第70話 葬儀と再会

 さすがのタウンハウスにも、魔道具を作る道具も素材も置いていなかった。そのため、冷温送風機の魔道具作りは明日以降に持ち越しになった。それまでに一式そろえておいてくれるらしい。妹のロザリアが喜んでいた。


 ロザリアだけで作ることができたら良かったのだが、さすがにそれはまだ無理である。それでも大部分は作ることができるので、非常に戦力になる。ありがたい話だ。

 その一方で、魔法薬には全く関心を示さないので、こちらはダメなようである。もう一人ほど戦力になる人物がいるとありがたいのだが。




 翌日、朝食が終わるとすぐに王城に行く準備を始めた。どうやら家族全員で向かうようである。お父様にその事を聞くと「毎日ではないが、日をあけてみんなで通っている」そうである。


 今回は俺とロザリアが葬儀に参加するのでみんなも一緒に、ということらしい。準備が整うと、馬車に乗り込んだ。

 しばらくすると、前方にいくつもの尖塔を持つ、白亜の城が見えて来た。初めて見たこの世界の城に、ちょっと興奮してしまった。


「見てよ、ロザリア。お城が見えて来たよ!」

「本当ですわ! 本で読んだよりも、大きいですわ」


 ロザリアも目を大きくして、徐々に大きくなってゆく城を見ていた。本当に大きい。王都の小高い丘の上に建てられているみたいで、一番高い塔に登れば、きっと王都を一望できると思う。そこからの景色を見てみたいな。


「カインも初めて来たときは同じような反応をしていたね」


 アレックスお兄様がカインお兄様を見てほほ笑んでいる。そのときの光景を思い出したのだろう。


「あら、それならアレックスも同じような顔をしてたわよ」


 お母様がアレックスお兄様に笑いかけた。どうやらみんな同じような顔になってしまうらしい。それほど雄大で、美しいお城なのだ。カインお兄様が王都の学園に行きたがるのも分かる気がする。


 馬車は間もなく王城に到着した。さすがに王都で毒殺事件があっただけに警備が厳しかった。俺たちが乗る馬車も何度も兵士たちに調べられた。


「王城に入るだけでも一苦労ですね」

「そうだな。いい加減に慣れては来たが、時間がかかりすぎるのが問題だな」


 お父様の言う通り、一時間近くかかっている。普段なら数分で終わるそうである。これは何か暇つぶしアイテムを持って来るべきだったな。馬車の中でできること……カードゲームくらいかな?


 開かれている大きな扉には、国鳥なのか、ワシの模様が彫られている。他にも、国旗と思われるものや、剣とドラゴンの絵が描かれた盾のような模様もある。あとは良く分からない蔓草のような模様。あれは何なのかな?


 そうこうしているうちに、ようやくお城の中に通された。これはもし昨日のうちに行っていたら、帰りは夜になっていたな。

 停車場で馬車から降りると、お父様とお母様に連れられて建物の中に入った。


 どうやらここは王城の本体ではなく、周囲にある建物の中の一つのようである。周りにはそれなりの人数の人がいた。この場にいる全員がお婆様の葬儀に参加する人なのかな?


 建物の中には立派な祭壇が設置されていた。その向こう側にある棺に、お爺様とお婆様が眠っているのだろう。こうして一緒に並んでいるところを見ると、お爺様とお婆様は中が良い夫婦として有名だったようである。最後まで一緒に、と言うことなのだろう。現に、死ぬときも同じ時期だった。


 俺たちが花を捧げると、お祈りの時間になったようである。それぞれが席に座り、司祭様が祈りを捧げていた。みんながそれに倣い、会場はシンと静まり返った。

 祈りが終わり、帰ろうかとしたところで声がかかった。


「ユリウス! 会いたかったわ」


 振り向くと、そこにはクロエと、クロエの姉のダニエラ様が立っていた。クロエが俺に突進してくる。突如出現した王族に、周りの人たちがざわめいている。


「クロエ様、どうしてここへ?」

「門番にユリウスが来たら私に教えるように言っておいたのよ」


 なるほど。それで俺が来たことを知っていたのか。まさかクロエに会えるとは思わなかった。だが、これはチャンスだぞ。何とか二人っきりにならなければ。


「こんにちは、ダニエラ様。アレックスお兄様に会いにいらっしゃったのですか?」

「ええ、まあ、そういうことになるかしら?」


 俺のストレートな物言いに戸惑うダニエラ様。二人の関係が進んでいるのかどうなのか、ちょっと分からなくなってきたな。だがここは、二人の関係を利用するしかない。


「アレックスお兄様、このあとダニエラ様と一緒に過ごすのですか?」

「え? あ、ああ、そうなるのかな?」


 チラチラとダニエラ様を確認するアレックスお兄様。どうした、ちょっと頼りないぞ。男ならガツンといかんかい。


「それならボクはクロエ様と一緒にいてもいいですか?」

「え? い、良いんじゃないかな?」


 しどろもどろになるアレックスお兄様。どうした、まさかこんな展開になるとは思ってなかったのか? ダニエラ様も満更でもなさそうだそ。


「そうか。それならアレックス、ちゃんとユリウスを家まで連れて帰るんだぞ。私たちは先に家に帰るとしよう」


 お父様がそう言った。ロザリアが不満を言うかと思ったが、空気を読んだのか、何も言わずにお父様の指示に従った。その場には俺とアレックスお兄様、クロエとダニエラ様だけが残された。


「それじゃユリウス、お城の中を案内してあげるわ!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。良いぞ、計算通り! アレックスお兄様にはちょっと悪いことをしてしまったかな? あとで謝っておこう。

 俺はクロエに連れられてお城の本館へと向かった。


 アレックスお兄様たちと別れた俺は、すぐにクロエに切り出した。時間がどのくらい残っているのか分からない。ちょっと強引でも早めにやるべきことをやらねば。


「クロエ、大事な話があるんだ。二人っきりで話せないかな?」


 その瞬間、クロエの顔が赤くなった。……ごめんクロエ。クロエが想像しているのとは違うんだ。本当にごめん。

 クロエは何と、俺を自室に案内した。これ他の人に見られていたらまずいやつじゃん。

 思わぬ展開に顔が青ざめそうだったが、ここで引くわけにはいかない。俺は意を決してクロエの私室に入った。

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