第6話 友人について語る

 噂が広がる前から俺はタケダトモヤを見たことがあった。アンズより少し背が高くて黒髪で黒い目。ああ。こういうのが極東の国の住民の特徴だとすぐに分かった。


 アンズの親父が極東の国出身だって知ったの、勇者の役目終わった頃だったし、びっくりした。この国で極東の国出身ってそうそうねえし、機会があったら話聞こうかなって思ったかな。


「シルクの服屋、新しいの入ったって?」

「何でも男が入ったらしい。珍しいよな。黒髪で黒目」


 護衛任務が入る前にそういう噂を聞いて、あの時の男が服屋で働くようになったんだって知った。


「俺の後継者が入ったよ」


 酒屋でシルクの旦那が大泣きしていた。珍しいものも引き受けてくれているとか。若いのに優秀だとか。あの日は自慢ばかりだった。

 

 護衛中に会った同僚のジャッキーからも情報は…大したものじゃなかったな。彼奴に変な事教えてんじゃねえかぐらい。


 そんで休みの時に俺はシルクの服屋に入った。ちょっと気になっていたしな。


「いらっしゃいませ」


 あの時はすれ違いレベルだったから、第一印象なんてものはなかった。近くでみると幼いなって感じ。あと細い。ちゃんと食ってるか?


「何か御用でしょうか。シルクさんに会いたいならもう少し待ってください」

「いやちょっと中を見に来ただけだ」


 前は服だけだったけど、小物が一気に増えたと思う。煌びやかなネックレスとか飾りとか初めて見た。


「そうですか。何か気になる事があれば声をかけてください。俺、作業に戻りますので」


 最新式の魔法ミシンの隣に気になるものがあった。大きい独特な襟の白い上の服。胸元がVに近い形か?王国で一度も見たことのねえものだ。


「あーこれ気になりますよね」


 流石にじっと見てたらバレてた。新しいデザインか何かかと思った。


「これセーラー服って言いまして。俺の故郷の遠い国発祥で国の武力組織に使われている事が多いんです。俺のとこでは女子の制服として使われる事が多いですし、創作でも人気だと思いますよ」


 へー世界って広いもんだな。知らないことだらけというか。


「とあるお客様から珍しいものでよろしくと言われまして製作途中です」


 物好きがいるもんだと思った。まあ金持ちはどいつもこいつも好奇心旺盛だし、あわよくば商売に……いやシルクの旦那が許してくれねえわ。


「まだ新米の俺にオーダーするなんて余程の物好きでしょうね。腕とかあまり見せていないのですが」


 頬をかいてら。まあ入ったばっかで直々に頼まれるのは予想外だろうし。


「ははっ!依頼主の顔、見てえな」

「流石に個人情報ですので下手に出せませんが…いらっしゃいませ」


 あ。マジか。こんなとこでアンズとばったり会うかよ。


「奇遇ね。何か欲しいのあった?」

「いやただ中を見ただけだよ。そういうお前は」

「欲しいのがあって。あった」


 窓の近くにある木の机の上にあったピン止め。赤い透明の何かが付いてるな。


「これください」

「あ、はい」


 銅貨10枚。10フィフか。やっすい。


「まあピン止めですし材料も安いので」

「いやもうちょっと高くしてもいいと思うんだけど。大丈夫?」


 アンズに心配されてるぞ! 新入り! 彼奴セーラー服とやら見て余計に心配そうになってるし!


「新入り君がここまでする必要もないと思うよ」


 彼奴がここまで心配するって早々ねえって。マジで新入りがお人よしなのか、アンズの親父と同郷だからか。どっちなんだろうな。


「こっちに来てから月日経ってないんでしょ? 無理しないでよ?」


 あ。同郷のよしみだったからか。


「でも本当に好きでやってることなんですが」

「職業病もほどほどに。体調崩す人いるんだから」


 こう見てると、姉弟って感じするな。普段からこういうやり取りなんだろうな。


「よー。ただいま戻ってきたぜぃ」


 金髪の中に白っぽい何か。あ。白髪生えてきたのか。均等に刈っている茶色の眼鏡(後で知ったけどグラサンというらしい)をかけたおっさんがシルクの旦那だ。


「おーエリアルもアンズもいるのか。こりゃ珍しいこともあるもんだ」

「え……シルクさん。今なんて」


 新入りの反応があれだ。名前だけ知ってて見た目だけ知らないあるあるだな。


「エリアル。悪い奴を倒した勇者だよ」

「え!?」


 まあこんなあっさりと出くわすとは思わねえだろうよ。多分逆の立場だったら同じ感じになってたと思う。


「うっそだろ」


 素が出てる出てる。


「いや本当に俺がエリアルだ。でもシルクの旦那。勇者はもう過去のもんだぜ?」

「王国民の心の中に勇者がいるもんさ。例え、歴史になろうともな」


 すっげえロマン溢れる発言ありがとう。その前に部下をどうにかしろ。


「え。全属性と光と闇の精霊の加護を持った最強の騎士じゃん。完全に主人公だ。う

わーすげぇ。オーラが全然違うってい」


 興奮気味だなおい。んでアンズが容赦なく新入りの頬を叩いた! ええ……。


「落ち着きなさいよ」

「す……すみませんでした」


 擦ってる。痛そうだ。


「新入り君。自己紹介」


 多分アンズも名前まで知らなかったからだろうな。多分。


「えーっと自己紹介します。俺、タケダトモヤと言います。トモヤと呼んで構いません」


 握手求めてきた。こっちも答えねえとな。


「エリアル・アンバー。エリアルでいいぜ。で。こっちが」

「アンズ・アズマ。よろしく」


 これがきっかけで色々と話すようになったと思う。ばったり街中で会ったら話しするようになったしな。


「うわーこの手、洗いたくないな」

「不衛生よ」

「不衛生だからやめなさい。トモヤってたまにこういう発言するよな?」


 俺が先に店から出たら、こういうの聞こえたんだが……気のせい……だよな?




 ……まあそんな感じで話した。ヘリー兄さん、終始ニヤニヤしてるな! 変な事企んでねえだろうけど、すげえヤな予感。母さんは女性視点で興味持ったっぽいな。誕生日来たらトモヤ手作りの何かをプレゼントにするか。箒星交通システム、回数少ないし、徒歩だと遠いから行きづらいだろうし。


「三角関係……ならないといいな。エリアル」

「そんな感じはしねえんだけどな」


 ヘリー兄さんのニヤニヤ顔の原因がこれか。恋愛関係の。どっから来たんだその発想。てか、そういうとこまで行かないと思うんだよな。接し方が完全に姉と弟そのものだし。


「エリアル。感謝祭になったらそっちに行くから!」

「そんなわけでよろしく!」


 最後の最後で母さんが爆弾発言。んで親父は止めろ!



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