第5話 落とし穴

ふふふっ」


 怪しい笑いを浮かべるワルセ……否、ナルセ。

 そうして彼はツリーハウスの階段の上に出た。

 包囲されて全てを諦めてしまったのだろうか?

 それともなにが良い策を思いついたのであろうか?

 それとも…………


「はーっはっはっはっ! 今度は負けーーん!!」


 馬鹿モード全開であった。

 ただ、魔物に対して煽りが効くかどうかはわからない。

 ただ人間も飼ってる猫とかがしつこかったらちょっとはイラっとするか。

 これもそんなもんなんだろうか?


「どおしたー? こいよこいよー!!」


 煽り、煽る。

 そしてそれは次第にエスカレートしていく。


「我が投擲を喰らえい」


 コツン。

 当たったのはあの朝食の怪しい果実……の種。


「どおしたー! 怖気付いたかぁー!? ほうれ、もう一発」


 コツン、と再び当たった。


 その瞬間、

 ブチッと。

 何かが切れた音がした。

 そしてその中の一匹のゴブリンが梯子へ足を掛けようとしたその瞬間――


 一瞬にして


「グ?」


 他のゴブリンが不思議そうについさっきのゴブリンが消えた場所へ駆け寄り――


 そしてまた消えた。




 そしてナルセが木の枝に引っかかっている紐を引っ張った瞬間――



 今度は一度に七体のゴブリンが消えた。





「と、いうわけで大体は動きを封じた訳だが……」


 ナルセはゴブリン達を見下ろしながら言った。彼は学習する人間である。決して同じ失敗は二度は繰り返さない。前回はゴブリンの機動力についていけなかったための敗北。よって今回はその機動力を潰すために落とし穴を用いたのだ。


「まだ結構残ってんな………」


 取り敢えず落とし穴に嵌ったやつは全員固形魔力ソリッドで潰すとして、まだ嵌ってない奴がまだ結構残っている。

 ここで正々堂々行ったら前回の二の舞になってしまう。同じ失敗は繰り返さない。これは俺のモットーだ。


「でもまあ、まずは、固形魔力ソリッドだな」


 どすんどすんどすん。

 心地よい音が鳴る。

 時々「グチャ」とか「べちゃ」とかあまり美しくない音が聞こえてくるが、無視だ。



≪レベルが32上がりました≫

≪レベルが32上がりました≫

≪レベルが32上がりました≫

≪レベルが32上がりました≫

≪レベルが32上がりました≫

≪レベルが32上がりました≫

≪レベルが32上がりました≫


 爆速のレベルアップを告げる音が聞こえてくる。

 そしてその声に混じって、別のことも。


≪『魔力剣ソリッドソード』を獲得しました≫


「へーー…………? はてな」


 なんか新しいスキルを獲得したらしい。

 魔力剣ソリッドソード、ね?

 一体、何者だそいつは?

 って、ことで、


自己鑑定セルフ・アナライズ


 結果、解ったのは――


 『魔力剣ソリッドソード

 魔力で剣を作り出す。


 うん、なんか……

 知ってた。

 名前からしてそうかな、とは思ってた。

 そして二つ目の魔力操作系のスキル。

 俺はこっち系の才能なのかな?

 一辺倒のならなきゃいいが。

 と、その時、


 ――バキッ


 と、音がした

 嫌な予感と共に振り返るとそこにいたのはゴブリン。


「うわあああああ!!」


 ――ぐあし


 全力で殴ったら落ちてった。

 ふう、間一髪。



 魔力剣ソリッドソードの獲得というビッグイベントのせいで残りのゴブリン達を忘れていた。

 そしていつの間にか落とし穴の場所もみんなばれている。

 で、落とし穴が使えない、ということは、


「かついきなり魔力剣ソリッドソードの出番かよ」


 そう、それは肉弾戦でやるしかない、ということを意味していた。










魔力剣ソリッドソード


 出来たのは紫色の片手剣。

 剣なんか使ったことはないが、多分「剣術」の効果でなんとかなるだろう。

 ていうかなんとかなってもらわないと困る。

 ヘタしたら今回はガチで死ぬ。

 そんなレベルのお話だ。



「とぉっ」


 ツリーハウスから飛び降り、すぐさま一番近くにいたゴブリンに斬りかかる。

 と、ゴブリンも負けじと剣を振り――


 ――キィィン!!


 剣と剣がぶつかる音が響く。

 瞬間、


 バキッと。

 ゴブリンの剣が折れた。

 錆びてたし当然といえば当然だが。

 その程度の強度ではこの魔力剣ソリッドソードの敵ではない。

 魔力の塊だ。

 強度も密度も錆びた剣とは比較にならない。


 そして、ジリジリと距離を詰めていく。

 自らの武器を失ったゴブリンは逃げモーションに入るが、遅すぎる。



 そして――

 

 一閃。


 ゴブリンの倒れる音が聞こえてくる。


「ふう……ぐっ」

 

 と、同時に彼の背中に鈍い感覚が走った!!

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