第2話 フロイア自治領へ目指す
フロイア自治領に行く当日。集合場所の噴水広場で。
「あっつぅ!」
俺の部下がまた燃やされていた。あれアズマが受けている火の精霊の加護だな。
「レディに対して失礼な事を言うからだよ。臭い水、投与するかい?」
臭い水もやったら彼奴精神的に死ぬだろ。てか。さらりと笑顔でおっそろしいこと言ってるな。あの糸目の瘦せ男。
「ええ。お願い」
あーこれ俺が止めねえとやべえ奴?
「まあまあそこまでにしておきなよ」
この声はマーリンか。エルフの女性で年齢は確か300歳だったか。金の短い髪で珍しく赤目。顔が良くって、胸が大きいから騎士団でも人気があるんだ。抱いてみたい女ナンバーワンだとか。幻術でしらばっくれるのがオチなんだけどな。
「何でお前も混じってんだ」
彼奴、魔術師って職業だから呼ばれるはずがねえんだよな。
「何ってフロイアは僕の故郷だし、これでも薬の知識だってあるんだよ」
「自己推薦の癖して何言ってるんですか」
アンズが冷たい目でマーリンを見てる。暇だったから混じっただけっぽいな。国家雇われの魔術師がそんな自由でいいのか。
「でも知識は本物だからムカつく」
お前、滅茶苦茶悔しそうにしてんな。まあマーリンの研鑽は尋常じゃねえからな。素人の俺でも分かるし、感謝してる。
「あの手際は本物ですもんね」
金髪のイケメン。確かこの間の酒屋で娘の自慢してきたガゼルって奴か。
「ええ。彼女こそ私たちの理想。色々とご指導よろしくお願いいたします」
銀髪の女性。アンズよりちっせえな。でも俺らより年上だよな。自信ねえけど。
「固くならなくていいよ。紹介するよ。こっちはエリアル。皆も知ってるだろうけど
勇者として世界を救った騎士さ」
マーリン、勝手に俺を紹介すんな。あと勇者は言い過ぎだ。俺一人じゃねえしお前もメンツとして入ってただろうが。
「だからその言い方はやめろ。エリアルです。今回はエドモンド王の依頼で護衛することになりました。危ないことがあったら俺とマーリンの指示に従ってください」
因みに。部下は偶然会っただけで同行するわけじゃねえからな。
「こちらこそよろしく頼みます」
挨拶したから、フロイア自治領に出発。トラブルが起こらない事を祈ろう。なんて思ってたけど、ヒューロ王国の城下町のヒューリオから出て4日ぐらい。魔獣が出るって話だけど、出て来なかったな。楽だからいいけど。
いつの間にか日が沈んで月が空に浮かんでる。夜になっても明るくて見えやすいのが助かる。まあそれでも明かり代わりの火が必要なんだけどな。
「あと少しで着くっと。ようし!えーいやっ!」
マーリンが誰かに手紙を飛ばしたっぽい。魔術で。魔術師じゃねえ俺が思うのもあれ だけどよ。「えいや」はねえって。
「エリアルも思うのね」
アズマが呆れた目で茶を飲んでる。たまにマーリンの奴、アズマの仕事場に来るときあっからその時に見てるかもな。俺の方は戦いと研究以外で腐る程見てた。今も昔も雑な時は雑な魔術師だな。プライベート限定だけど。
「まあな」
「昔もマーリンさん、あんな感じ?」
「戦いと研究以外は大体。彼奴の弟子、今の国王のエドが小さい頃からああだったってよ」
「もう癖になってるのかもね」
「癖っつーよりオンオフの切り替えが極端なだけだぜ?」
だって軍勢相手に魔術使った大仕掛けを無言でやり遂げたり、凶暴なドラゴンを一瞬で倒したりしてる。そんで普段は呑気な声で「えーい」で済ませてゆっくりめ(多分)にやってるから。多分彼奴は適度な切り替えが出来る。そういう奴だろうな。
「あのエリアル様」
銀髪の小柄な女性。確かマリーだったか。
「様付けしなくていいです。俺はただの指導役の騎士。俺の方が敬語使うべきでしょう」
あ。目が大きく開いてる。
「流石の慧眼です。確かに私、30歳で子供いますけど」
俺より年上っぽいなと思っていたけど子持ちかよ。
「ちょっと僕はこの中で一番の年上なんだけど!?」
マーリンが文句言いやがった。ダチだし仲間だったし今更敬語はな。そもそも昔「敬語使わなくてもいい」って言ったのお前だからな。忘れてねえか。あと。
「だってその見た目で300歳はねえって!特殊エルフにも程があるだろ!」
エルフは長くて600歳。マーリンは300年生きてるから皺とか出てもおかしくねえんだけど。何で若いままなんだ。マジで分からねえ。
「僕の場合はスパイスを毎日摂取してるからね」
自慢げだなおい。スパイスって遠い国の輸入品だったか。ぜってえ嘘だろ。スパイスの輸入ストップしてるから取れないはず。魔術とか魔法薬とかで若作りしてるだけだろ。あとは此奴が特殊なだけとかありそうでこええ。
「マーリン様、300年も生きていらっしゃったのですか!?」
糸目、フーリーだっけか。まあ驚くよな。俺も初めて会った時もびっくりした。なんせ。
「まあね」
「あの黒土病を知る数少ない魔術師じゃないですか!」
150年前の黒土病を乗り越えて生きているわけだからな。原因不明で死者多数、国が滅ぶとかもあったおっそろしい病。
「厳密に言うと黒土病を知ってるわけじゃないんだけどねーあの時僕は端の国にいたし」
と言うように彼奴は全否定する。流行っていた国より更に遠い国にいたとかで乗り越えてないとか毎回言ってるんだよ。
「だから情報だけしか知らないんだ。治癒魔術使いの連中の大多数はもうこの世にいない。手掛かりは書物のみ。前の国王から対策プロジェクトとやらをやってるのさ。家庭教師の僕にとっちゃ関係のない事だろうけど」
マーリン。お前が魔術学園の極秘プロジェクトに入ってるの知ってるからな。そう言えばこの間やたらと騒がしかったけど何かあったのか。
「とまあこんな感じで僕に関する話はおしまい」
両手で叩いて誤魔化しやがった。極秘っつっても俺らには関係のないものだろうし、知ることもなさそうだしな。
「そろそろ寝ておこう。俺が見張りやる。マーリン、お前は先に寝ておけ」
それに明日に備えて寝た方がいい。フロイアに到着してすぐに仕事なんて言われるかもしれねえしな。男女別にテントを1つずつ用意しておいて良かったと思う。安心して寝れるだろ。
「オーケー。こうしてると昔を思い出すね。エドがいて、ロロがいて、君がいて。最強のメンバーだって言われてたっけ」
懐かしいな。結構最近終わったのに昔のように感じるよ。
「騎士団長が言ってたな。外の国だともっと強いのいそうだけどな」
「そうかもしれないね」
「いつか行ってみてえな。お前みたいに旅をしてみたいわ。戦わない旅って奴、俺もやってみてえし」
ヒューロ王国を旅して、異界の悪い奴らと戦った。旅人って感じがなかったしな。機会があれば、いや自分で金貯めて旅をしてみたい。俺はそう思う。あの頃に比べれば大きくなってるし、融通ぐらいは効くだろ。
「旅に憧れかあ」
此奴男の夢を笑いやがった。吹き出すなよ。失礼すぎねえか。
「何だよ。悪いか」
「いーや。何とも思ってないさ。おやすみー。交代になったら起こしてね」
嘘つけ。さっき笑ってただろ。
「はいはい」
マーリンもテントに入る。ほんと。静かになったな。獣っぽいのいるけど火があれば近寄らねえし。こっちが動く必要がないあたり、平和だなって思う。あの時は夜でも奇襲あったしな。もう二度とやりたくねえ。
「平和な時代になったし。旅で食事とか祭りとか楽しんで、いつか本を書けたらな。旅行記って奴を出してさ」
これが俺の夢。旅とかは前から興味あったんだ。勇者として城下町に来る前から。マーリンが俺にグスター共通語の文字とか他の国について教えてくれてからはもっと興味が湧いた。
東の極地の島国、日の国、大和及び江戸の国。色々名前がごちゃまぜだけどヒューロと全く違う光景の話。誰だって面白くなるだろ。まあ彼奴が言うには大和とか江戸ってめちゃくちゃ遠いみたいだけどな。だから今は金を貯めている途中ってわけだ。
「明日になったらフロイアか。アリアナさん達、元気にしてっかな」
お茶目なおばさんのアリアナさん。ドジなリリィ。フロイアにいる魔術師達、元気にしてるといいなあ。
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