第4話 過信者の負
転生してからはや一ヶ月が経ったが、僕はまだしっかりとした家を持てずにいる。
暫定的に近くの木にツリーハウスを作っているが、はっきり言おう、狭い、熱い、疲れるの無敵の三段構えだ。
それに近くを通る行商人たちから変な目で見られる。
まるで、「お前なにやってんの?」とでも言いたげな眼差しを。
そしてまた他の問題もある。
スライム程度なら俺の必殺スーパーキック一号でぶっ飛ばせるレベルまでは来たけれど、残念ながらこればっかだとレベルアップの効率がとても悪い。
特に最近は一匹倒してレベルが2上がるかどうかだ。
そろそろスライムたちを倒していきたいところだけど、問題は――
「剣が無いんだよーーーーーーーー!!」
叫んでみた。
剣がなきゃ始まんない。
実際俺は分類上では「剣士」にあたるわけだし。
剣なしで剣士をやれって?
ふざけんな。
そんな感じで今日もナルセはスライム狩りをしている。
その日の夜。
狭く暑く疲れるツリーハウスの中で俺は考えた。
魔力を使って剣を作ることができないかどうかを。
俺の
だからその要領で剣を作れないか。
椅子とかなら作れることがわかっている。
現に今座っているのもそれで作り出した椅子だ。
どうだこのデザイン。
独創的で美しいだろう?
イメージは、前世に漫画で読んだ使い易そうな片手剣。
柄を持ちやすいようにちょっと太めに、刃は出来るだけ硬く、鋭く。
形をどんどん定めながら。
「ほっ!!」
マジシャンのように手をぱっと振り上げて、出来上がったのは柄が胴回り四十センチもある歪な、剣?
……いや、そもそもこれは剣といえる代物ですらないだろう。
強いて言うなら柄の短い、槍? 矛?
ただ単にぶっとい棒に硬い棒をぶっ刺しただけのモノ。
これを剣、と言うなら一周回って鍛治職人に失礼。
それに匹敵するレベルの物体だった。
「うーーん……要、練習だな」
そうして少なからずがっかりした風で、ナルセは静かに呟いたのだった。
ぐっど、もーにんぐ!!
朝が来た。朝が来た。
今日も朝が来た。
今日も近くで採った怪しい色の木の実フルコースという朝食をとって、周りを偵察したら早速スライム狩り&木の実採集に出掛けるぞ!
もはや木の実採集は俺の日課にすらなっている。
ていうかサボったら冗談抜きで死ぬ。
ゆくゆくは牛っぽいやつとか狩っていきたいけど剣が無いので今は無理だ。
取り敢えず剣が手に入るまでは安全第一にスライム狩りを――
続けるわけないだろう!!
このナルセ様が!!
やはりここは倒せないはずのゴブリンとかを思いの外ワンパンしたり、ピンチになって覚醒するとこだろ!
そうしてそのあと無双ルート。
うん、完璧。
素晴らしいシュミレーション。
文句の付け所すらない。
あめーじんぐ、わんだふるぷろじぇくと。
普通そんなすぐ主人公が覚醒する物語など少ないのだが…………
転生ニワカな彼にはそれがわからなかった。
「ふっ、ゴブリンか。だが俺にかかれば一瞬っておい、タンマタンマ……どぐあぁ!?」
出会い頭、通りすがりの一発、不意打ち、など急な攻撃には様々な例えがあるがこれは「決め台詞の間に攻撃する」という一番悪質で害悪なやつであった。
相手はゴブリン。
知能などない。
ましてや恥や外聞など持っての他。
弱肉強食の世界で弱いものや馬鹿なものは狩られる。
それだけの話だった。
「くそぅ、もう怒ったぞ! 喰らえ、
どすんどすん。
紫色の固形魔力が大量に生成され、草・原・に落ちてゆく。
そう、確かにスライムはこれでワンパンだったが――
「あ、当たんねぇ〜」
相手が人型である程度の速さの動きができるゴブリンでは訳が違った。
当たらない。全て躱される。
って、これはまさか……
「にっ、逃げっ!!」
三十六計逃げるに如かず。
その時、彼はかつてないほどの速度でツリーハウスへ逃げ帰ったという。
「どうしよっかな……」
ナルセは考えていた。
昼、ゴブリンに惨敗したのはショックだった。
そしてそれは俺にとっての初めての敗北だった
やはり
かといって他に攻撃手段があるわけでもなく、剣術は使用不可。
木の棒でも使えるのかをこの前「天啓」に聞いたところ、「少なくとも柄と刃がしっかりと剣形の作られたものでないと剣と認識されません」と言われてしまった。
となるとやっぱり残るのは固形魔力ソリッドによる攻撃のみ。
ただこれは相手が少なからず速い場合、当てるのが難しい。
「うーーん…………」
堂々巡りだ。
攻撃手段が
↓
相手が速いと当たらない。
↓
かといって剣術は使えない。
↓
結局攻撃手段が
とまあこういった感じの。
その時、ツリーハウスの外から声が聞こえた。
「グギャギャギャギャ!!」
――そう、ゴブリンの鳴き声が。
どうやら昼に逃げた時にこの拠点ツリーハウスまでつけられていたらしく、群れの仲間を連れてやってきたそうだ。
大ピンチ。
まさにそうであった。
ツリーハウスは完璧に包囲され、逃げ道はなく木の上に孤立した一介のゴブリンにすら勝てぬ人間。
そう、大ピンチのはずなのに。
その時ナルセは微かな笑みを浮かべた。
それも悪戯っぽいものではなく、邪悪な笑みを…………
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