第77話 王城七不思議

 まだ踊るとクロエとキャロが口を開いたところで待ったをかけた。


「ちょっとクロエ、このままだとダンスだけで時間が終わっちゃうよ。一番高いところに行くんじゃなかったの?」

「ぐぬぬ、そうだったわね。それじゃ、明日はダンスの練習会ね」

「明日はダンス用の服と靴を用意して来ますわ」


 ぐぬぬって……クロエが「お姫様がしちゃいけない顔」をしていたぞ。それにどうして勝手に明日の予定を決めているんですか。

 あ、キャロもやる気なんですね。俺に拒否権はないみたいですね分かります。


 何か二人に、いや、ロザリアを含めて三人に振り回されているような気がする。このままだと、将来尻に敷かれることになりそうだ。何とかしないと。

 クロエの後ろをついて行きながらそんなことを考えていると、立ち入り禁止区域についた。警備兵の姿もある。


「ちょっと、クロエ、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。ちゃんと許可を取ってあるわ。ウフフ」


 許可を取ってあるのに、どうしてそんなにうれしそう何ですかね? 何をたくらんでいることやら。まさか、塔の一番上からバンジージャンプしようとか考えてないよね?


「キャロ、あのクロエをどう思う?」

「何か悪いことを考えているのでは?」

「俺もそう思う。クロエの前世はあれだな、イタズラ妖精だな」


 フフフ、と笑いをこぼしたキャロ。それに気がついてクロエが振り向いた。


「何してるの? 入る許可をもらったわよ。行きましょう!」


 俺たちが警備兵のところに行くと、敬礼をして通してもらえた。

 石造りの廊下を進むとヒンヤリとしてきた。コツコツと不気味に俺たちの足音だけが響いている。


「何だか不気味ですわね」

「怖いですわ」


 キャロとロザリアがお互いにひっついて歩いている。そんなことはお構いなしにズンズンと進んで行くクロエ。俺はそんなクロエが怖い。


「クロエ、何を考えているんだ?」

「ウフフ、ここには私でも滅多に入ることができない場所なのよね。何か秘密があると思わない?」

「何があるの?」

「それを今から探すのよ!」


 思わず転びそうになった。当てはないんかい。どうやらクロエは王城七不思議を生み出したいみたいである。さしずめ、「城の一番高い塔にはお宝が眠っている」とかだろうか。


「ちょっと、何あきれたみたいな顔をしているのよ。私の考えだと、一番上の部屋に何かあると思うのよね。さあ、行くわよ!」


 クロエが意気揚々と向かった先は暗い螺旋階段だった。階段を上ると同じ景色が続くようになった。所々にある窓から入る光が、不気味に階段を照らしている。

 ロザリアが転ばないように手をつなぎながら進むと、扉が見えてきた。


「ここが最上階の部屋ね。入るわよ」


 どうやら鍵はかかっていないようである。ギィと不気味なきしむ音を立てながら扉が開いた。中にはベッドやテーブルなどの家具が置いてあった。定期的に掃除はしてあるようで、ホコリっぽさはない。

 窓には鉄格子がはめられており、そこから身を乗り出すことはできなそうである。


「これはすごい眺めだね。王都が一望できるよ」

「本当ですわね。あんなに遠くまで見渡すことができますわ」

「お兄様、私にも見せて下さい!」


 ロザリアと代わる代わる窓から外の景色を眺めた。お仕置き用の部屋みたいに言われていたが、思ったよりも快適そうである。

 その間にクロエは部屋中を探索していた。そんなに広い部屋ではないので、すぐに終わったようである。


「おかしいわね。秘密の抜け道があると思っていたのに」

「この部屋から逃げられるような作りになっていてどうするんだよ。意味ないよね?」

「そう言えばそうね。それなら天井に秘密があるのかしら? ユリウス、肩車してよ」


 え、肩車!? お姫様を肩車するの? ダメでしょ、それ。クロエ、スカートだよ? 落ち着け、落ち着くんだ。冷静になれ、俺。


「クロエ、良く上を見てよ。俺たちが肩車しても天井まで届かないよ」

「確かにそうかもね。空を飛べれば……」


 ブツブツとクロエが言っている。何がクロエをそこまで駆り立てるのか。やっぱり王族って窮屈なのかな?


「ねえ、ユリウスなら空を飛べるんじゃない?」


 キャロが耳元で声を小さくして聞いてきた。


「飛べなくもないけど……」

「やっぱり!」


 うれしそうなキャロ。まあ、今のところ空を飛ぶつもりはないけどね。そんな俺たちをクロエが不審そうな目で見てきた。


「どうしたの、二人とも?」

「隠し通路があるなら、塔じゃなくて、さっきの通路なんじゃないの?」

「確かにそうね! 戻るわよ!」


 どうやら何とかごまかせたようである。空を飛べることがクロエにバレたら、絶対に飛んでみてと言われたハズである。危ない危ない。


「お兄様、私も空を飛んでみたいですわ」

「……また今度ね」


 もう一人、聞かれたらまずい人物がいたことを忘れていた。キャロも期待に満ちた目でこちらを見ている。これはクロエだけに内緒にすることはできないパターンだな。トホホ。

 何で俺はキャロの質問に真面目に答えたのだろうか。キャロの期待に応えたかった? そうかも知れない。女の子に良いところを見せたくなっても良いじゃない。だって、男の子だもん。


 俺たちは階段を下りるクロエの後に続いた。さすがにあの螺旋階段の部分にはないだろう。そんなに大きいわけでもないしね。あるとすれば、やはりあの通路だろう。

 通路まで戻ると、クロエがさっそく壁を調べ始めた。


「ほら、みんなも手伝ってよ」

「どうすれば良いのですか?」

「怪しいところがないか調べるのよ、キャロ」


 キャロが首をかしげながらもそれに従った。ロザリアも不思議そうに壁を触っている。俺はといえば……『探索』スキルを使って怪しい場所を発見していた。

 まさか本当にあるだなんて。どうしよう。どうやらその隠し通路は別の部屋へとつながっているようである。その先の部屋は行き止まり。しかも、何かの反応がある。


「どうしたの、ユリウス? もしかして、何か見つけたの?」


 みんなの注目が集まった。

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