第1話

 テンデゥス教国。

 世界を作ったとされる創造神アーレを崇める宗教国家であり、世界最強の軍事国家。

 その首都であるライン。

 そこに国を守る精鋭中の精鋭である国立国教騎士団団員を育てる学園、世界最高峰の学園である王立国教騎士学園があった。

 寮制なので、僕は強制的にここで彼女ができるまでの間暮らさなくてはならないのだ。

 

 僕は今そこの学園を受験するために首都に訪れていた。

 首都であるここに来るのは一体何年ぶりだろうか。

 数年も経てば雰囲気は結構変わるね。

 ちなみにだが僕の一族は少し特殊で、名前を出すわけにはいかない。

 というか僕の一族の名を知る人はそういない。

 なのでスラム街の子供っていうことになっている。

 学園に受験する事になった経緯としては何故かスラムにやってきた国立国教騎士に才能を見込まれ、王立国教騎士学園に推薦されたという流れだ。

 ……適当すぎないだろうか?

 試験は結果に関わらず受かることになっているので、わざと落ちることはできない。

 僕が学園から去るには恋人を作らなければいけないのだ。

 僕が爺ちゃんから貰った地図を頼りに学園に向かう。

 

 ……ふむ。どこだろうか。

 あれからしばらく

 僕は見事に迷った。

 完全に迷子になってしまった。

 決してこれは別に僕が方向音痴だとかアホの子だとか、そういうことではない。

 爺ちゃんの地図が雑なのがいけないのだ。

 地図なんて寸分の狂いもないように作るのが当たり前だろうに。

 許せない。

 しばらくぷらぷら歩いていると男の怒号が耳に入る。

 僕はもう学園に向かうのを諦めていた。どうせ受験しなくても受かるし。もう行かなくていいやと。

 かといっていつもは大量にある仕事はない。

 というわけで僕は久しぶりに暇なのである。

 見に行ってみよ。

 僕はサクッと声がする方に向かった。

 

「っるせぇな!推薦状がなんだ!あぁ!?国立国教騎士学園ってのは歴史ある一族だけが入れんだよ!おめえさんのような平民が入れるなんて思うなよ!」

 ガラの悪そうな男が少女に向かってそう怒鳴り散らしていた。

 あれはアスラント伯爵家の次男の、サザンドラかな。

「あの、すみません。お願いです。……通してください。わ、私は試験を受けないで帰るわけにもいかないんです。家族も、みんなも本当に嬉しそうに送り出してくれたんです」

 少女は弱々しい言葉ながらもはっきりと自分の意志を口に出す。

 だが、サザンドラがそれで納得するわけもない。

 さっきよりも強い言葉で罵り始める。

 まぁそれも当然だろう。アストラント伯爵家はもともと選民思想が強い家だし。

 その家の子供であるサザンドラが強い選民思想を持っていても何も不思議なことじゃない。

 ……ふむ。

 彼らもまた僕と同じように学園の入学試験に向かうようだ。

 彼らから場所を聞きたいが、サザンドラは僕に会場を教えてくれたりはしないだろう。

 彼女を助けて教えてもらうか。

「やめて」

 僕はサザンドラと彼女の間に割り込み、サザンドラに向けてそう告げた。

 

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