第6話 クランのお仕事
今日の仕事は、王都近辺に発生した厄介なモンスターの駆除だ。
このモンスターを放置をしていると、旅人や商人が襲われて安全に通れなくなる。そこで、王国から冒険者ギルドに駆除の依頼が発行され、その依頼が様々なクランに流れていく。
森の中に突然変異で巨大化したという、グランドワームという名前のモンスターが目撃されたという情報を受け取った。
グランドワームというのは茶色で細長くて大きなブヨブヨ、ニョロニョロした形のモンスターである。
通常のグランドワームでも人間と同じぐらいのサイズがあるモンスターなのだが、どうやら今回は何十倍にも大きくなっているという報告があった。
戦うとなると、少し厄介そうだ。大きいだけで戦いづらいのに、グランドワームは刃を通しにくい。半端な力だと、倒すのが困難。
戦乙女クランに依頼される前に、他のクランが依頼を受けたらしい。だが、任務は失敗した。三組の冒険者パーティーが依頼を受けて、誰も倒せなかったという。
標的はかなり成長していて、表皮が通常より硬くなっていたらしい。まるで鋼鉄のように硬化して、並の戦士ではダメージを少しも与えられなかった。
結果、討伐に失敗した。そして、戦乙女クランまで依頼が流れてきたという経緯。
戦乙女クランから僕がリーダーとなって、6名のクランメンバーたちを引き連れて討伐パーティーを組んだ。
目撃情報があった森の中を突き進んでいく。
「いた。息を潜めて、静かにね」
「うん」
「「「「「はい」」」」」
早速、討伐目標であるグランドワームを発見することが出来た。体が大きいから、見つけるのは簡単だった。モンスターはまだ、俺たちに気付いていないようだ。
森の奥深く、緑の景色が見える中に青い空との間から、ヒョコッと茶色い身が姿を見せていた。
見上げるぐらいの大きさに、一面を覆うような身の長さがあった。遠目で見ても、だいぶサイズが大きいだろうという事が分かる。報告で聞いていた通りで、かなりのデカさだな。アレは、討伐するのに苦労しそうだ。
まぁ発見することは出来たので、後は全力であの標的を倒すだけ。
息を潜めて、しばらく観察する。あの大きさだと、どのくらいの体力があるかな。ここで戦って問題ないか。周辺に、他に注意するべきモンスターは居ないだろうか。
大丈夫そうだ。観察を終えて、奴と戦うことを決める。
「皆、準備はいいかな?」
後ろについて来ていたクランメンバーの方に振り向いて、戦闘準備は出来ているか確認を取る。もちろん、僕以外は全員が女性であるメンバーだ。
「うん」
「オッケーです」
「準備万端」
「行きましょう!」
「お願いします」
「大丈夫です」
全員の返事を確認してから、作戦を説明する。
「エレーナ、僕が先に仕掛けるからタイミングを見て追撃をお願い。他の皆は、森に潜んでいるモンスターが集まってこないか注意して、じっくり観察しながら戦い方を勉強してみて」
「わかった」
「「「「「はい!」」」」」
最初に返事をしたのは、エレーナという女性である。彼女は最近、戦乙女クランに加入したばかりの子。それなのに、ずば抜けた戦闘能力があった。大斧で戦う彼女はよく、任務に駆り出されている。
僕の身長と比べてみると、倍近くの身長差があるほど背の高い女性だ。エレーナに後ろからの援護をお願いしておいて、まず僕が先に1人で突っ込んでいく。
他のメンバーは、万が一の場合に備えて来てもらっただけ。戦闘に参加する予定は無い。彼女たちには僕の戦い方を見てもらって、戦い方について学んでもらうことが目的で連れてきた。今後の戦乙女クランを支えてもらう戦力に成長してもらうため。つまり、新人教育である。
何かあれば戦ってもらうので、戦う準備はさせておく。
「行ってくるね」
その場にいる全員、心の準備も整ったのを確認してから僕は飛び出していった。
「フッ!」
モンスターの奇襲に注意しながら森の木々をすり抜けるように走り、目の前にいる巨体なグランドワームの相手をする。まずは、グランドワームに接近してから一撃を食らわす。
「ハァッ! ッ! っと、やっぱり硬いな」
一足飛びで近づいた勢いのまま、手に持ったロングソード、騎士が使用するような鉄剣で斬りつけての一撃。ガギンと、金属同士がぶつかり合うような音が鳴った。
聞いていた通り、グランドワームの硬い皮膚に阻まれて刃が思うように入らない。手が痺れるほど、硬かった。これでは、ダメージを与えることは出来ないな。
「っと!」
巨大化しているグランドワームは、その見た目からは想像つかないが意外と動きが俊敏だった。
大きい身をちょっと動かすだけで、体の重さにより何十本もの木がバリッバリッと一斉に倒されていく。辺りに大きな音を響かせていた。
あの巨大な体の下敷きになってしまうと、ひとたまりもないだろうな。
「危ない、危ない」
踏み潰されないように動き回って、その合間に何度も攻撃を繰り返す。戦いながらグランドワームを翻弄し続ける。
攻撃を続けていると奴の視線がギロッと、僕を捉えているのを感じた。
これでよし。グランドワームに攻撃して注意を引く、という目的は達成だ。
「ウォォリャ!」
「ナイスだよ、エレーナ!」
後ろで攻撃の機会を伺っていたエレーナが、一気に接近して大斧を振り下ろした。大声を発しながらの一撃。僕に注目していたグランドワームの意識外から、致命傷を与えるだろう攻撃が入った。
「ギグギャアッッ!?」
グランドワームは口を大きく開いて、悲鳴のような音を発する。
期待の新人として世間でも有名になりつつあるエレーナは、本来ならば両手で使う大きな斧を片手で振り回す。彼女が力の限り全力で大斧を振り回すと、硬化していたグランドワームの皮膚でも阻むことは出来なかったらしい。
大斧の刃がグシャッとグランドワームの身の半ばまで食い込んで、破れた皮膚から大量の血が流れ出ていた。
ドシンと、地響きを鳴らしてグランドワームが倒れる。
「エレーナ、ありがとう! 一旦離脱して!」
「うん!」
エレーナが僕の指示に従って、グランドワームの側から離れる。
まだ、油断をしてはいけない。エレーナの与えた傷跡の上から僕も攻撃を加えて、傷口を広げてダメージを蓄積させる。反撃を警戒しながら。
「っし」
攻撃を受けて血を流し、地面の上でジタバタと身をよじっている巨体に巻き込まれないように僕も一旦離れる。
近くに立っていると踏み潰されそうだから、奴の様子を離れてから眺める。
暴れたら、体力は徐々に消耗されていくだろう。奴の体力が尽きて、落ち着くのを待つだけ。
「あれで大分弱ったから、後は簡単かな」
「やったね」
今回の戦いで、敵に致命傷を与えるという一番の手柄を立てたエレーナが、大斧を肩に担いで近寄ってきた。
いつもの無表情が、今は少しだけ微笑んでいて嬉しそうだった。
「うん。エレーナも、お疲れ様だよ。援護ありがとうね」
「役に立てた?」
「もちろん! すごく助かったよ」
「なら、よかった」
遠くから敵の様子を観察してみると、もう作業の大半が終わったと確信する。
あとは時間を掛けて、絶命するのをじっくり待つだけ。作業を早く終わせるため、攻撃を加えるのも良いかもしれない。
「さて、この後は」
「森で訓練する?」
「そうだなぁ……」
ついでに、今回は勉強させるために連れてきたメンバーの訓練をするのに森の中を探索しようかな。
予定していたよりも、だいぶ早く終わってしまったグランドワームの討伐。死体の処理をした後は、依頼とは別のモンスターを探して討伐しに行くか。
色々と考えて今日この後のスケジュールについて、頭の中で予定を組み立てた。
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