第2話 転生〜リンカネーション〜

「ううん……」


 ガラガラガラガラ。

 そこは暗闇しかない世界だった。

 見渡す限りの闇、闇、闇。

 上も下もなく、確かな地面も存在しない。

 そこはそんな空間だった。


(ここは……どこだ?)


 成瀬は思う。

 確か爆風にぶっ飛ばされて、見事空中でトリプルアクセルを決めてから今に至ると思うのだが……



 そこで俺の意識は覚醒した。

 俺は成瀬駿。十六歳。身長は175センチ。

 趣味は旅行放浪一人旅で、好きな言葉は絶対眠り。

 うむ、覚えている。

 記憶喪失とかはしてないぞ。よぉーーし。


 それにしてもバスガス爆発とは……。

 早口言葉だって?

 やかましいわ!!




 ――ということで、まずは体が動くかについて確かめる。

 どうだろうか?




 ……一応、体は動く。

 だが今は金縛りにあっているように全くと言っていいほど動かない。

 おかしいな。確か俺はぶっ飛ばされて意識を失って多分救急車で運ばれて今は病院にいるはずなんだが。

 あの爆発で死んでないければ。

 ただ意識があるということは死んでないんだろう。



 ――まさか!?

 ここで最悪の想像が頭をよぎる。

 これはもしかして無くなった部位が痒いとか動くとかそういう錯覚をしちゃうでは無いだろうか?

 ということは実は俺は今、絶賛五感四股消失中!?


 待て待て、落ち着け。

 それは無いだろ。

 少なくとも今は真っ暗だが目は開いているはずぞ。

 つまり今は状態では無いはずだ。


 ではなんだ?うーーーん……


≪対象の死亡を確認≫

≪対象の魂の捕縛に成功≫

≪対象の魂を暗黒空チュートリアルスペースに誘導完了≫


 お?

 なんか声が聞こえてきた。

 対象……俺か。ここには俺しかいないからな。

 へー、やっぱ俺死んだかー。

 で、まだ意識があるということは、天国地獄伝説は実は本当だったと。

 恐るべし仏教。

 あれ?

 でもさっき『暗黒空間』って言ってたよな?

 暗黒……少なくとも天国じゃあなさそうだな。

 …………ということは俺は地獄行きか?

 こりゃあ、これだけで『アイスを買いにきただけなのに』って題名で本が一冊かけそうだ。

 まいったな。


≪魂の活性化を確認≫

≪『時空渡り』に必要な耐久値の所持を確認≫

≪これより、転生の儀に移ります≫


 転生!!

 よしゃあ!!

 ガッツポーズを決めた……つもりだったが、体が動かないのを忘れていた。

 そういや『魂の捕縛』だのなんだの言っていたな。

 もしかしたらこれは、それのせいかもしれない。


≪記憶の継続、身体の覚醒、精神の分離、五感の強化を開始します≫

≪初めに、記憶の読み取りを開始します≫


 その声が聞こえた次の瞬間、頭の中に何かが入って、這いずり回っているような感覚に陥る。

 うへえ、気持ち悪い。


≪ピーー……ナルセ、男性、十六歳、了解いたしました≫

≪ステータスを作成します≫

≪ステータスを開示します≫

≪以降、ステータスオープンと称えれば閲覧可能です≫


 ##########

 ステータス


 氏名 ナルセ

 レベル 1

 称号 なし

 種族 人族


 ユニークスキル

 超速成長


 スキル

 剣術 固形魔力ソリッド 鑑定 索敵


 ##########


 おお!

 すごい!

 なんのことだがわからんがとにかくすごい。(んだと思う)

 超速成長。

 うーーん、いい響きだ。


 それに剣術かあ……

 いいねえ。

 僕、剣持ってないけど。

 木の枝でも使えるのかな?


≪初期設定、完了しました。暗黒空間から解放します≫


 ――シュゥゥゥゥゥゥゥゥ


 俺の体が光の粒子に包まれていく。

 再び目を開けた時、そこは既にあの無機質な空間ではなかった。


「ほうほう、ここは草原という場所か」


 草原にいた。

 遠くには都市らしきものも見える。

 まあ見ためはまるで今まで見慣れてきたそれとは違ったが。

 異世界情緒溢れる城塞都市で、とんがり頭の建物、荒い石畳の大路、その他もろもろ。


 城塞のある都市で、外の草原には所々に魔物がいて、そこらへんには地下迷宮がある。


 そして今まさに、その草原の魔物たちに囲まれている状態であった。

 青がかったゼリー状の魔物。

 スライムか?

 かの有名な。


「ははは……これはこれで酷い」


 ゲームでいうところの、チュートリアル、雑魚中の雑魚。

 それがスライム。

 ただ、俺の場合、まだゲームとかで最初もらえる『初期武器』や『仲間』がいない。

 それともアレか、スライムに負けそうになって覚醒する主人公か?

 なんかダサいな。


 てか、てか?


「どーやって戦えばいいんだよーー!!」


 叫んでみた。

 もう一回見てみよう。

 俺のスキルの中で戦闘能力がありそうなやつは。

 剣術、固形魔力ソリッド、以上!!

 剣術、剣どころか木の棒すらないため使用不可!!

 そして固形魔力ソリッド!!

 なんじゃこりゃ!?

 そもそも魔力ってなんじゃ!?←超ニワカ


「死ねっ死ねっ死ねー!!」


 ――ガシガシガシ。

 全力で潰しにかかる。

 しかし、


 ――ボヨンボヨンボヨーーン!!


 ゼリー状なため全て弾かれてしまう。

 せめて攻撃力がもうちょいあればダメージを与えられるのに!!

 くそぉ!!


「キュキュキュイ!!」


 べちゃ。

 スライムから得体の知れない液体が発射され俺の手に付着する。

 その次の瞬間、俺の手を激痛が襲う。


「うわ痛った!!」


 そのスライムエキスには対象を消化する作用があるらしく、俺の手の甲も一部消化されてしまった。

 そして前世なら「え? 誰に会いたいの?」と突っ込んでくれる突っ込み担当が誰かしらいたのに、今ではそれさえいないという現実を思い知らされるナルセ。


 こうなったらもう――どんな技だが知らんが――謎の虚しさを味わせやがったスライム共には、必・殺!!


固形魔力ソリッド


 どすん。

 スライムの上に紫色の物体が現れ、そのままスライムを押しつぶす。








 その時こんな声が聞こえた――気がした。


≪レベルが33上がりました。≫


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