第10話

 森にたどり着いた二人は「いたぞ、向こうだ!」とか「構えろ!」とか、騒がしくアホなやり取りをした。

真っ当な子供の虫取りにたまに出くわし赤面するのに、二人はずっと森の中でふざけ倒していた。

なんだか、そんなことが出来るのも今だけだという気がしたような、していないような。


 なんだっていいのだ。

目的さえ果たせれば。


 二人は森を駆け回り、いつかジャンボに教えてもらった立ち回りを無駄に披露して、虫取り網を振った。

「水分は取らなきゃダメだぞ」なんて、いつかのジャンボの声が聞こえたら、ちゃんと飲み物を飲んだ。

買い込んで日陰に置いていたのだ。

熱中症になりかけの子供にも1本分けてやった。

両親に深く感謝をされる。

チョコとバニラはそそくさと、その場から逃げた。


 愛はあった。今もあるだろう。

でも、ノイズの向こうに追いやられてしまった。


 二人は久しぶりに体力を使い果たすまで駆け回った。

この森の虫を根こそぎとってやる!とチョコは言い、そんなもんいらんとバニラが呆れた声を出す。

 しかし、そんな日も終わってゆく。

太陽は傾き、日はくれて、気がつけば入道雲がオレンジ色に染まっていた。



「時間が経つの、早いな」



 ぽそりとチョコはが言った。

たぶんそれは今日のことだけではない。

バニラは頷いた。

そして飲み物の後片付けなどをしながら、家路に着く。


 街をゆく親子と頻繁にすれ違う、気がした。

ジャンボのことをこの四年間も「父」と彼らは呼んだ。

実際のところはどうかといえば、たぶん、ジャンボの自信なんてとっくに打ち砕かれてボロボロで、自分が親だと思われてるとも思ってないだろう。


 でもそれでも、三人で生きていきたいと願っていたから。



「涼しいな」

「うん」



 空は少しずつ夜に向かう。

夕日に染められた空に星の点滅が混ざる。

家に帰ろう。ジャンボが待ってる。


 二人は虫かごを首にぶら下げたまま、静かに歩いていった。

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