第12話
予定調和という言葉を予知的に使うのはあまり好きではない、とバニラは言う。
運命とかそういうの、嫌いだななんて言った。
チョコはふーんとしか言わない。
実際どちらでも良かった。
ただ、後悔のない日を過ごせたか、思うことはそれだけで。
ジャンボには次の日の朝は来なかった。
蝶も眠りについている早朝、いつものように目を覚ましたふたりは、ジャンボの生死を確認した。
そして、亡くなっていることに気がついた。
不思議と二人とも冷静で、どうしようか、なんて話し合って。
とりあえず蝶を逃がすことにした。
網をしばらく振って、全部、外に出した。
夢の後片付けのようだと二人は思う。
朝の内に全て終わらせてしまおう。
二人は無言の内に淡々と、必要なことを済ませて行った。
隣人も手伝ってくれた。
そうして今、二人は墓の前にいる。
墓なんて立てる余裕があるかと聞かれたら気まずいところだ。
まぁ、切り詰めれば、それにこれからは二人で働けるから、維持はできるだろう。
なにか形が残っていないと、ジャンボはここにいると思わないと。
いや……。
「やっぱり、俺、ダメだ」
先に泣き出したのは、バニラの方だった。
治ってくれと願い続けた四年だった。
バニラは「なんでだよ」と叫んだ。泣き叫んだ。
チョコは静かにボロボロ泣いた。
たぶん、分かっていたんだ自分たちは。
カンのようなもので、きっと。
だから、最後にジャンボの正気を取り戻させることが出来たのか。
いや、医療の場にはよくある事らしい。
中治り現象というらしい。
いいんだよそんなことはどうだって。
ジャンボは確かにあの日いたから。それだけでいいんだよ。
バニラは延々と叫んだ。
チョコは同じことを思って、泣いていた。
「もっと一緒にいたかった」
その言葉を最後に、バニラ泣き崩れた。
もう叫び声は響かず、チョコはそんなバニラの背中に手を当てた。
なんとなく互いに役回りが入れ替わりながら、今回はチョコがバニラを慰めていた。
別の日にはまた別のことが起こるだろう。
喧嘩もするかもしれないし、仲直りするかもしれないし。
そんな日々にジャンボはいなくなった。
そう理解してしまう。
未来を考えてしまう。先回りして泣いてしまう。
喪服のふたりはいつまでも墓の前にいた。
三人で生きていきたいとまだ思っていた。
心の中で生きている、なんて綺麗事はいらない。
「ジャンボのバカ!!!」
最後に空に大きく叫んだ。
夏のとある日の事だった。
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