第97話 ついでに作ろう魔法薬
改造した蒸留装置で大量の蒸留水を作っていると、冒険者ギルドに依頼していた素材が届いたと連絡があった。
思った以上に早かったな。これなら魔法薬ギルドを利用しなくても良いのではないだろうか? その分、値段は割高になるけどね。あとは品質の問題か。
使用人が持って来た「ポイズントードの粘液」と「冬虫夏草」を確認する。品質は高品質と普通のものが混じっているな。個人的には微妙なところだが、魔法薬ギルドで買うよりかはずっと品質が良い。あそこは普通以下のものしかないからね。
やはり品質の高い素材が欲しいなら、自分の足で探すのが一番のようだ。お父様が王都から帰ってきたら、もっと戦闘訓練を増やしてもらえるように頼んでみようかな。さすがに自分の実力を認めてもらえなければ、外に出させてはくれないだろう。
いつまでも内緒で出かけるわけにはいかないからね。
そうこうしている間に、十分な量の蒸留水が出来上がった。品質はもちろん最高品質。チーゴも高品質のものが多いので、品質の高い植物栄養剤ができそうだ。
チーゴを臼に入れて、杵を使って軽く潰していく。この方が煮詰めたときにたくさんの栄養成分が出て来るのだ。
黙々とチーゴを潰し終わると、蒸留水を入れた大鍋の中に投入する。それを火にかけて、グツグツと沸騰させた。その間に、薬草を乾燥させてから細かく砕いておく。
薬草は味付け程度にしか使わないため、それほどの数は要らなかった。これが大量に薬草が必要になるとしたら、植物栄養剤を作ることはできなかっただろう。
薬草は色んな種類の魔法薬に利用する。いくらあっても足らないのだ。薬草の生長が早くて本当に良かった。雑草並みにたくましく生えてくるもんな。もしかすると、雑草なのかも知れないけど。
大鍋の中の液体が紫色になったら、火を消して、様子を見ながら薬草を加えていく。良くかき混ぜながら、少しずつ加えていく。ここが植物栄養剤のキモとなる部分だ。薬草を入れる量が、多くても少なくてもいけない。
ヒッヒッヒと言いながらかき混ぜたいのをグッと抑えて薬草を入れていく。調合室から変な声が聞こえてきたら、さすがにホラーだ。
液体の色が、紫色から、急に薄い黄緑色に変わった。薬草の投入をやめる。これで完成だ。
植物栄養剤:最高品質。植物を生長させる。効果(中)。
うん、問題はなさそうだ。あるとすれば、この植物栄養剤は全ての植物の生長を促進させるため、適当にまくと周囲の雑草まで急成長することだ。ピンポイントに苗木の根元にだけ与えるのが理想だ。従業員に頑張ってもらおう。
「ライオネルに頼まれていた下痢止めを作っておこう。ついでに水虫薬も作るんだったな」
下痢止めは冬虫夏草で、水虫薬はポイズントードの粘液を利用すれば作成可能だ。こちらはたぶんそんなに数は要らないだろうから、ちゃちゃっと作っておく。
冬虫夏草を良く乾燥させてから、乳鉢で細かく砕く。そこに塩、砂糖、黒胡椒、毒消草の種を混ぜ、良く混ぜながら、さらに砕く。
出来上がった粉に蒸留水を少し加えて練り合わせる。それを錠剤サイズに丸めてから乾燥させれば完成だ。『乾燥』スキルを使ったのであっという間だ。
下痢止め:高品質。腹痛を治す。無味無臭
「これで騎士たちのお腹の悩みも解消されるな。次は足の悩みも解消しないとな。特にだれも何も言わないけど、あの靴の中はグジョグジョのはずだ。乾燥機能付きの靴……はさすがに作るのは無理かな」
ポイズントードの粘液を蒸留水に入れて軽く煮詰める。これでポイズントードの粘液が持つ毒性を弱めることができる。その中に蜂蜜とサフラン、ミント、薬草を入れる。
沸騰しないようにグツグツと煮込んだあとで、一度ろ過する。できた溶液を片手鍋に移し、沸騰させながら蜜蝋を加えてゆく。粘り気が出てきたら完成だ。
水虫薬:高品質。水虫を治す。効果(大)。爽やかな香り。
「品質は高品質だけど、まあ良しとしよう。匂いも問題なさそうだし、使ってもらえるといいな」
気がつくと、すでに日が暮れていた。どれだけ集中していたんだ、俺。慌てて装置と道具を片付けると、下痢止めと水虫薬を持って調合室から出た。さすがにあれだけの量の植物栄養剤を持っていくことはできない。あとから騎士たちに取りに来てもらおう。
途中ですれ違った使用人に夕食の準備について聞くと、あと一時間ほどかかると言うことだった。それじゃ、その間に魔法薬を渡しに行こう。俺はその足で騎士団の宿舎へと向かった。
「ライオネル、いるか?」
「ユリウス様、何かありましたかな?」
執務室ではライオネルが何やら事務的な作業をしていた。騎士団長にもなると、剣を振っているだけではなく、ペンを振る必要もあるようだ。大変だな。
そしてその仕事を増やしているのは他ならぬ俺だった。……何だか申し訳ないな。今度何か差し入れを持って来よう。
「ライオネルに頼まれていた魔法薬を持って来たよ。はい、これが『下痢止め』の魔法薬だよ。水で飲むようにね。味も匂いもないから飲みやすいと思うよ」
「ああ、ユリウス様、覚えていて下さったのですね。部下たちもきっと喜ぶはずですよ」
ライオネルの目元が緩んだ。どうやらずいぶんと前から欲しいと思っていたようだ。それならもっと早く言ってくれれば良かったのに。
「それでこっちは水虫薬だよ。騎士たちの中に水虫に困っている人がいるんじゃないかと思ってね」
「水虫薬……?」
ライオネルの動きがピタリと止まった。
え、何その反応。もしかして、もしかしちゃったりするのかな?
「う、うん、水虫薬だよ。それを水虫があるところに塗れば、治るはずだよ」
「マーガレット様はこのような魔法薬も作れたのですか?」
「え? う、うん、そうみたいだね」
「どうしてもっと早く作って下さらなかったのか……必ずや部下たちが喜ぶことでしょう」
深々とライオネルが頭を下げた。まさか、泣いてないよね、ライオネル? でもこの感じだと、ライオネルが水虫なのではなくて、どうやら部下に水虫がいるようだ。
これはシャワールームの使い方を徹底した方がいいな。タオルは共有しない。足拭きマットも共有しない。うん、早めに手を打とう。
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