第25話 嫉妬

 お茶会から帰った俺は、初めてできた貴族の友達に何かプレゼントしたいと思っていた。ファビエンヌには「お星様の魔道具」にしよう。エドワードには何がいいかな? 魔道具に興味があるみたいだから、鉄板、魔石、魔導インクの魔道具作成三種の神器をプレゼントするかな。


 部屋で魔道具を作っていると、妹のロザリアがやってきた。


「お兄様、新しい魔道具を作っているのですか?」

「違うよ。前にロザリアにプレゼントした『お星様の魔道具』を作っているんだよ」

「……だれにあげるのですか? 女の人?」


 え、何この感じ。俺なんか悪いことしちゃいましたかね? ロザリアが半眼でにらみつけてくるんだけど。


「今日のお茶会でお友達になったファビエンヌ嬢にプレゼントしようと思ってね」

「ふーん、好きなのですか、その人のこと?」


 ロザリアが膨れている。やだこの子、嫉妬している!? なんでやねん。


「そうじゃないよ。俺は友達が少ないからね。大事にしなきゃいけないんだよ。それにエドワード殿にもプレゼントするからね。ファビエンヌ嬢だけじゃないよ」

「いいなぁ、お兄様からのプレゼント」


 ガチョウのように口をとがらせるロザリア。ロザリアには「お星様の魔道具」をプレゼントしたじゃないか、と言える雰囲気ではない。


「あー、何かプレゼントを考えておくよ」

「本当!? 楽しみにしてるー!」


 無邪気だな、我が妹は。そして五歳児なのに嫉妬深い。さて、妹へのプレゼントは何にしようかな。クマのぬいぐるみでも作るかな。裁縫スキルを持っているし、楽勝だろう。さて、それじゃ材料を持ってきてもらわないとな。


 魔道具を完成させると、すぐにぬいぐるみ作成に取りかかった。ふかふかの生地を縫い合わせて、中に綿を詰める。目の部分はボタンである。両手、両足の部分も稼働するようにボタンで縫い付けた。糸は簡単に切れないようにするために、『糸作成』スキルを使って生み出した「マッスルスパイダーの強靱な糸」を使っている。


 色は汚れが目立たないように茶色を基調にしている。この世界のクマを見たことがないので、小さいころに読んだ絵本に出てきたクマをモチーフにしている。妹はその絵本が好きだったから、たぶん妹の好みを外してはいないはず。


「よし、完成したぞ。これで妹のご機嫌取りは大丈夫なはずだ。さて、ファビエンヌ嬢とエドワード殿への手紙を書かなきゃな。いきなり送りつけたら何事かと思われるかも知れないしね」


 机に座るとすぐに手紙を書き始めた。手紙を書くのは後になると面倒くさくなるからね。そうなる前に一気にやっておいた方がいい。

 手紙を書き終えると、それらの品を届けるように使用人に頼んだ。


 夕食が終わると、さっそくクマのぬいぐるみをロザリアに届けに行った。この時間はお母様と一緒にサロンでお風呂の準備ができるのを待っているはずである。

 俺はサロンのドアをノックすると、クマの顔だけのぞかせた。


「お母様、クマちゃん!」

「あらあら、かわいいクマちゃんねぇ」


 ロザリアのうれしそうな声と、お母様のおっとりとした声が聞こえた。俺はそのままクマのぬいぐるみの手を振ると、それを抱えてサロンの中に入った。


「ロザリア、約束通りにプレゼントを持ってきたよ」

「わあい! お兄様、ありがとう!」


 クマのぬいぐるみをロザリアに渡すと、全力で愛でだした。今にも名前を付けそうな勢いである。あいている席に座ると、使用人がハーブティーを持ってきてくれた。

 このハーブティーは俺が薬草園の片隅で育てていたハーブを使っている。何でも香りが良いそうである。


「良かったわね~、ロザリア。ところで、ユリウス、お母様にはないのかしら?」


ニッコリとお母様が笑っている。本気なのか冗談なのか分からないな。ここは直接聞くしかない。


「お母様もいりますか?」

「ええ、欲しいわ。これでも私はかわいいものには目がないのよね」


 そういえば確かに、お母様の自室にはぬいぐるみや、かわいいアクセサリーなんかが飾ってあったような気がする。これは失敗したな。お母様の分も作っておくべきだった。

 お母様からの熱い視線が俺にそそがれている。別に差別したわけじゃないんだよ。


「それではすぐにお母様のぬいぐるみも作っておきますね。同じもので良いですか?」

「ありがとう。お願いするわ。息子が作ってくれたぬいぐるみを手に入れる日が来るなんて、思わなかったわ」


 うれしそうなお母様。そんなお母様を見てると、もう一匹作りたくなっちゃうな~。次はネコのぬいぐるみにしよう。ロザリアの分も含めてぬいぐるみを三体作ることになるが、俺ならきっとやれるはず。


 すぐに部屋に戻ると、ぬいぐるみ作成を始めた。生地が足りないので追加も頼んでおく。結局その日は、寝る間際までぬいぐるみを作り続けた。ロザリアとお母様の喜ぶ顔が目に浮かぶと、止めどころを完全に見失っていた。


 翌朝、朝食が終わると、昨日の夜に作りあげたぬいぐるみを持って、お母様とロザリアのところに向かった。


「まあ、もうできたのね。ユリウスはぬいぐるみを作る才能があるわ!」

「お兄様すごい! ありがとう! 友達が増えたよ。やったねクマちゃん」


 二人には気に入ってもらえたようである。しきりに抱き心地を確かめていた。喜んでもらえたのでよしとしよう。


 後日、ファビエンヌ嬢とエドワード殿からお礼の手紙が届いた。

 ファビエンヌ嬢の手紙には「お星様の魔道具」が思ったよりもすごい性能で、家族みんなで取り合いになっていると書いてあった。……何だろう、もしかして罪深い物を渡してしまったかな?


 一方のエドワード殿からの手紙には「さっそくランプの魔道具を分解して、そこに描いてあった魔法陣をまねしてみたが、うまくいかなかった」と書いてあった。

 たぶん、その魔法陣に間違いがあるんだと思う。小さく描こうとすればするほど、隣の模様とつながったりして、効果が発揮されなくなる。

 そこで手紙に「まずは大きく描くように」と書いて送り返した。一つでも自分の力で魔道具を作ることができれば、大きな自信につながるからね。

 

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