第2話
「ハァ?なんだ、おめぇ。俺のこと知らねぇのか?お前、俺が誰かわかって言ってんのか?」
いきなり現れた僕に少女はビクッと体を震わせ驚くが、サザンドラは眉一つ動かさず僕をにらみつける。
うん。やっぱりそこそこ優秀だ。
「知らない」
僕は今やスラムの孤児である。
本当は知っているのだけど、こう答えるしかない。
「ちっ。知らねぇってことは平民か。いちいち平民なんかの行動に目くじらたてても仕方ねぇ。一回だけは見逃してやる。さっさとどけ」
「断る」
「ハァ?」
「僕も国立国教騎士学園に受けるんだよ。だから」
「何がだからなのかはわからねぇが。おめぇも受けるのかよ。なら見逃すわけにはいかねぇな。おめぇら平民には無理だってこと。力づくでも教えてやるよ」
「ヒッ!」
サザンドラは自身の魔力を高め、僕の後ろに立つ少女がか細い悲鳴を上げる。
「ごめんね」
パチン。
僕はサザンドラの前で手を叩く。
サザンドラの瞳から光が抜け、高めていた魔力も霧散する。
魔法を使いサザンドラを洗脳したのだ。
「『君は今日ここで誰にも会わなかった。時間が遅くなり、急いで試験会場に向かわなくてはならない』」
サザンドラは回れ右して走り去っていく。
なるほど。
あっちに学園があるのか。
「あ、あの……!」
「ん」
僕は振り返り、少女の方に向く。
「あ、あの助けてく」
「学園まで案内してくれない?迷っちゃって」
「へ?」
「ん?」
僕は呆然と変な声を出した少女を前に首を傾げた。
■■■■■
「あっ、あれ美味しそう」
「待ってください!時間ないんですよぉ!」
美味しそうな匂いがする屋台に近寄ろうとした僕を少女、サーシャが止める。
「むぅ」
「むぅ、じゃないですよ!本当に時間がないんです!早く行きますよ!」
サーシャは僕のことを急かす。
「そんなに急ぐことはないと思うんだよ。人生ゆとりも大事だよ」
「ノーン君がふらふら歩き回るせいで時間がないんですよ!受験の開始時間に遅れてしまいそうなんですよ!」
サーシャは僕が教えた僕の偽名を呼びながら僕を叱る。
「美味しい食べ物を売っているお店がいけない。異端審問にかける」
「はいはいそうですか!早く行きますよ!」
僕は先にずんずんと歩き出したサーシャを追いかける。
「着きましたよ」
しばらく歩いていると大きな建物に辿り着いた。
ふむ。
全然地図と場所違うじゃんか。一体なんだよ!後で抗議の文を送りつけてやる。
「……私、大丈夫かな」
僕の隣に立つサーシャがポツリと呟く。
「何が?」
「いや、あの、その、こんなたくさんのお貴族様がいる中で私のような平民なんかが受かるかどうか……」
学園の校門の周りに集まっている貴族たちを眺めながら弱々しい声で話す。
「問題ないだろう。僕はスラムの孤児だが、必ず受かるぞ。スラムの孤児である僕が受かるのだから、平民であるサーシャも受かるよ」
サーシャから感じる魔力量は貴族に匹敵するどころか、普通に貴族の中でも天才と呼ばれるほどだ。
落ちるほうが難しい。
「は、ははは。ノーン君のその絶対の自信は何なんですか……。そう、ですね。迷っていても仕方ありませんよね」
「ん」
「私!頑張りますよ!」
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