第75話 図書館での出来事
クロエの話によると、この図書館にはこの国だけでなく、他国から集められた本もあるらしい。その中には未知の文明が書いた本もあるそうだ。それらの本は何が書いてあるか分からないため、禁書になっているという話だった。
「禁書かー、ちょっと憧れちゃうな」
「読めない本のどこに憧れるのよ。隠し通路の方がずっと面白いわ」
「……クロエ、もしかして隠し通路を使って、みんなに黙って城の外に出てたりしてないよね?」
クロエが目を合わそうとしない。これはすでにやっている気配がするぜ! すぐに王妃殿下に密告せねばならないな。
「そうだ、禁書の置いてあるところに行ってみる?」
「え? いいの?」
「まあ、たぶん大丈夫よ」
俺たちはクロエに連れられて図書館の奥へと向かった。
密告の件はひとまず保留にしておいてあげよう。
立ち入り禁止のロープが見えて来た。それを気にせずにクロエが入っていく。何と言うか、セキュリティーが緩すぎるのではないだろうか? これならだれでも入れそうな気がする。
クロエに続いて入ると、すぐに司書らしき人が飛んできた。
「ちょっと、その先は立ち入り禁止ですよ!」
どうやらどこかにセンサーの役割を持つ魔道具が置いてあるみたいである。そうでなければ、これほど早く見つからないだろう。セキュリティーが緩いとか思ってすいませんでした!
「あら、ちょっと案内していただけよ」
「クロエ様! それでもいけません。そこは立ち入り禁止です」
司書さんは王族と言えども一歩も引かない構えである。職務に忠実なのだろう。せめて表紙だけでも、と思って眺めていると、どれも表題が読めそうである。
「魔法薬の本もあるみたいだね。ちょっと気になるな」
「お兄様、魔道具の本はないのですか?」
「んー、魔道具ではないけど、機械の仕組みの本があるみたいだな」
なんで機械の本が置いてあるんだ? 一体何が書いてあるんだろうか。
「機械、ですか?」
「うん。たぶんだけど、魔道具と似ているものだと思うよ」
「ねえ、ユリウス、召喚魔法の本とかないの!?」
「召喚魔法の本ですか……ありますね。『だれでも使える召喚魔法・入門編』っていう本があります。ちょっと読んでみたい気もしますね」
召喚魔法か。ゲーム内ではそんなものなかったな。ペットみたいなものなのだろうか? それとも代わりに戦ってくれるのかな。
「その本を取ってよ、ユリウス!」
「なりません! と言うか、もしかしてここの本が読めるのですか!?」
司書さんが驚いた。そう言えば、だれも読めない未知の本があるって言ってたな。それを俺が読めるのは、俺が転生者だからだろうか。
「読めそうですが、読まない方が良さそうですね。やめておきます」
「なんでよ、ユリウス。もったいない。使い魔が欲しかったのに……」
「それは物語の話だけにしておいた方が良いですよ、クロエ様」
納得いかないクロエが口を尖らせている。その姿はとてもお姫様には見えない。ただの八歳児である。
司書さんに見送られて俺たちは禁書の本棚から追い出された。
「もう! どうしてそんなに意気地無しなのよ!」
「そんなこと言われても、お城の中で問題を起こすわけにはいかないだろう? そんなことをしたら出禁になっちゃうよ」
「させないわよ、そんなこと!」
追い出された俺たちが子供用の本棚の前で騒いでいると、声がかかった。
「あなたたち、何を騒いでいるのかしら?」
「お母様! どうしてここに?」
オウフ、王妃殿下の登場だ。先ほどまで保護されたばかりの猫のようにシャーシャー言っていたクロエが突然おとなしくなった。なるほど、王妃殿下の前では猫を被っているというわけか。
「どうしてって、あなたが騒いでいるって言う話が耳に入ったからですよ、クロエ」
ニッコリと笑う王妃殿下。怖い。あ、クロエが縮こまっているぞ。身に覚えがあるらしい。どうやらだれかがひそかにクロエを監視しているようである。それもそうか。王族が一人でウロウロできるはずがないよね。
「ごめんなさいね、ユリウス君。うれしくて、ちょっとはしゃいでいるみたいなのよ。普段のクロエはこんな感じじゃないのよ?」
「お母様!」
クロエが非難の声を上げた。なるほど、いつも窮屈にしているだけに、気を張らなくて良いときにその反動が出てしまうんだな。それだけ俺がクロエに近い存在になっているということなのかな。
それがクロエのストレス解消になっているなら、俺は別に構わないけどね。
「いえ、気にしておりませんよ。それよりも、騒いでしまって申し訳ありません」
「いいのよ。ユリウス君が謝る必要はないわ。クロエも、あまり妙なことをユリウス君に教えてはダメよ。王城内にある、秘密の抜け道のこととかね」
最後の方は小声になっていた。クロエが縮み上がった。どうやら俺が報告するまでもなく、すでに知っている様子である。これなら大丈夫かな。もしかすると、俺がクロエに万能薬を渡したことについても知っているのかも知れない。
ここで何も言われないところを見ると、内緒にしていてくれるみたいだな。
その後はすごすごと図書館を後にした。そんなクロエを連れて、何とかだれも人がいないサロンにたどり着いた。どこからともなく現れた使用人がお茶とお菓子を持ってきた。
「図書館はすごかったね。時間があれば、もっとゆっくりと見たかったよ。魔法薬の本がほとんどなかったのが残念だったけどね」
「魔道具の本もあまりありませんでしたわ」
「きっとどっちも秘密にしてあるんだよ。そうだよね、クロエ」
「……」
ダメだこりゃ。ショックが大きかったらしい。もしかすると、このあと怒られるのを恐れているのかも知れない。まあ、良い薬にはなっただろう。
そろそろお昼の時間だ。ちょうどいいので、このままここでくつろいでおこう。
「クロエ様、キャロリーナ様がお見えになりましたよ」
「え? キャロが?」
何でここでミュラン侯爵のご令嬢のキャロが出てくるんだ?
「ええ、そうよ。午後から一緒にユリウスを案内することになっているのよ」
知らなかった。キャロも王都に来ていたのか。みんなで会おうってなったのかも知れないな。この時間からだと、一緒に昼食を食べることになるな。にぎやかな昼食になりそうだ。
クロエの機嫌も直ればいいんだけど。
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