第102話 お茶会、再び

 サロンに持ち帰った試作三号機を改良する。試験では水の出る魔法陣を組み込んだ本体部分を地面に置いて使っていたのだが、実際はそれを持ち運べる形にした方がいいだろう。

 そうなるとやはり便利なのは、本体を背中に背負うタイプだろう。


 小型化に成功したとは言え、遠足に持っていくリュックサックくらいの大きさがある。そこでそのままリュックサックのようにしようと思う。

 これまで見た中で、背中に背負うタイプの魔道具は見たことがない。かなり画期的な製品になるのではないだろうか。ビジュアル的に。


「ロザリア、この散水器を背中に背負うことができるようにしようと思う」

「背中にですか? 分かりましたわ」


 そう言うとすぐに皮革を引っ張り出した。うん、これなら丈夫だし、問題なさそうだな。ロザリアは金属の部品とうまく組み合わせて、リュックサックのように加工した。

 作業もスピーディーで洗練されていた。だてにいくつもの魔道具を作っていないな。どうやら小さくても一人前のようである。


 ちょこちょこと背負いやすいように修正しながら「散水器完全版」が完成した。無骨だった金属のケースにも彫金を施している。使い方も一緒に彫っているので、初めて使う人にも安心だ。


「完成しましたわ」

「おめでとう、ロザリア。ロザリアの発明第一号だね」

「でも、私一人の力ではありませんわ」


 うーん、どうやらロザリアは納得していないようだな。魔道具として、全て自分の力で作ったものを第一号にしたいのかも知れない。


「それじゃ、俺とロザリアの共同開発にしておこう。それならロザリアの名前もウワサになるだろうからね」


 こうして完成した散水器は次の日の朝までサロンに飾ってあった。

 翌日、さっそく使い心地を試してみることになった。俺はランドセルのような散水器を背負い、薬草園へと向かった。


「ユリウス様、何もユリウス様がやらなくても、私がやりますのに……」

「そうですよ。ユリウス様に何かあったらどうするんですか」


 騎士たちには止められたが、開発者の一人としては自分で使い心地を試したかった。これは開発者としての責務である。


「大丈夫。この散水器については俺が良く知っている。自分で使って、不満点を洗い出して、より完璧なものに仕上げるのが魔道具師としての仕事だよ」

「ユリウス様、いつの間に魔道具師になったのですか?」

「……そうだった。俺、魔道具師じゃなくて、魔法薬師になるんだったわ」


 俺は素直に騎士たちの意見に従った。一人の騎士に散水器を背負わせると、使い方を説明した。彼なら問題なく水やりをしてくれるはずだ。

 この騎士は薬草園の警備担当であり、そのせいもあって、薬草を管理し、育てるのがとても得意である。そのうち役職手当をつけるつもりだ。薬草園専属にしても良いと思っている。


「重さと背負い心地はどうだ?」

「ちょっと私には小さいですね。重さは気になりません」

「なるほど。それじゃ、ベルトの長さを調整できるように改良しよう。それじゃ、試しに水を撒いてみてくれ」

「分かりました」


 騎士が薬草園の上方にノズルを向けた。この伸びたノズルの先端から、細かいシャワーが噴き出るようになっている。これで広範囲に水を撒くことができるはずだ。

 スイッチを押すのと同時に、勢い良く水が先端から噴き出した。飛距離もなかなかある。


「キュ!」

「ちょ、ミラ、ダメだって!」


 飛び出そうとしたミラを全力で抱きかかえた。朝からずぶ濡れになるのはやめていただきたい。騎士が早くも慣れた手つきでまんべんなく薬草園に水を撒き始めた。その口元は上がっている。


「お兄様、うまくいったみたいですわね!」

「ああ、そうみたいだね。これで毎回、ここまで水をくんで来る手間を省くことができるね」


 俺たちがやり遂げた感じで腕を組んでうなずいていると、庭の水やりをしていた庭師たちがやってきて、しきりに感心していた。

 よし、庭師たちのためにも、いくつか追加で作っておこう。




 追加の散水器を作ったり、改良したりをしながら過ごしていると、俺が送った招待状に対する返事が続々と届いた。どの手紙も「参加希望」だった。良かった。どうやら嫌われてはいないようである。ボッチじゃなくて良かった。


「お兄様、メリッサがお茶会に参加することになりましたわ」

「分かったよ。それじゃ、その人数で調整しておくね」


 ロザリアはまだお茶会にあまり行ったことがないので、知り合いが少ないみたいだな。俺ももう少し積極的にロザリアを連れてお茶会に参加した方が良いのかも知れない。この辺りはお父様と要相談だな。


 どのようなお茶会にするのかはベテラン使用人と共に決めておいた。お菓子は何にするか、飲み物は何するか、飾りはどうするか。

 今回の主な目的は、ミラをみんなに紹介することである。そこから徐々に領民に広がっていき、将来的にミラがこのハイネ辺境伯領の守り神みたいになってくれたら良いなと思う。


 ハイネ辺境伯家が保護しているミラにちょっかいをかけるような愚か者はほぼいないだろう。王家ともそれなりにつながりがあるし、国王陛下の覚えも良い。それほど心配する必要はないはずだ。


 お茶会では他に、ロザリアが作った魔道具も紹介しようかな? ロザリアが魔道具師としての力があると分かれば、それに寛容な殿方から、結婚の申し出があるかも知れないしね。

 俺の魔道具に興味がある友達なんかがおすすめなんだけど。同じ領内だし、嫁ぎ先が近くならすぐに会いに行くこともできるからね。

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