第5話 初めての魔法

 その日から、俺は密かに書庫に行くと、バレないように魔法薬の本を読み続けた。その結果、あの読めなかった言語は暗号であることが発覚した。おそらくそれを書いた魔法薬師が魔法薬の製造方法を秘密にしようとしたのだろう。


 その結果、だれも分からなくなってしまったようである。本末転倒だな。つまり、あの書庫にある魔法薬の本はゴミ同然ということであった。どうりで普通に置いてあるはずだ。


 真相を知ってガッカリした俺だが、うれしい出来事もあった。

 ついに魔法の勉強が解禁されたのだ。待ってたぜ、この時をよ!


 三歳児に魔法を覚えさせても大丈夫なのか? という声があるかも知れないが、力を持つ貴族にとっては魔法を使えることは当たり前。そのため、いかに早い段階で魔法を覚えさせるかの競走が過熱し、ついには三歳児まで早まったそうである。


 そのため事故も多く、魔法が使えるようになると、側仕えの使用人が配置されることになる。もちろん監視のためである。


「ユリウス様、私のことはご存じですかな?」

「カーネルおじさん!」

「んんー、ある意味正解ですが、私は魔法の先生なのですよ。これからは先生と呼んで下さい」

「分かりました。カーネルおじさん!」

「んんん!」


 大人をからかう三歳児。やられる方は嫌だろう。だがしかし、大人をついからかってしまうほど、この日を待っていたのだ。ようやく魔法を使うことができる。実際に自分の目の前で魔法が見られるだなんて、興奮するに決まっている。


「それではユリウス様、まずは安全な水魔法から始めましょうか」

「よろしくお願いします。カーネル先生!」

「んん! お任せあれ。まずはこの桶の中の水を触って下さい」


 目の前には水がなみなみと入った桶が用意されている。どうやら実際に水を触らせて、その感触を覚えさせてから、魔法を教えるつもりのようである。

 そんなことしなくても使えるんだけどなー。でもそれをやってしまうと、神童になってしまう。


 それがきっかけでお家騒動にでもなればたまったものではない。ここは普通の子供らしく、じっくりといこうではないか。まだまだ当分、慌てる時間じゃない。


 何度も失敗して、その日はできない振りをして終わった。実際はバレないように、桶の中に手を入れたときに試しに使っていた。問題なく発動できた。

 そうとも知らないカーネルおじさん。


「ユリウス様、落ち込むことはありません。初日からできるのは大魔導師くらいです」

「先生、普通はどのくらいで使えるようになるのですか?」

「そうですね、才能がある方で二週間、遅い方ですと、数年かかる人もいますね」

「アレックスお兄様とカインお兄様はどのくらいで使えるようになったのですか?」

「アレックス様は一ヶ月、カイン様は一ヶ月と一週間ですね」


 カインお兄様、もしかして空気を読んだってやつですかね? それじゃ俺は一ヶ月と二週間にするとしよう。いや、それだとアレックスお兄様にバレるかな? なら適当に三ヶ月とかにしておくか。


「今日はありがとうございました。次もよろしくお願いします」

「んん! ユリウス様は礼儀ただしいですね。花丸をあげましょう!」

「あ、ありがとうございます」


 まあ、もらったところで何もないわけですけどね。




 それから三ヶ月後、ようやく俺は魔法を公に使うことができるようになった。もちろん部屋ではバレないように練習している。俺についている使用人には、怪しまれつつあるような気がするが。


「良くできました。これでユリウス様も魔法使いの仲間入りです。これからは初級魔法の習得に移ります。ここまでは魔力を持つ者として、できて当然ですからね」

「はい、よろしくお願いします」


 その後も俺は時間をかけて、四大属性である、水、火、土、風、の初級魔法を習得していった。どうやら俺が手を抜いていることには気がつかなかったようであり、魔法の才能は普通と判断してくれたようである。


 やれやれ、これでお家騒動とは無縁でいられそうだ。俺は辺境伯を継ぐつもりはない。俺には魔法薬の革命を起こすという使命があるのだから。


 無事に魔法を覚えられたことで、俺の元には二人の同年代の友達ができた。言い換えると、二人の手下である。


「ジャイルです!」

「クリストファーです!」


 三歳児にしてはちょっと太り気味、いや体格のいい二人が手下になった。ジャイルは騎士団長の三男、クリストファーは執事長の息子の三男である。ハイネ辺境伯の三男トリオの結成である。


 うむ、これが普通の三歳児か。俺はもっと子供らしくしていた方が良いのかも知れない。ちょっとできすぎているような気がする。気をつけよう。

 ちなみに二人は魔法を使うことができない。魔力を持った人間はそれほどいないのだ。


 それからは何かにつけて三人で一緒にいるようになった。悪いことをするのも三人一緒だ。そして怒られるのも三人一緒である。

 調理場に行ってつまみ食いをしたり、勉強をサボって抜け出したり、妹の馬になったりして遊んだ。


 そうこうしているうちに七歳になった。魔法薬に関することは遅々として進展しなかった。それでも少しずつ変化はあった。




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