婚活に心を燃やす学園の劣等生は最強の異端審問官です!

リヒト

ノーネーム

プロローグ

 静かな一室。

 派手な装飾どころか照明すらもない寂しい一室。

 天空で輝く2つの満月がこの一室を照らしていた。

 この部屋に置いてあるのは一つの机と二脚の椅子。

 一脚の椅子にはゆったりとした服を着てあごひげを蓄えた老人が腰掛け、ワインを口にしていた。  

「ごめん、遅れた」

 今まで誰も座ってなかった一脚の椅子にいつの間にか小さな少年が腰掛けていた。

 真っ白な白髪に、ヴァイオレットの瞳が月光に照らされ輝いていた。

「フォフォフォ、構わんよ。仕事を頼んだのはわしじゃからのう」

「ん」

 少年は机に置かれたウィンが注がれたワイングラスを取り、口に含む。

「それで?何のよう?」

「なんじゃ。要件がないと呼んじゃいけないのか?」

「……僕だって暇じゃないんだけど。爺ちゃんだって教皇でしょ?暇じゃないんだからそんな無駄な事しないでよ」

 教皇と呼ばれた老人は苦笑する。

 無表情のまま不満を表現する少年を見て。

「仕方ないのぅ。本題に入るぞい」

「ん」

 教皇の言葉に少年は身を引き締める。

「お主。王立国教騎士学園に入学せんか?」

「は?」

 少年は口をぽかんと開ける。

 意味がわからないといった感じだった。

「……それは学園に背教行為をしている疑いのある奴がいるということ?」

「いや、違う」

「……は?いや、なんで?」

「お主。恋人はいるか?」

「は?」

 怒涛の話題展開に少年はついていけない。

 何言ってだ。この爺。とうとうボケたか?

 教皇にはそんな声が聞こえたような気がした。

「お主の一族は建国のときから支えてくれた重要な一族だ。その血統の力は教皇であるわしの一族と並ぶ。だが、そんな一族もとある事件で今やお主一人じゃ」

「正確には違うけどまぁそうだね」

「故に恋人を作り、子供を作り一族を復興させなけばいけないのじゃ。100人くらいの女性を娶り何百人という子供を作れと」

「もともと僕の一族そんな人いない。数人娶るだけでいいよ。それで?なんで学園に?普通にどっかから適当に持ってくれば」

「いや、お主の職業を忘れたのか?お主の隣でまともにやっていける人間などお主に心底惚れ込んでいる女ではないといないと思うのじゃが」

「……確かに。いや、でも僕は女の人を惚れさせられるとは思わないよ?」

 少年は平然と情けないことを話す。

「いや、それじゃだめなのじゃよ。お主の一族は代々仕事先で女を口説き落として妻を娶ってきたのじゃから。コミュ力は仕事でもいるしのぅ」

「……わかった」

 少年はしぶしぶといった様子でうなずく。

「ご先祖さまもそうしてきたと言うなら僕も必要だろう」

「うむ。案ずるでないぞ。すでにお主の席は空けといてある。問題なく取り組めるようにしておいたぞ」

「わかった。じゃあ僕はもう行くね」

 少年はその一言ともにどこかへ消えていった。


「ふぅー、これであの子の傷も少しは癒えるといいのじゃが……」

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