第7話

「これでよし! もう大丈夫、きっと少し休めば飛べるよ」

 村の面々が各々の家に帰った後、自宅で鳩の足を治療してやったセイジュは、その純白の羽を撫でながら言った。


 この村の連中はセイジュを大事にしてくれるが、白い鳩は疎むかもしれない、と考えた結果、作業を早めに切り上げ、鳩の治療を後回しにせざるを得なかったのだ。


「悪いな、遅くなって。でも、おまえの体力次第だけど、明日にはきっとまた高い空に行けるよ。どこにでも好きな所へ」


 そう言いながら、セイジュは自分が涙目になっていることに気づいた。


「えっ……?」


 涙腺がバグった、とセイジュは思った。涙はとめどなくあふれ続けた。


「なん、で……」


 セイジュは考える。

 ウォルズは好きだが、もうこの村で吸血鬼コスをして生きていくことが精神的に厳しいのかと無意識に負担になっているのだろうか?

 大切な仲間たちを騙し続けることに罪悪感がついに爆発したか?

 この『忌むべき鳥』のように、嫌われながらも、どこかウォルズ国内を転々としながら放浪してみようか、という案すら出た。


 疲れているに違いない、とセイジュは己を鼓舞し、着替えることにした。つまり、吸血鬼コス解除である。

 鳩に背を向ける形でケープを取り、犬歯を外し、化粧を落とし、口紅をクレンジング・オイルで落とし、逆十字のネックレスを外した。


「はぁ〜コスプレタイム終了! さっぱりさっぱり!」


 解放感から両腕を上に挙げ伸びをしながら振り返ると、そこに純白の鳩はいなかった。


「なんだ、おまえ人間だったのか」


 鳩がいた場所に立っている人物が、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る