第24話 出会い
獣のような女性陣から脱出し、何とか引きこもってお菓子を食べていると二人のお兄様がやってきた。
「散々だったみたいだね」
「アレックスお兄様! ……察しの通りです。これじゃ男の子の友達も、女の子の友達も作れません」
「人気者はつらいね~」
「笑ってる場合じゃありませんよ、カインお兄様! 何とかして下さい」
「そうは言われてもなぁ」
俺に群がる女の子を見て、男の子の参加者は明らかな敵意を見せていた。そりゃそうか。ほぼ全員の女の子が俺のところに来ていたら、嫉妬するしかないよな。トホホ。貴族の友達を作りたかったのに。
「ん? あの子も一人みたいですね」
「おや? あの子は確かアンベール男爵家のファビエンヌ様じゃないのかな?」
「詳しいですね、アレックスお兄様」
「年頃の女の子は全部チェックしている」
「……学園で後ろから刺されないように気をつけて下さいね」
「まっさかー」
そう言いながらもその顔は引きつっていた。プレイボーイになるのは一向に構わないが、身の安全は確保するようにして欲しい。学園には護衛も使用人もいないからね。
「一人同士、気が合うかも知れません。ちょっと行ってきます」
「あの子、あんまり話さない子だから、根気よくね」
「貴重な情報をありがとうございます」
アレックスお兄様に礼を言うと、ファビエンヌ男爵令嬢の元へと向かった。近づいた俺の気配に気がついたのか、顔を上げた。しかし、前髪が長くて良く顔が見えないぞ。
「こんにちは。私はハイネ辺境伯の三男、ユリウスです。失礼ですが、アンベール男爵令嬢のファビエンヌ様ですよね?」
「ど、どうしてそれを……」
驚いたのか、震える子猫のような声を上げた。何だろう、どうも庇護欲をそそられてしまう。見た目が小動物っぽいからかな?
「アレックスお兄様に教えてもらったのですよ。良かったら私とお話しませんか?」
「それは、その……あ、ファビエンヌ・アンベールです」
さて、何の話が良いかな? お兄様の助言によると、俺がリードしなければならないな。そうだ、庭で育てている植物の話をしよう。最近は魔法薬の素材だけでなく、カモフラージュのために、普通のお花も育てているのだ。女の子ならきっと興味があるはず。
この作戦は成功したようであり、ファビエンヌ嬢が食いついてきた。
「そうなのですよ。冬の間はカブしか育てることができなかったので、早く春が来るのが待ち遠しいですわ。カブも良いですけど、やっぱりお花を咲かせたいですわ」
「か、カブですか。中々いいものを育てていらっしゃいますね」
「ユリウス様は冬の間、何を育てていたのですか?」
「えっと……」
ずいぶんとしゃべるな、この子。ちょっと思っていたのと違うぞ。だがまあ、それもよし。暗い顔をしているよりかはずっと良いからね。
「冬の間はホワイトミントとバニラセージですね」
「どちらも聞いたことがない植物ですわね。どんな植物なのですか?」
「この二つは魔物の森で採取してもらったものなのですよ。お菓子に混ぜると香りが良くなるのですよ」
「香り付け用の植物なのですね。面白そうですわ。今度私も育ててみることにしますわ」
お菓子の香り付けに使えるのはもちろんなのだが、俺はそれを魔法薬の材料として使っているのだ。主に匂いがきつい魔法薬の香りをごまかすためだが、それでもずいぶんと違う。ホワイトミントにはスッとする効果もあるので、塗り薬に混ぜるにはピッタリである。
やれやれ。これで何とか最低限の役割は果たせたぞ。あと一人、男の友達ができれば最高なのだが、ちょっと厳しいかも知れないな。
そう思っていると、一人の男の子が近づいてきた。
「これはもしかして、ユリウス・ハイネ辺境伯令息ではないですか?」
キラキラしたイケメンが話しかけてきた。相手は俺のことを知っているようだが、俺は相手のことを知らなかった。
「そうですけど、あなたは?」
「申し遅れました。エドワード・ユメルです。以後、お見知りおきを」
「ユメル子爵家の方ですね。ユリウスです。こちらはファビエンヌ・アンベール男爵令嬢です」
「ふぁ、ファビエンヌです」
エドワード君はファビエンヌ嬢の手をとってキスをしていた。中々キザなヤツである。もしかしてボッチなのはそのせいか。
「それにしても驚きました。ボク以外に女の子から注目を集める人がいただなんて」
「そうなのですか?」
「ええ、ちょっと『お星様の魔道具』で有名になってしまいましてね」
「お星様の魔道具! 私も欲しかったのですが、高くて買えませんでしたわ」
「えええ! 必要な材料は安いし、作るのも簡単なのに!?」
おいおい、一体どんな価格で売ってるんだよ。ぼったくりか? お客様の信頼を失うことになるぞ。
「ユリウス様が開発したというウワサは本当でしたか」
「そうなのですか!?」
「うん、まあね……」
こうしてウワサが広がっていくんだろうなぁ。俺は遠い目をするしかなかった。
秘密はいつかバレる。俺が魔法薬を作っていることも、いずれバレるんだろうなぁ。今はまだ考えたくないな。
「ボクも魔道具には興味があるんですよ。何か開発のコツとかはあるんですか?」
「コツねぇ。とりあえずランプの魔道具を分解することから始めるといいですよ」
「ランプの魔道具の分解?」
「そう。まずはランプの魔道具を作れるようにする。それが第一歩ですね。『お星様の魔道具』もランプの魔道具からヒントを得て作ったものですから」
「なるほど。帰ったらさっそく分解してみることにします」
素直に受け取るエドワード。どうやらナルシストっぽいけど、悪いやつではなさそうだ。何か俺に文句があって来たのかと思っていたが、単純に興味があっただけのようだ。
「私にも作れますか?」
「たぶん大丈夫だと思うけど……もしかして、魔道具を作るのって、資格がいるのですか?」
「どうなんでしょう? 販売するときに必要になるくらいではないですかね。魔法薬は作るだけでも資格がいりますけどね。魔道具はそこまで危険じゃないですから」
魔法薬は危険物として認識されているのか。確かにお婆様が作っている魔法薬はある意味、毒だもんね。高位の魔法薬師でそうなのだから、何も知らない初心者は毒しか作れないだろう。
「興味があるなら作ってみてもいいのではないですか? 魔道具に必要な鉄板や魔導インク、魔石は街で手に入りますからね」
こうして俺は二人目の友達をゲットした。良くやった、と自分をほめてあげたい。
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