第5話 マンドラゴラ収穫

 葉っぱが赤くなると、マンドラゴラの収穫時期に入る。魔力を持つ植物なのか、そいつらは根っこに顔があるし、耳を塞ぎたくなるほど叫ぶ。薬の材料になって、国の輸出物の1つらしい。専門の農家がいるぐらい盛んだ。って言っても、俺の実家は麦と野菜の農家で貴族との提携でって感じだ。まあ大体は貴族と提携しながらだけど。


 貴族は金持ちだし政治とやらにも入れるらしいが、その分ルールを破ったら厳しい。貴族がやりたい放題したから出来たルールだと、俺のふるさとの村の貴族のトルネスさんが言っていた。


 トルネスさんは俺と同じ人間。おじいちゃんの歳で背中が曲がっている。貴族だと野菜を育てる事しないってとこ多いけど、趣味でやっているんだとか。その趣味に夢中になりすぎて農家と同じ扱いになってるのは笑ってしまう。


「俺を呼ぶのは麦の収穫だけでいいと思うんだけどな…」


 たまに収穫時期になって手伝いに故郷に帰る。父さんと母さんの手伝いで。量を考えるとマンドラゴラは手伝う必要ねえと思うけど、毎回トルネスさんのマンドラゴラ収穫時期も呼ばれる。


 箒星交通システムっていう空を飛んでいく移動手段で行く。30分ぐらいで着いてすぐに収穫を手伝う。何で一気に収穫しねえとダメかっていうと。


「一気に収穫しないと近所迷惑だからね」


 まあそういうことだ。トルネスさんが苦笑い。村中にマンドラゴラの叫び声が聞こえるし、心にも影響が来るって話だ。マーリンは、


「まだマンドラゴラの品種改良途中でね」


 だそうで、相当苦労してるんだと思う。叫ばないマンドラゴラ、来て欲しいな。ついでに顔のなくなって欲しい。あれって引っこ抜かれたら、人のような顔で悲鳴をあげて命が終わるからな。心にグサリと来る。ほんとマジで。


「耳当てと手袋と籠、持ったな」


 あー……休みが休みじゃねえ。精神が死ぬわ! 根っこの皺くちゃの顔がこっち見て、叫ぶんだぜ!? 夜眠れねえって。でも金が貰えるから引き受けてる。高いし、少しでも旅の資金貯めて置かねえと。


「エリアルがこっちにいると違和感が」


 マンドラゴラの畑に入ると見知った顔がいたな。赤髪を逆立てた三白眼の痩せた男。ヘリー兄さん。ちっちゃい時よく遊んでた近所のお兄ちゃんみたいな感じ。うん。騎士をやってる俺が田舎にいるのもおかしいよな。笑い堪えるの見えてんぞ。頬膨らんでるし、唇が震えてるし。


「うっせえよ! ヘリー兄さん。いいだろ。ふるさとに戻っても」

「ははっ! 違いねえや! そういりゃアンズちゃんと一緒に戻らなかったのか?」

「彼奴は仕事だ」


 アンズと幼馴染で遊ぶこともあったけど、勇者だった時と今は都合が合わない。たまにばったり会って話するぐらいだ。フーリーもそうだけど、なあんで俺より年上の奴ってアンズとの関係について聞くんだ? 恋愛に発展したことなかったろ。


「そっか。残念だ。色々と話聞けると思ったのにな」

「大した話はしてねえよ。服の話したぐらいで」

「お前が服の話を? 珍しいな」


 男が服の話するの変だろうな。最低限動ければそれでよしだし。洒落を気にするのは貴族か王族だ。


「正確に言うと服職人だ」

「ああ。確かタケダトモヤっていうアンズちゃんの親父と同じ国の出身か」


 噂の新入り服職人、シルクの旦那が言った新入り、そいつの名前がタケダトモヤ。本当に黒い髪なんだよな。優しそうな印象が強い。ヒューロの言葉を上手く使えていない時あるけど、よそから来ててある程度話せている時点で凄いと思う。学がありそうだなって思う。下手したら年上の俺よりも知識あるんじゃねえか?


「……ちょっと興味があるな。く・わ・し・く!」


 4回も背中を強く叩くな! 分かったから! 後で教えるから! 先にマンドラゴラ収穫!


 その後、大きいトラブルが起こる事無く、無事マンドラゴラ収穫終了。話を聞くため、ヘリー兄さんは俺の実家に来て、一緒に夕食を食べた。そんで未だにある俺の部屋で話すことになった。赤毛の緑目の女性と茶髪の屈強な男も……つまり俺の両親も部屋にいる。いや何でだよ。


「エリアル、俺らを案山子だと思って話していいぞ」


 緊張するって! 恥ずかしい話じゃねえからいいけど!


「城下町にいる新入りの服職人だしつまらねえと思うぜ? いいのか」

「構わないわ。あなたの大切なお友達だもの」


 母さん、友達認定早い。いや休みになってつるむこと増えてきたけども。ずっと黙りっぱなしじゃ、2人とも出ないだろうし、ヘリー兄さんの目的もあるし、仕方ない。


「噂を聞く前に姿だけは見たことあったんだ」


 騎士団以外の友人、タケダトモヤについて話していこう。


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