演目:炎の腕(かいな)のサラマンデラ
@dekai3
導入:腕を燃やしたサラマンデラ
非常灯の灯りのみを付けた真っ暗な客席。
天井から私目掛けて降り注ぐスポットライト。
ステージの端には耐火素材のカーテンがかけられていて、その奥では私がステージ開始の合図を出すのをスタッフ達が今か今かと待ち続けている。
ここは私の為のステージ。
私だけのステージ。
【
一見単なる床に見えても熱で変形しない素材が使われているし、客席には熱が届かない様に最前列からステージ目掛けて極細のミストが撒かれている。
万が一の事も考えられて客席の天井にはいくつものスプリンクラーが設置されているし、スタッフの中には消防士の資格を持つ人だっている。
全員が私の為にこのステージを用意してくれて、
全員が私のステージを見る為に集まっている。
だから、私はみんなに踊りを見せてあげるの。
私に従う事に喜びを感じさせる為の、ご褒美の舞を。
世界で私にしか出来ない、特別な炎の舞を。
私はその為に生きている。
皆が私を求めている。
さあ、始めるわ。皆、目を凝らして見なさい。
これが、私の舞よ。
これが、私の異能よ。
これが、私よ。
これが――――
ぼうっ
突如ステージ上に発生する炎。
観客達は種も仕掛けも無く私の腕から立ち上る炎を見て歓声を挙げる。
世界で初めて手の平から炎を出して操る異能とダンスを合わせた私のパフォーマンスは、世界中から観客が訪れる程の大ステージとなった。
この講演はその初日。
この会場に居る誰もが私が出した炎をステージの始まりの合図だと思っていた。
でも、炎を操る異能を持っている筈の私の様子おかしい事から、歓声は徐々にどよめきへと変わる。
「いやぁ! 熱い! 腕が!! 腕が、燃える!!! 助けて!! 誰かぁ!!」
当初、ステージのスタッフ達はリハーサルと大幅に違う炎の熱量を私なりのパフォーマンスの一つだと思っていたらしく、私の異変に気付かずにそのまま予定された音楽をかけ、スポットライトはステージ上で転げ回る私を照らし続けた。
ステージは耐火素材で作られていて客席へは熱が伝わらない設計をしていたので、私が出した炎が大きくても問題が無いと思ったらしい。
その為、私は観客達がどよめく中、
真っ暗な会場の特性のステージの上で、
煌びやかなスポットライトの光を浴び、
自分が踊る筈だったクラシックの音楽に合わせ、
己の両腕を燃やしながら、悲鳴を上げてのたうち回る事になったのだった。
私は私の為に用意されたステージで、自分の異能に腕を焼かれたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます