第46話 元気になる魔法薬
できあがった蒸留水を『鑑定』スキルで確認する。
蒸留水:最高品質
フム、どうやらこの蒸留装置の性能は問題ないみたいだな。ただし、本来冷却管がある部分が存在していないため効率はあまり良くない。コップ一杯の蒸留水を作るのにこれだけ時間がかかるとは思わなかった。
この蒸留装置が、分解された状態で、ホコリを被っていた理由が何となく分かった。恐らく使われていなかったのだろう。お婆様は井戸からくんできた品質が普通の水を、そのまま魔法薬の素材として使っているのだろう。
たぶん、蒸留した水を使っても、井戸水を使っても、完成した魔法薬は最低品質だったのだろうな。結果が変わらないなら、わざわざ時間をかけて蒸留水を用意する必要はない。
「ハァ、これは蒸留装置の改良が必要だな」
「どうしたのですか? 失敗したのですか?」
「違うよ。上手く行ったよ。ただ、もっとこの装置をパワーアップさせることができるな、と思ってね」
「新しい魔道具を作るのですね。私にも魔道具の作り方を教えて下さい!」
目を輝かせてこちらを見るロザリア。どうやら俺が「お星様の魔道具」を与えてから、魔道具に興味を持ったようである。
せっかく興味を持ってくれたことだし、手ほどきくらいはしても良いかな? だがその前に、目の前の作業を終わらせなければならない。
「分かったよ。特別にロザリアにも魔道具の作り方を教えてあげよう」
「ありがとう、お兄様! お兄様、大好き!」
そう言ってロザリアが抱きついてきた。うん、良いな、これ。シスコンになりそうだ。ロザリアの頭をひとしきりなでると次の作業に取りかかった。
まずは回復薬からだ。引き続き、蒸留装置を動かしながら次の工程へと進む。
片手鍋に蒸留水を入れて沸騰させて、そこに新たに蒸留水を加えて温度を少しだけ下げる。下がったところで先ほど砕いた薬草を入れて、沸騰しないように気をつけながら加熱していく。
溶液が段々と緑色を帯びてきた。
「お兄様、何を作っているのですか?」
「これはね、初級回復薬だよ。擦り傷だけじゃなくて、ちょっと深い傷も治してくれるんだよ」
「おいしいのですか?」
「んー、味はしないかな?」
「それならおいしい方がいいです!」
なるほどね。おいしい方がいいか。それならちょっと手心を加えて、飲みやすい清涼飲料水のようにしてみるかな。色はちょっとアレだけど。
火を止めたところで、一度ろ過し、不純物を取り除く。
その後、再び片手鍋に戻すと、弱火にかけながらハッカを少し加える。それから甘さを出すために、砂糖と塩を加えて味を調える。
何度も味見して、慎重に味を調えていった。
「よし、これなら大丈夫だな」
初級回復薬:高品質、爽やかなのどごし、ほんのり甘い
鑑定結果も良さそうである。あとはこれを飲んだ騎士団の評価を聞いてから、本格的に採用するかどうかを決めよう。
「お兄様、私も味見してみたいです」
「ちょっとだけだよ」
スプーンで一口飲ませてあげた。間接キッスになるが、たぶん、ロザリアは気にしてないだろう。大丈夫、だよね?
「何だかスッとします」
「飲みやすかった?」
「はい」
フム、どうやら子供でも飲みやすい初級回復薬ができたみたいである。将来的に、子供用に売り出すのも良いかも知れないな。
次に着手したのは新しい魔法薬である。素材は調理場で調達した、各種香辛料である。これも魔法薬の素材として使える物があるのだ。
今回作ろうと思っているのはスタミナ回復薬。ゲーム内では必須のアイテムだったのだが、どうもこの世界にはないみたいなのだ。
ライオネルに尋ねても「そんな魔法薬は聞いたことがない」とのことだった。あれば便利なのになぁ。そんなわけで、今回はその魔法薬を作って、騎士団で試しに使ってもらおうという算段だ。
片手鍋に蒸留水を入れて、唐辛子とニンニク、薬草を入れて煮込んでいく。片手鍋から刺激臭が発生し、ロザリアの顔が歪んだ。
「ロザリア、無理して見学しなくて良いよ。少し離れていなさい」
「はい」
ロザリアは素直に従ってくれた。どうやら無理をしていたようである。子供なんだから、そんな気を遣わなくても良いのに。ロザリアが離れたのを確認して、続きの作業に入る。
ちなみに俺も目が痛くなってきたので、水魔法で目元を防御しながら作業を進めていた。
次に作るときまでには、保護眼鏡を作っておこうと思う。これはつらい。もしかしてそのせいでスタミナ回復薬は作られなくなったのかな? そしてそんな苦労して作ったスタミナ回復薬が最低品質で、もはや毒みたいな性能だったら……それってたぶん、毒だよね。
何とかできあがった赤い液体をろ過し、瓶に小分けにしていく。小分けした透明な赤い液体を『鑑定』スキルで調べる。
初級体力回復薬:高品質、からい
予定通りの魔法薬が完成したが「からい」のか。こればかりはどうしようもないのかな? 試しにちょっと味見してみよう。うん、飲めなくはないな。好んで飲むかと言われると、ちょっと頭をひねることになりそうだけど。
取りあえず今日予定した分の魔法薬は完成した。あとはこれを騎士団に届けて、反応を見るだけだな。ちょうど良く実験台になってくれる人はいないかなー。
「ロザリア、今日の魔法薬作りは終わりだよ。さあ、サロンに戻ってお茶の時間にしよう」
「はい、お兄様!」
できあがった魔法薬を入れた木箱を抱えて廊下に出ると、ライオネルが立っていた。どうやらだれも入って来ないように見張っていてくれたようである。
ライオネルはすぐに俺が抱えていた木箱を持ってくれた。正直、助かる。ロザリアが手をつなぎたそうにしていたのだ。
「ユリウス様、この木箱の中身は?」
「もちろん、騎士団への差し入れだよ。お茶の時間が終わったら説明しに行くから、それまで飲まないように」
「かしこまりました」
そう言ってライオネルは、俺たちをサロンまで送ったあとに、騎士団の宿舎がある方へと木箱を運んで行った。
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