第5話

「はぁ、それで、王子様が政略結婚やら何やらが嫌で、恋愛結婚したいからってんで、国民から嫁を探すってのたまったのか」


 村に戻り、セイジュがたった二十名弱の住人に一報を伝えると、呆れかえった声で赤鬼のタゴンが言った。いや、同意するが。

「だがセイジュ、その後はどうなったんだ? 俺の邪推だが、その場にいた女性やそれを耳にした女性陣がおとなしくしているわけがない」

 堕天使ヴィネが言うと、セイジュが深く頷いた。

「そうなんだよ。王子と結婚できれば種族に関係なく王妃になれる。玉の輿ってやつだ。みんな物凄い勢いでヘアサロンやアパレルショップに駆け込んで、出てきたと思ったら種族関係なく、態度がおしとやかになってて……」

 セイジュはそこで言葉を濁した。ゴーレムの女性がルージュを塗ってウフフと笑っていたのを思い出したからだろうか。


「せーいーじゅー! なんでみんなそんなことするのー? 王子様の前でだけおしとやかにすればいいじゃーん!」

 当然の疑問を投げかけたのは、雪女のフラムだ。

「フラムさん、悪魔は魔法が使えるんですよ。擬態の魔法もです。つまり、王子は何にでも変身できる。姿形を変えて、国中を旅して伴侶を探すでしょう。ですから一瞬たりとも気が抜けないんです」

 セイジュに変わって説明したのはヴィネだった。


 そう、悪魔は魔法が使える。


「あんれ? ヴィネ、おまえさんも堕天使だから、ちょっとした魔法くらいは使えるんだばなかったか?」


 よく分からない方言で尋ねたのは、名目上この村の長老であるせむし男のルーニー爺だ。


「失礼ですが長老、俺は魔法を使いません。いえ、確かに魔法のような技術は持ち合わせています。しかし俺はこの村で皆さまと生活を共にするにあたって、それを封じました。フェアではないからです」 


 これには喝采が巻き起こった。

 そこからは、


『まあ俺ら農業系男子には無関係な話だ』


 ということで意見が一致し、いつも通りの宴会が始まった。



……騙されてる……騙されてるよ……! セイジュー! 気づけー!!

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