第4話 帰り途中でも油断できない

 宴会をやった後、寝て、朝を迎える。アリアナさんから大量の金貨と魔法薬の材料っぽい干したものを受け取って、フロイアから出発。帰りも平穏なままかと思ったけど。あ。今は城下町近くの森にいる。


「護衛中の俺に連絡寄越すかよふつー……」


 護衛任務の俺に一報が届いた。それだけならまだいい。中身が問題だったんだよ。


「何が」


 アンズが手紙を奪って、マーリンに渡す。いや何してんの。


「マーリンさん」

「どうも」


 いやどうも。じゃねえよ。


「密猟者がいると」


 その面倒ごとの中身は密猟者がいるから見かけたら捕まえて来いよというものだ。ヒューロ王国の城下町からフロイア自治領の間と周辺は狩り禁止なんだけどな。例外として、魔獣による被害が出てきた時、フロイアからの依頼ぐらい。その情報がねえってことで騎士団から連絡が来たってわけだ。


 ほんと、なーんで帰りに連絡来たんだ。ふざけんな。広範囲で遭遇するわけねえじゃんか。


「狙いはユニコーンだろうね」


 一角獣ともいうよな。あの白くて毛並みの良い馬。触ったことあるけど最高だった。


 ユニコーンの角、血、毛皮、何でも魔法の道具とか薬とか服になるから儲けがあるんだよ。それが理由で狙ってる。そもそもユニコーン自体、貴重だから狩っちゃダメなんだけどな。


「どうする?」


 マーリン、分かってて聞くかよ。


「いやそもそも俺護衛中だしリスク面を考えると他の奴らに任せた方がいい」


 魔獣がいる森でアンズたちを置いてけぼりにするのはまずい。


「だろうね。僕も同意見さ」


 それに騎士団の中でもスピードがある奴いるし、索敵出来る奴とタッグ組めばどうにかなるだろ。


「密猟者の事は他の奴らに任せて俺らは帰りましょう」


 逃げた範囲が分からねえし、どうせ遭う事ねえだろう。そう思ってた。思ってたさ!


 なあんで。ばったりと遭うんだ。


「何だ此奴足はえええ!」


 2人組のバンダナの男。例の密猟者だな。青ざめてる。真正面の俺らに気付いちゃいねえ。気付くはずだけど、余裕がねえんだな。誰だ? 追いかけてるの。


「ハハハッ! この俺様から逃げられると思うなよぉ!?」


 金髪のポニーテールの男。優男だけど俺様と名乗る自称「ヒューロ王国騎士団のスピードキング」ことジャッキー・ジャガー。普段は魔法魔術で耳と尻尾を隠してるけど、列記とした獣人族らしい。


 スピードの出し過ぎで転ぶとか調子に乗るところとかあるけど、スピードはダントツだ。追っかけられると恐怖しかない。そりゃ密猟者ども青ざめるよな。同情するぜ。


「最速のジャッキー君か」


 街でも知名度が高いから、騎士団じゃねえフーリーでも知っている。


「でしょうね。スタートが遠距離でも一瞬で追い詰めるのは流石としか。でも問題はスタミナ切れ。長丁場になる程、不利になるでしょうね」


 アンズがメッチャ冷静に解説してくれてる。


「ああ。だからこそこちら側から何かする必要があると言うわけだ。エリアル」


 マーリンが聖樹の枝を持ってる。え。まさか。


「俺も捕獲に専念しろって?」

「あと少しで城下町への整備された道に入る。ここら辺だと魔獣の住むエリアから離

れているからね。それに護りは僕の専門でもあるし…まあ任せてくれたまえ」


 そうは言ってもなあ。職務放棄になり兼ねないんだけど。いい方法ねえかな。一瞬で良い。怯ませることさえ出来れば、ジャッキーの蹴りの圏内に入る。


 つかさっき彼奴と視線あった。流石に気づくよな。あ。丁度いい所に石めっけ。運悪く彼奴に当たりそうになっても避けれるだろうしこれでいいだろ。ほんの隙間を作れるようにしとけばそれで問題ない。多分だけど。


「これで当たってくれ」


 青色のバンダナの額に向けて投げる。


「あだっ!」


 命中した。当たるもんなんだな。足が止まった。


「おいどうした」


 よし。青色の相棒っぽい緑のバンダナも止まった!


「追いついたああ! せりゃあ!」


 膝で背中を蹴ってねえか? 痛いってありゃ。


「がはっ!」


 緑のバンダナがダウン。


「ごはっ!」


 しかも右拳で青色のバンダナの頬を同時に殴っていた。器用過ぎだ。


「密猟者2人確保! 助太刀ありがたい!」


 ジャッキーの声、相変わらずやかましい。自称が俺様なのに義理堅いし礼儀正しい。


「お前こそご苦労様。どっから追いかけてきたんだ?」


 ジャッキーは器用に密猟者2人の手足を縛る。どんなことでも早業になるんだよな。すっげー謎。


「ヒューリオ近くの道で捜索している時に知らせがあったもんでな。レオ隊長が追っていたのだが中々追いつけないと聞いたので駆けつけて追いかけっこになったというわけだ」


 位置を教えてくれる道具もあるからそれで近くまで走って、密猟者見かけたからまた走ってって感じか。ここまで遠いはず。スタミナありすぎだ。


「俺様はこの2人を屯所まで連れていくが、エリアルは護衛続行か」

「ああ」

「油断するなよ! 新入りの服職人が言うには“家に帰るまでがピクニック”だからな!」


 噂の服職人……ジャッキーに変な事を教えるなよ。彼奴騙されやすいんだからな!


 つか、そもそも家に帰るまでって何だよ!? あれか。最後まで何が起こるか分からねえからなってことか。


「肝に銘じておくよ」


 もうこれしか言えねえ。護衛だから油断しないけど。まあ念のためだ。彼奴らと別れて、森の中に歩いたんだけど、何事もなかったな。城下町に到着して、解散して、俺は護衛中の事についての書類を軽く書いて寝た。


 ……密猟者の件、どうしよう。あとでジャッキーに連絡入れとかねえと。


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