第8話 人も機械も探索中①

 ――カキィン!!


 大自然の中、剣と剣のぶつかり合う音が響く。

 戦っているのはオーガと、人間。

 本来、この二種族の間には埋められないほどの大きな身体能力の差がある。

 だが、この人間はそんな常識など通用していなかった。

 それどころか、そんな愚論など彼は凌駕していた。


「――!!」


 オーガの剣が高速で振り下ろされ、人間の服を掠める。

 しかし人間は一瞬はたじろいだものの、眉一つ動かさない。

 そして素早いステップで左へ回り込み、斬りかかる。

 が、次の瞬間、


 ――カキィン!!


 と、再び甲高い音が響きわたる。


「ぐっ……!」


 人間は、剣を持つ手に更に力を込めた。

 ――単純な力比べ。

 ギリギリ、と。

 まるで音でも立てているような均衡。

 そして、それは予告なく崩れた!


 人間が剣を持つ手にかけていた力を緩め、相手の剣を流した。

 そして次の瞬間、オーガの剣は地面に深々と突き刺さる。

 人間は、それをすんでのところで回避した。



 そして再び剣を持つ手に力を込めて――


 そしてそれを振り下ろした。



 ##########


「は、はあ……な、なんとか倒したぞ!」


 たった今、斬り伏せたオーガを見下ろしながらナルセは呟く。

 オーガは今まで戦った魔物の中で一番強かったので結構危なかった。

 強靭な体躯、鋭い眼光――どれ一つをとってもゴブリンには並びもしない。

 特に今回はハイオーガという上位種だったため余計に手間取った。

 まだ大して深くまで進んでいないのにこんなのが出てくるんだもんな。

 このあとどんな化け物が出てくるのやら。

 前途多難でございますな。


「じゃあ、これはありがたく頂いておこう」


 「これ」とはオーガの持っていた剣のことだ。

 この剣は俺が全力で作った魔力剣ソリッドソードと互角――いや、性能自体は上回っていたからな。

 それに武器素人の俺でも一目で業者だとわかるオーラ的な何かが醸し出されていた。

 一体この剣は何者、と。


鑑定アナライズ


 ##########


 名前:オーガの長剣

 ランク:B+

 備考:オーガが使っていた長剣。見るところから多くの血を吸ってきた業物に見える。とても重く、扱うにはオーガ並みの力が必要。


 ##########



「おおう……」


 ランクもお高め、しかも業物。

 性能は申し分ない、いや、むしろ良すぎるくらいだ。

 それに長剣。

 俺の使っている魔力剣ソリッドソードと同じで、結構馴染みそう。

 ただ――


「……なんか悪意あるよね、これ」


 前世でもやし体質だった俺への当て付けか。

 まさに俺の前世の身体的負目コンプレックスを的確についてきてやがる。

 今はもうもやしでは無いよ。

 ただ、身体的負目コンプレックスは続くよ、世界を超えて。


「うりゃあ!!」


 ――ブォン!

 風を切る音が遅れて聞こえてくる。

 良いな、結構良く馴染む。

 ただ少し重いな。

 それにしばらくは魔力剣ソリッドソードで十分だ。

 持っていくにしても使うのはだいぶ後になるだろう。


「でもまあ、持ってった方が良いよね」


 結局、これは固形魔力ソリッドで鞘を作り、出番があるまで背負って持っていくことにした。








「うわあ、ドラゴンだ!!」


 その日の夕暮れ、遠くの空に悠々と飛ぶドラゴンが見えた。

 白めの体に緑色の模様。

 見た感じあれは、風竜ストーマードラゴンかな。

 ……そうか、ここにはこんなでかい、強そうな奴もいるのか。

 でも滅竜デストリードラゴン好宝竜ファフニールはあれよりも数段強いらしいしな。

 ここを制覇して住むにはあんなの余裕で倒せるぐらい強くならないと駄目か。

 まだまだ先は長いな。


「さて、そろそろ晩飯作んないと」


 豚を狩るのに成功したので、今日は焼肉だ。

 火は……炎獄鼬サラマンダーの吐息を松明につけてなんとか確保した。

 念願の焼肉だ。

 ああ、もう天にも昇りそう。いつ死んでも良いや。



 ##########


「ピッ……ピッ……ピッ……」


 石造りの城。

 空中庭園スカイガーデンの中枢機関、魔導超頭スーパーコンピューター『富岳』はその日、突然その特徴的なシステム音をあげた。


「ピッ……指定危険度Sランクエリア『奈落の底セカンドヘイム』北区域に、転生者フォーリナーの存在を確認」


「……え?」


『濁流の制覇者』、コウセイ=センロウが驚きの声を上げる。


「いや、急にどうした?」


「ピッ……広範囲索敵フィールドサーチの復旧に成功したため、転生者フォーリナーの探知が可能になりました」


「ああ、そう。しばらく黙ってたからぶっ壊れたかと思った」


「ピッ……コウキ=リサン様に自動バックアップの開始を命令されました」


「ああ、あいつか……」


 コウキ=リサン。いや、「李山 光輝」と言うべきか。

 当代屈指の錬金術師で、発見当時廃れていた空中庭園スカイガーデンをここまで復旧したのは彼一人の力だと言っても過言では無い。

 ただ、少々研究者魂が強すぎて日中研究室に引きこもり数日後餓死寸前で見つかることも少なくは無い。

 まあ役に立つ物もよく作るのだが。


「ピッ……どう致しますか?」


「でも『Sエリア』の中だろ…………?」


 指定危険度Sランクエリア。

 それは『濁流の制覇者』の異名を持つ俺でも単騎での攻略は難しいかもしれない。

 好宝竜ファフニール程度ならなんとかなるかも知れんが、滅竜デストリードラゴンとなると些か厄介だ。

 そんな中に単騎で突っ込むなんてよっぽどの馬鹿か英雄しかいない。


「そいつは強いのか?」


「ピッ……現状なら亜竜一体程度なら余裕では?」


「マジかよ……」


 この世界に来たばかりの転生者フォーリナーとしては破格に強さだ。

 亜竜といえど竜は竜。

 俺でさえ倒せるようになるまでには数年の月日を要した。


 (なかなか厄介だな……。平和な奴だと良いが)


 そいつは好戦的なやつだった場合、かなり厄介なことになる。

 だが『富岳』の広範囲索敵フィールドサーチでは人の性格や感性までは読み取れない。


「うーーむ。どうしたことか……」


 彼は、考える。

 自らで立ち上げた秘密結社「異世界連合トラベラーズ」の最奥の部屋で。

 古き日の自分『千滝 航聖』とその転生者フォーリナーを重ね合わせながら。

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終末のアポカリプス〜ラグナロクと目次録と終焉と〜 @HOREIZAI

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