第7話 感謝祭 その1

 恵みを与えるっつー神様に感謝する祭りは秋頃に行ってる。感謝祭って名前だ。城下町のヒューリオが一番賑わう時期だ。んで。治安が最も悪くなる時期だったりする。城下町に屋台出るし、大人は酒飲むし。3日間は騎士団にとって一番忙しいものになる。俺も例外じゃねえ。


「俺様も参加してええ」


 一緒にいるジャッキーがぼやいてんな。気持ちは分かる。滅多にない屋台の食べ物、遊び、踊り、酒がある。20歳過ぎても楽しみたいときがあるもんだよ。少し休みがあるだけマシだと思うけどな?


「だめですよ。ジャッキー・ジャガー。騎士団の役目を放棄してはなりません」


 持ち主と同じぐらいの大きい杖の先っぽでジャッキーの頭を叩いた。褐色肌で髪が紺色の獣人族の女性魔術師。ロロ、久しぶりだな。


「よ。ロロ」

「エリアル。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「そっちもな。王様もどうだ」

「多忙ではありますが問題なく過ごしております。太り気味であること以外は気にしてないと思いますが」


 エドの奴、更に太ったみたいだな。


「それ以外は問題ないらしいので、現在、ダイエットなるものを計画中です」


 ダイエット? 初めて聞いた名だな。え、また魔術学園で変な計画つくった?


「魔術学園か?」

「いえ。私自ら計画を作っています」


 無限ポケットっぽい計画もやってるのに……大丈夫か。


「治癒魔法魔術に精通している者に尋ねても前例がないと言われて……とある者に協力をしてもらいながらたてております」


 技術革命が起こる前はヒューロ王国って食べ物でさえ苦労してたって話だ。王族も例外じゃねえってことだし、治癒魔術師もお手上げだろうな。てか。とある者? 多分魔術師だろ? 絶対、俺の知らない奴だ。


「服職人が『ダイエットするしかないんじゃ』とぼやいていたので無理やりにでも協力者に仕立て上げました」


 絶対トモヤじゃねえか! 知らない言葉ばっかり知ってるからな!


「それ遠い東の国出身の」

「はい」


 やっぱそうじゃん!


「本人は『ド素人だからあてにするのはどうかと思いますが』と言っていましたが、たまに参考になることがあるので」

「おー……ロロ様ってたまに王様になると」


 やっとジャッキーが会話に入ってきた。目、閉じたり開いたりしてる。接点ねえし、こういう人だと思ってもみなかったんだろ。


「まあ忠義を尽くす奴だからな」


 ロロって昔の出来事がきっかけでエドに忠義を尽くすようになったんだよな。でも結婚しようとか子を作るとかそんな考えにはならない。多分王様としての役割とか、エド個人の幸せとか、自分自身の体質とかを考えて……だろうけど。


「俺は何も言わねえけど……とりあえず彼奴に迷惑かけるなよ。一般の服職人の立ち位置だからな」

「分かってます。エドモンド様に呼ばれたのでこれで失礼します。任務頑張ってください」

「おー……」


 エドよ。頑張ってくれ。その後見回りしてったけど、特に大きいトラブルは無く、1日目終了となった。


 その次の日の夜。母さんとばったり会った。俺が仕事中に。赤毛を1つに纏めたシンプルな服を着た女性が俺の母だ。多分俺の赤毛も母さんからだろうな。


「エリアルーっ! 遊びに来たわよ!」


 人だかりの中でよく俺を見つけたな! 一斉に他人が俺を見るから、視線が痛い!そんで母さんは気にせず俺に近づくなよ!


「ほんとに来たんだな! てっきり冗談かと思ったわ!」

「本気で言ったに決まってるでしょ? 滅多にないお祭りだものー」


 あー笑顔だから否定的な事言いづらい!


「あ。リーニャさんだ。お久しぶりです」


 アンズとフーリーさん来ちゃった……。


「アンズちゃん。あの人がエリアルのお母さまかな」

「ええそうですが」


 アンズがぶっきらぼうに答えてる! めんどくさそうって顔してんな。


「アンズちゃん、久しぶりね。この人は」

「お久しぶりです。彼は私の職場の面倒な先輩のフーリーさんです」


 「面倒な」を強調して言った気がする! フーリーさんも否定してねえし! 自覚してあの動きは面倒……いや節介焼きで何処までいくのか予想つくからか? 分からねえ。


「どうもー。エリアルの母のリーニャです」

「フーリーです。前にエリアルの世話になりました。アンズちゃんからエリアルの話を伺っています。その事について詳しく教えてください」

「ええ。私が詳しく教えてあげる!」


 節介焼きっていうより情報収集が好きなだけなような……。いや世話するにも情報がいるからか?


「はあー……。いい人なのかそうじゃないのか分からなくなる」


 思いっきりため息吐いたな。


「……アンズ、ご苦労様」

「あなたもね。祭りに参加したいのに騎士だから」

「城に引き籠ってないだけマシさ」


 だってエドは城の中で政務に集中してるだろうし。こっそり抜ける可能性は否定できねえけど、短時間だろうしな……祭りの中にいられるのは。そう考えると俺はマシなんだよな。だって。


「明日は自由なんだ」

「休み貰えたんだ。意外ね。てっきり最後まで休みなしかと」

「そこまで騎士団は鬼じゃねえからな」


 騎士団は感謝祭が行ってる3日間の間のどれかが休みになっている。娯楽も必要なのを上司が分かってるからだろうな。


「そういうお前は」

「私は務めてる所が出してる屋台で茶を出すの」


 あー……アンズの仕事場って確かハーブ園もやってるからそれ系か。


「明日そっちに行ってみるな」

「私も一緒に行くからねーっ!」


 母さんが俺らに振り返って言ったな。フーリーさんと話してたのにどうやって聞き取れたんだ。人ごみの中なんだけど? まあ久々に親子で楽しむのも悪くねえよな。


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