抽出するのだ。回復薬のような強い作用は必要ない。毎日つけることで、ジワジワと効果を発揮するのが重要だ。
他にも、チーゴの実を投入した。チーゴには魔力回復成分がある。その成分を入れることで、自己再生による肌の改善に、魔力回復ブーストが加わるのだ。そしてさらに、乾燥させて細かく砕いた毒消草をひとつまみ入れる。そうすることで、抗菌能力を発揮するのだ。
出来上がった化粧水は赤茶色をしており見た目が良くない。そこで多孔質の活性炭でろ過することで、無色透明の溶液に仕上げた。それを見栄えの良いガラスビンに入れれば完成だ。ガラスビンは『クラフト』スキルを使って俺が作り出したものである。ビンのフタに鳥の装飾が施されている。色々と頑張った品である。
化粧水:最高品質。肌を艶やかにする。効果(小)
さすがにその辺りでお手軽に手に入る素材だけを使ったので効果は低い。だが、お年頃の女の子たちには効果が強すぎずちょうど良いだろう。
試しに自分の腕に使ってみた。予定通り艶やかになったが、男が使うのは違う気がする。顔で試さなくて良かった。それをやっていたら、絶対に目立っていたはずだ。
「よし、バッチリだな。次はハンドクリームだけど、これは水虫薬の延長線にあるからな。サクッと作ってしまおう。香料は……仕事に使うものだから無臭の方が良いな」
薬草、毒消草、冬虫夏草、蜜蝋を練り混ぜてハンドクリームを作成する。こちらも最高品質のものができたので、効果はバツグンのはずである。
出来上がったハンドクリームをさっそく使用人たちに渡しに行った。
お茶会は明日である。今はその準備をみんなでしてくれているはずだ。明日は天気が良さそうなので、庭でお茶会を開催することにしていた。それならミラも自由に動き回ることができるし、先日作った散水器の性能も披露できるからね。
「お茶会の準備は順調みたいだね」
「ユリウス様、滞りなく進んでおりますわ」
「いつもありがとう。これはそのお礼だよ」
「え? あ、ありがとうございます?」
頭にたくさんの疑問符をつけながら受け取る使用人。そんな調子でみんなにハンドクリームを手渡して行った。もちろん、男女問わずである。料理人たちの分もあるので、もちろん渡しに行った。
使ってくれると良いんだけど、ちょっと怪しいかな? 俺としては日頃の感謝の印を示しただけだし、だれか一人くらいは使ってくれるだろう。
だがしかし、俺の予想は大きく外れることになった。どうやら俺が魔法薬を作っており、それが騎士団で使われていることは、公然の秘密になっていたみたいである。
翌日、使用人たちの手はピカピカになっていた。そしてその顔はニコニコになっていた。
これはあれだな。定期的にハンドクリームを提供した方が良さそうだな。化粧水はちょっと様子を見ることにしよう。なんだか嫌な予感がしてきたぞ。さすがは最高品質、と言ったところである。
「ユリウス様、お茶会の準備は整っておりますよ。最終確認をお願いします」
「分かったよ。すぐに向かうよ」
案内された庭には円形のテーブルが五つ用意されており、そのうちの二つには色とりどりのお菓子が置いてあった。その中には見たことがないお菓子も混じっている。きっと色々な店を調べてくれて、新作のお菓子を用意してくれたんだろうな。
「問題ないよ。ありがとう」
「私たちにお礼など不要ですわ」
使用人たちがそろって頭を下げた。貴族ってあんまりお礼を言ったらダメなんだよね。それなのにどうもお礼を言わないと気が済まないのは、元が庶民だからだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。