第73話 王城デートおまけつき

 その日のうちに冷温送風機の魔道具が一台完成した。二人で結構な数の冷温送風機を作ってきたので、さすがに作るのが早くなっていた。

 断熱用の木材は頼んだ通りに加工されていたので、表面を少し磨くだけで十分だった。

 あっという間に俺たちが作り上げたのを見たお兄様たちが感心していた。


「すごいね、二人とも。もう立派な魔道具師だよ」

「ビックリだね。まさかロザリアまでそんなことできるようになってるなんて」


 隣にいるロザリアは得意げである。さっそく完成した魔道具を試運転した。作り方に間違いがなかったとはいえ、安全確認は大事だ。最後まで責任を持たないとね。

 スイッチを入れると、ブオンと風が吹き出し始めた。


 強い風、弱い風、温かい風、冷たい風。どうやら問題なく動くようである。スイッチを切り替えながらお兄様たちがはしゃいでいると、お母様がやってきた。


「ずいぶんと楽しそうね。やっぱりみんながそろっていた方がいいわね。……もしかして、もう完成したのかしら?」

「お母様! その通りですわ。冷温送風機が完成しましたわ!」


 お母様大好きっ子のロザリアがお母様に飛びついた。ロザリアを両手で抱えたお母様が魔道具の方に近づいて来る。


「これが髪を乾かす魔道具……使ってみても良いかしら?」

「もちろんですわ。私がお母様に使い方を教えてあげますわ」


 制作者なだけあって、ロザリアの指導は的確だった。髪の毛を乾かすだけでなく、部屋を暖めたり、逆に冷たくしたりもできることもしっかりとアピールしていた。

 ロザリアは魔道具の実演販売に向いているのかも知れない。


「ユリウス、ロザリアにまた妙なことを覚えさせたね」

「アレックスお兄様、ロザリアが好きでやっているだけですよ。ボクが無理やり教えたわけじゃないですよ」

「そうかも知れないけど、ちょっとやり過ぎなんじゃないかな?」


 そんなこと言われても……俺はロザリアの味方なので、ロザリアがやりたいと言えば何でもやらせてあげたいと思っている。やりたいことができない世の中じゃ、生きている価値が半減しちゃうからね。


 冷温送風機はその日のお風呂上がりに使用された。女性陣だけでなく、お父様もお兄様たちも使っていた。俺は別にそれを使わなくても髪の毛を乾かすことができるので何とも思わなかったのだが、ずいぶんと評判になったみたいである。


「ユリウス、献上用の冷温送風機はいつごろ完成しそうだ?」

「えっと、明日には完成すると思います」

「ウム。あれはいい魔道具だ。ぜひとも国王陛下に献上せねばならない」


 どうやらお父様はあの魔道具が気に入ったようである。髪の毛を乾かすのに苦労しているのは、髪の長い女性だけではないようだ。そうなると、予想よりもはるかに売れることになるかも知れないな。早めに設計図を売り飛ばさないと。


 俺はその日のうちに、本体作成までを終わらせておいた。あとは外装だけである。それだけなら、明日の午前中で仕上げることができるはずだ。

 葬儀も終えて、少しはノンビリできるかと思っていたのだが、予想外に忙しくなりそうだぞ。




 翌日、朝食を食べ終わるとすぐに魔道具作成に取りかかった。クロエとの約束は十時ごろである。そのまま一緒にお昼を食べて、日が暮れる前に家に帰るというスケジュールである。ほぼ一日がかりだ。


 断熱材として利用しているウォルナット材に彫刻を施していく。ナイフを使っているように見せかけて、実は『クラフト』スキルで加工している。ナイフはダミーだ。ナイフで加工していたら、一日がかりになってしまう。

 そうとは知らないロザリアが俺の手元を見て感心していた。何だかすごい罪悪感。


 彫刻は国鳥を模したものを彫った。他にも国旗や王家の家紋なんかをデザインとして取り入れている。昨日王城に行ったときに観察しておいて良かった。あ、そうだ。あの謎の蔓草の紋様もぐるりと入れておこう。


 こうして『クラフト』スキルを使ったインチキ加工をしていると、すぐに装飾が完成した。それを昨日の夜のうちに作っておいた本体に取り付ける。

 おお、思った以上に良い出来になっているぞ。艶を出すために薄くワニスを塗り、『乾燥』スキルで素早く乾かして完成だ。


「よし、何とか間に合ったぞ。昨日のうちに試運転はしているが、念のためもう一度やろう」

「さすがですわ、お兄様。私の魔道具にも何か彫って欲しいですわ」

「それじゃ、帰ったらロザリアの部屋にあるものにも何か彫ってあげるよ。どんな絵を彫って欲しいか、考えておいてね」

「分かりましたわ!」


 試運転に問題なし。これなら王家に献上しても問題ないだろう。

 俺が一息入れたころ、王家から迎えの馬車がやってきた。すぐに身支度を改めて調える。


「それでは行って参ります。献上用の冷温送風機の魔道具はあそこに置いてます」

「もう完成していたのか……分かった。あとから私が責任を持って届けよう。気をつけて行って来るんだぞ」


 お父様とお母様に見送られてタウンハウスを出発する。隣にはもちろんロザリアが乗っている。特に問題なく王城に到着した俺たちは、昨日とは違い、すぐに中に入ることができた。


 馬車が到着した場所は王族専用の停車場のようである。俺たちが乗っている馬車だけがガラガラと音を立てながら停車した。馬車から降りると、すぐに案内役の騎士がやって来てそのまま来賓室に連れていかれた。

 高そうな調度品に囲まれて、ソワソワしながら座っていると、すぐにクロエがやって来た。


「お待たせしてしまったかしら? ユリウス、ロザリアちゃん」

「そんなことはないですよ。今日はお招きいただきありがとうございます」

「ありがとうございます」


 二人で臣下の礼をとった。すぐにそれをクロエが制した。


「ちょっとやめてよ、二人とも。何だか知らない者同士みたいじゃない。今日は私がお城の中を案内してあげるわ。だからいつも通りにしていてよね」

「分かったよ。善処はする」


 さすがに他に人がいる前で、そんな失礼な態度をするわけにはいかないが、俺たち三人だけのときなら問題ないだろう。クロエがそれを望んでいるみたいだしね。

 こうして俺たちの王城デートが始まった。

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