第78話 何かの卵

「べ、別に何も見つけてないですよ?」

「怪しい」

「怪しいですわ」

「お兄様、何を見つけたのですか?」


 俺ってそんなに顔に出ちゃうタイプだったかな~? ポーカーフェイスを習得していたハズなんだけど。これじゃ隠し事ができないな。


「何もない、何もないから。ほら、次の場所に行きましょう! この通路には何もなかった。オーケー?」

「オーケー、じゃない! ちょっと、何を見つけたか教えてちょうだいよ。余計に気になるじゃない。このままじゃ夜眠れなくなっちゃうわ」


 そう、関係ないね。クロエが夜眠れなくても、俺には全然関係がないのだ。

 そんな俺の態度に気がついたのか、クロエが再び「ぐぬぬ」ってなった。お姫様がしていい顔ではないな。


「ふ~ん、そんな態度をしちゃうんだ。夜眠れない理由を聞かれたら『ユリウスのことを考えてしまって夜も眠れない』って言うからね?」

「やめて! 変な誤解されるからやめて!」


 まずいですよクロエさん。そんな話がクロエの両親の国王陛下や王妃殿下に伝わったら、誤解されるじゃないですか。俺は王族なんて堅苦しいところと関わりたくない。

 すでに片足を突っ込んでいるような気もするが、あきらめたらそれで試合は終了だ。


「ちょっと、何でそんなに嫌がるのよ! 何でか分からないけど傷つくわ! ほら、キャロも何かユリウスに言ってあげてよ」

「え? 私はユリウスが嫌がるなら、別に無理しなくても……」

「まさかの裏切り!?」


 どうしたんだクロエ。何だか性格が別人みたいになってるぞ? ……たぶんこっちが本物のクロエなんだろうな。いつもは王族モードになって、神経をすり減らして生きているんだろう。だって、今のクロエの方が生き生きしてるからね。


「分かったよ、クロエ。でも、隠し通路の先にある部屋の中の物には絶対に手を触れないようにね。何があるか分からないから。下手をすれば、俺の首くらいじゃすまないかも知れない」

「お兄様……」


 俺は隣で心配そうにこちらを見上げるロザリアのまろい頭をなでた。それを聞いたクロエとキャロの顔は強張っている。


「分かったわ。約束するわ」


 クロエに続いてキャロもうなずいている。

 あきらめんのかーい! 俺の首って、そんなに価値がないものなの? 何だか涙が出ちゃいそう。




 俺は隠し通路が続いている壁の前にやってきた。壁を触ってみたが、特にすり抜けたりはしなさそうだ。


「この先にあるのね?」

「うん。そうなんだけど……どこかにスイッチがあるのかな?」

「特には見当たりませんわね」


 クロエとキャロが灰色のレンガを積み上げられて作ってある壁を調べている。見た目には特に何もない。俺は『鑑定』スキルを発動した。これで壁を見れば……お、何か文字が書いてあるぞ。隠し通路を開く呪文かな?


「開けごま? 何でこの呪文!?」


 その瞬間、音もなくスルスルと目の前のレンガの壁が動き始めた。あっけに取られる俺たちの目の前に、薄暗い通路が現れた。


「ねえ、ユリウス、どうなってるの?」

「こっちが聞きたい」

「さすがは賢者様の生まれ変わりですわね」

「え、キャロ、その設定まだ続いているの?」

「お兄様……」


 ロザリアが目をすぼめるようにしてこちらを見ている。これはあれだ、みんながあきれたときにする目だ。


「やめて、ロザリア。そんな目で俺を見ないで! あと、お父様とお母様には内緒にしておいて!」

「無理だと思う」

「私もクロエと同じ意見ですわ」

「まさかの裏切り!? やれって言ったのは二人じゃない!」

「わ、私は別に……」

「キャロ、止めなかった時点であなたも共犯なのよ。あきらめなさい」

「あうう……」


 よし、これでみんな共犯だ。俺だけが怒られることはなくなったぞ。怖いものがなくなった俺たちは薄暗い通路を進んだ。どうやら壁がほのかに光っているらしく、つまずいたりすることはなかった。


 少し歩くと、小さな小部屋に着いた。ここが俺の『探索』スキルで反応があった場所だろう。ただの四角い部屋なのだが、中央に小さな台座が設けられていた。


「何かしら、あれ?」

「クロエ、触っちゃダメだからね」

「分かってるわよ」


 四人で中央の台座に向かう。台座の上には真っ白な卵のようなものがあった。パッと見た感じ、ニワトリの卵のようである。

 恐る恐る遠巻きに見る俺たち。どう見ても何かの卵だった。


「卵?」

「卵、のように見えますわね」

「卵に見えるけど……何だろう?」

「お兄様、温めたらひよこが生まれますか?」


 ひよこが生まれるのか? それはなさそうな気がするけど……それに長い間放置されていたみたいだし、生まれないんじゃないかな?


「魔法薬の素材じゃないのかな? もしかすると、すごい魔法薬を作れるようになるかも」


 俺がそう言ったとき、ビクリと卵が反応した。


「ヒッ! い、今、卵が動いたわ!」


 クロエが俺にしがみついてきた。それを聞いたキャロとロザリアも俺にくっついた。ひっつきむしかな?


「気のせいだよ、クロエ。さあ、謎も解けたし、帰ろうか」


 俺が何事もなかったことにして帰ろうとすると、今度は左右に分かりやすくガタンガタンと動いた。声にならない声を出して、三人がすごい力でしがみついてきた。苦しい。


「ユリウス、あの卵、何か変よ」

「ああ、そうだな。逃げよう!」

「逃げようって、何だか追いかけて来そうよ」

「お兄様、怖い」


 俺も怖い。何だあの自己主張の強い卵は。そうだ、こんなときこそ『鑑定』スキルだ。真実はいつも一つ!


 聖竜の卵:ふ化待ち。魔力を流すことでふ化させることができる。ふ化させることで主従関係を結ぶことができる。


 今すぐ逃げよう。こんな怪しい小部屋、スタコラサッサだぜ! 真実はいつも一つ。やべぇ匂いがプンプンする。これは厄介事の匂いだぜぇ~。

 俺がそう決めたそのとき、卵に変化があった。


「た、卵が空を飛んでるわ!」

「わわわ! ど、どうすれば!?」

「卵、落ちたら割れちゃう!」


 俺から離れた三人がオロオロし始めた。さっき卵に驚かされたばかりなのに、もうそのことを忘れてしまったようである。もしかすると、独りぼっちだった卵に同情しているのかな? これも母性なのかも知れないな。

 ……あれ、あの卵、何か俺の方に飛んできてない?

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