第6話

 王子の『婚活宣言』から四日後、情報はウォルズ王国全土の知るところとなり、既婚者の女性ですら美容に気を遣い、おほほウフフと上品に振る舞うようになっていた。


 繰り返すが、彼女たちの大半は割とゴツめのルックスである。


 王子自身に関しては、


『王宮を出立した』


 という情報だけ公開されている。

 つまり、ヴィネが言ったように、伴侶を探して国中を飛び回っているのだろう。


 これに対して男性のクリーチャーがどうなったかというと——


……なんかおしとやかになった。


 覇気というものだろうか、そういったものが徐々に失われつつあった。気の強いクリーチャー、特にモンスターレベルの女性クリーチャーと常にやり合いながら生きてきた男性らにとって、女性が皆おほほウフフとなってしまうと、どうも調子が狂うらしい。



 さて、王都ラリーハリーの近くの森を、セイジュは歩いていた。作物を狙う野生のクリーチャーが罠にひっかかってないか、チェックするためだ。


 しかしそこで、セイジュは珍しいものを発見する。


「あれ?」


 獅子や熊用の大きなトラップに、真っ白な鳩が足だけ噛まれた状態で横たわっていたのだ。純白の羽に、若干赤い血液が見える。


 ここでウォルズ王国トリビアをひとつ。

 普通、白い鳩と言えば『平和の象徴』だ。

 だが、ここは平和だが、統治しているのは一応悪魔の一族。よって、白い鳩は平和どころか『忌むべき存在』として認識されている。

 他の国で言うカラスのような存在だ。


 誰かが嫌がらせでこんな罠に引っかけたのだろうか、と思いながらも、セイジュは白い鳩を罠から外し、自宅に運ぶことにした。


 深い森の獣道を歩みながら、


「おまえも大変だよな」

「知性がないだけまだマシか」

「ただ生きてるだけで人を不快にさせる。そんなつもりないのにね」

「『忌むべき鳥』にシンパシーを感じる時点で俺も相当だな」


 と自虐的に語りかけながら。

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