和田紗愛 編 2
「どいてくれ! 道を空けるんだ!」
まるで仮装のような格好をしている男たちが担架を運んで通りに駆け込んで来た。その上に寝かされている人はとても重傷で、耐性がない人が見ると吐き気を催してしまいそうなほどだった。俺と
何が起きたのかを理解できない。俺たちは謎の白い光……その渦に吸い寄せられてるようにして気がつけばこの場所に立っていた。ここがどこなのかも分からない。見慣れない風景に、飲み込めない状況。とりあえず、六人で話し合いでも……ってところに彼らがやってきたんだ。
「くそっ! これじゃあ間に合わないぞ!」
「誰か! 治療できる人はいませんか!? 頼む……仲間を助けてください!」
近くに病院がないのか、必死になって声を上げる男たち。あんなに騒ぎ立てたら人が集まって来そうなものだけど、この町の人たちはまるで日常茶飯事の出来事であるような……そんな顔をしている。中には無視して素通りする人もいる。あんな状態の人を見ても何とも思わないのか?
「……治療っつったってもよ。こんな場所じゃ手術もできないだろ。何を考えてんだ?」
「あの人たちもこの町を知らないのかもしれない。病院を探して走り回るより、ここで医者に呼び掛けてる方が怪我人の体力を奪わなくて済むという考えなのかもしれない」
確かにそうかもしれない。改めて見渡してみたが、この町は相当広い。高層ビルのような建物はないけど、その分だけ横に広がって建築が進んでる感じだ。それだけ土地が雄大なのか、土地に対して人が少ないのか……。とにかく、土地勘のない者が怪我人を連れた状態で病院を探し当てるのは困難だろう。
ふと、遠くの丘の上に目がいった。そこには一際大きそうな……ここからだと目測になるけど、ドームほどの大きさもある建物が見えた。それはなんというか、この町の景観と同じ石を積み上げて建てたような立派な家……いや、洋風の城と呼べる建物が存在した。それを見て、ここは最低でも俺たちのいた国ではないなと確信できた。
「……何か、わたしたちにしてあげられることはないかな?」
「
「それは止めた方がいい。僕たちもここがどこだかも分かってないんだ。別々に行動するのは賛成できない」
「だったら全員で探すしかねぇんじゃねえか!?」
「うん、それしかないな。はぐれないように行こう」
高校生たちがそう言って動き出そうとした時、通りの反対側から青いローブ……というのかな? それを纏った女性が駆け込んで来た。
「どいて! 私が診るわ!」
医者か? 俺や
「どうなんだ!? コイツは助かるのか!?」
「…………出血が酷い。私でも手に負えないかもしれないわ」
「頼む! こんなところで死なせたくないんだ!」
「やれるだけのことはやる。少し離れて!」
その女性は男性たちを遠ざけ、長い杖を持ったまま立ち上がる。そして、何を考えているのか……その杖を怪我人の体に向けて押し当てた。それに何の意味があるのか、俺にはやはり理解はできない。
「我が力。それはマナによりて与えられしもの。属性は水。それは汝を傷つけず、汝の命を繋ぎ止めるもの。癒しの力……ヒールドロップ」
何かを言い終えた女性。すると、彼女の持っている長い杖の先端からどういう仕組みなのか水が沸き上がるように溢れ出た。それが怪我人の体へと流れていき、血塗れの体を包み込むように、まるで大きな水滴を作るように覆い尽くしていく。
水風船のような球体の中に体を浮かされた怪我人。衣装に染み込んでいた血が薄まっていき、切断されている右腕の出血は止まり、あらぬ方向へと折れていた左足はプカプカと浮いたまままっすぐに戻っていった。そして女性がフッと息を吐いた時、水風船のようなそれは破裂するように割れて消えてしまった。俺たちは一体、何を見ているのだろうか? 仮装の次は手品でも始まったのかと思ってしまうような光景だった。
「……終わったわ。これで一先ずは命の危機を脱せられたはずよ」
「おお! ありがとう! あなたは命の恩人だ!」
「当然のことをしたまでよ。私たちのような探検家はいつ命を落とすか分からない場所に身を投じている。もちろん、向こうでは競い合うライバルだけど、たとえ仲間でなくても助けるのが私の流儀だから」
「俺たちに出来ることがあれば何だって言ってくれ。どんなことにも協力させてもらうよ」
「ふふっ、その時は遠慮なく声をかけさせてもらうわ。私がおこなったのは応急手当ての延長線のようなもの。今はその人を早く病院へと連れて行ってあげなさい」
「ああ!」
青いローブの女性はそのまま歩き去って行ってしまった。残された男たちは未だに目を覚まさない担架の上の人を今度こそ病院へと連れていく為にその場を離れていった。あっという間のことで理解の追いつかない俺たちはただ呆然と立ち尽くしていた。
あの女性がしたのはなんだったんだ? 本当に手品か? 探検家……とか言ってたな。この国にはそういう職業があって、それに就くとあんな風なことができるようになるのか? いや……そんなのあり得ないだろ。あんなのはまるで……。
「魔法……みたいだったな」
落ち着いた感じの男子高校生がそう呟いた。
「…………魔法?」
「ほら、ファンタジー世界なんかでよくある人知を超えた力ってやつ?」
「すげぇな! あんだけ傷だらけだった人間があそこまで回復しちまうんだもんな! あれが魔法か……なんつーかヤベェな」
魔法。そうだな。あれは手品というよりも魔法と言った方がしっくりくるな。人の傷を癒してしまうあの力は回復魔法ってやつか? 俺には古いゲームの知識しかないけど、確かにそんな風な力だったと思う。
……まてよ? ということは、この町にいるそんな風な格好に仮装している人たちはみんなそうなのか? 探検家? 剣や槍を持っている人もいたけど、あれってもしかして本物なのか? 青いローブの女性は回復魔法を使っていた。それなら、三角帽と杖を持った魔女の格好をした人は攻撃魔法が使えたりするのか? まさかな……。
ここがどこなのか。それはまだ分からない。だけど、どうやら俺たちが生まれ育ってきた世界とは違うようだ。これはあれだ……異世界とかって呼ばれてる世界だ。みんなの表情を見てみると、どうやら俺と同じ結論に至ったらしく、みんながみんな顔を見合わせて確認しあうことになった。そして、これが現実であることを納得せざるをえなくなってしまった。
「異世界に転移した?」
「そう……みたいだな。君たちは俺たちと同じ世界の人間で間違いないんだよな?」
「はい。僕らは四人とも向こう側で生まれ育った人間です。あなた方もそうですよね?」
「ああ。ここに転移した理由は分かるか?」
「いえ……。ですが、原因なら」
「…………あの白い光の渦、だよな?」
「はい」
俺は落ち着いた感じの男子と状況の整理を始めた。彼らもあの光のことは知らないらしい。たまたま偶然だったのか? 魔法なんていうものが存在するこの世界の何らかの力が向こうの世界に干渉してあの光の渦を出現させた? いや、まて。確かあの時……この男子は気になることを言っていたな。
「こちらへ来る前、君は何か聞こえると言っていた気がするけど?」
「あ……。はい。声が聞こえました。何を言っているのかはよく聞き取れませんでしたが、女の人の声だったと思います」
「…………他に、その声が聞こえた人は?」
「「………………」」
誰もいない……か。この男子だけがそれを聞いた。それに真っ先に吸い込まれていったのもこの男子だったな。つまりそれは、ここへ転移するはずだったのは彼一人の予定だったのかもしれないということだ。彼の友達も俺と
「あの……」
「ん?」
「お二人のお名前を伺っても?」
「ああ……そうだな。俺は
「重杉さんに和田さん」
「
「あたしのことも
「はい。では、
「ああ」
「それでいいわ」
「では、こちらも自己紹介させてください。僕は雪野
「雪野……?」
「はい。何か?」
「…………いや、何でもない。
「こちらこそ」
「オレは霧賀
「ああ」
「ところで、いつまでその耳を付けてんスか?」
「ん? あ…………。忘れてた」
俺はすぐにそれを外した。しかし、その慌てっぷりが面白かったのか、目の前の男子高校生は腹を抱えて笑い出した。
「ハッハッハ! いや、可愛いっスよ!」
「馬鹿にしてるだろ? えっと……
「してねぇっスよ。ハハハ!」
「もう、
「いや、別にいいよ。それよりも……君は?」
「私は涼文堂
「ああ、こちらこそ」
「ほら、
「……うん。わたしは兼植
「はじめまして。よろしく」
「よろしくね、
雪野
霧賀
涼文堂
兼植
この四人組。ただ仲が良いからって理由で一緒にいるわけじゃないだろう。それは僅かでも彼らの話に耳を傾けていたから分かってしまう。俺は自身が恋愛体質なんていうものを持っているせいか、やはりそういうものには敏感になっている。この子たちはちょっと複雑な関係なんだろうな。今はまだ綻びは小さいけど、少し関係が進みだすと崩れるのは一瞬かもしれないなと思う。まぁ、俺が横から口を出すことではないが。
「さて、これからどうするか」
「とりあえずはここがどこなのかを知りたいわ」
「そうですね。僕たちがどのような状況に陥っているのかは把握しておきたいところです。それに、ここが仮に異世界だとして……元の世界に戻れるのかも知りたい」
「うん。なんでこうなっちゃったのかっていうのも知りたいよね。こういう話だと大抵は説明役の人が現れるはずだけど……」
「誰も寄って来たりはしねえな。でも、こういうのってアレだろ? 招かれた者には何か特別な力があって、それを使って世界を救う……みたいな?」
「……それってつまり、何かの争いだったり……そういうのに巻き込まれることになるのかな?」
「まだ分からないな。でも、さっきの人たちや通りを行き交う人たちを見ている限りはそういう世界である可能性はあるね」
「世界を救う勇者が召喚されたみたいな話なのかな? だとしたら、勇者はやっぱり
「いや、ここはオレだろ! この中じゃ絶対一番強えぇぜ」
「強いだけじゃ勇者にはなれないもーん」
「なんだよ! じゃあ
「ほら、もう名前が勇者みたいなものじゃない。それに優しいしイケメンだし、気が利くし」
「そうかぁ?」
ダメだな。この子たちに任せておくと話がまるで進まない。修学旅行じゃないんだからさ、もっと真面目に考えてくれよ。
「
「ん?」
「とにかくこんな所にいつまでもいないで移動しましょ。とは言ってもどこに行けばいいのかまでは……」
「そうだな。それじゃあまずはこの町の一番偉い人が住んでいそうな場所に向かってみるか?」
「一番偉い人?」
「そう。たぶんあそこにいる人がそうだと思うんだ」
そう言って俺は丘の上にある石造りの城を指差した。全員の視線がそちらへと向き、あー……と納得するような声がそれぞれに漏れた。
「僕も
「ああ」
「誰か、反対意見の人は?」
「「………………」」
「よし、それじゃあ行きましょう」
結局、
「
「…………」
「
「ねぇ、
「ん?」
「あたしには何か……数字みたいなものが人に重なって見えるんだけど」
「数字?」
「うん。全員じゃないけど何なんだろう、これ。目がおかしくなったのかな?」
「数字っていくつ? 俺は?」
「
「バラバラなんだ?
「見えないわ。女の人でも見える人と見えない人がいるのかも。さっきの魔法? を使っていた人は見えなかったけど、この通りを歩いている人の中には見える人もいて……『19』『23』『54』とかいろいろ」
「特に法則性とかもないな。数字が見える以外に何か体に異常があったりはしない?」
「それは別にないわ。意識しなかったら重なってる数字も薄くなるし、邪魔ってこともないけど……ただちょっと不気味なだけ」
「……分かった。あとでまたゆっくり話そう。俺も一緒に考えるから今は一人で考え込まないようにしてくれ」
「うん」
数字が見える……か。
俺はまだ不安を拭いきれてはいない
何かを見ている。それは通りの向こうから歩いてくる集団だろうか。十数人はいるだろうその人たちは全員が全員、黒い服を着ていて肩からは帯のようなものを垂れ下げている。その色はそれぞれに違っていて、白が一番多く、黄色や紫、緑などもある。何とも怪しげな集団が明らかに俺たちを見ながらこちらへと向かって歩いてきている。
「お、遂にお出迎えか? 遅せぇよなぁ!」
「……なんだか、怖い」
「
「分かった。
「うん……」
身構える
「貴殿方が招かれし勇の者でしょうか?」
黒服の一人がそう尋ねてきた。招かれし……その言葉はほぼほぼ俺たちの予想通りの状況だということの証明だった。そして、この人たちは
「ほら! やっぱりそうじゃない!
「……僕たちは確かにこの世界の人間ではありませんが、勇の者であるのかは分かりません。あなた方が僕たちをここへ招いたんですか?」
「詳しい話は後ほど致しますが、端的に申し上げますとそういうことになります」
「ここはどこなんですか?」
「ここは貴殿方がいた世界とは異なる世界。マスノティ諸島と呼ばれる複数の島国の中の一つであり、アイヴイザード王家の者が治める国家となります」
「王家……ということは向こうに見える城には王様が?」
「はい。名をヴァンシュノヴァイン城と申します。そしてその城下町となるここはイザードパレスと呼ばれております」
マスノティ諸島の中の一つの島国にあるヴァンシュノヴァイン城。そこにいるアイヴイザードという王家の人間がこの城下町イザードパレスを治めている……か。
「俺たちは何故ここへ招かれたんだ?」
「……おや、貴殿方も?」
「あたしたちはたまたまこの子たちの近くにいて……それで」
「巻き込まれた……というわけですか。それはそれは申し訳ありませんでしたね。心よりのお詫びを」
「……質問の回答は?」
「それは…………。ここで話すには少々長話になってしまいます。ひとまず、我らの教会へと参りましょう」
「教会?」
「はい。アメムガリミス教会です」
俺たちは黒服たちに連れられて町の中央に建てられているという教会へと案内されることとなった。付いて行くことにも恐怖心はあった。彼らの格好は怪しすぎるし、十数人に取り囲まれるようにして歩くのは連行されているようにも思わなくないからだ。
町の通りを歩きながらも景色は覚えておく。もしもの時に駆け込めそうな場所は知っておくべきだ。人の出入りが多そうな建物を重点的に記憶していく。特に居酒屋……いや、異世界では酒場と呼んだ方がいいか? 酒場では情報収集をするのが鉄則だからな。きっと知りたい情報もいくつかは得られるだろう。
ゲームの世界と違うのは建物が無造作に建てられていないこと。通りに対してきちんと整理されて列を成している。それから、武器屋や防具屋、道具屋も確かに存在するが、食事処や八百屋、肉屋のような食に関する店が圧倒的に多い。民家などはこの通りにはなさそうだ。店の裏手側にあるのかもしれないな。
それから、旅館……いや、宿屋もどうやら多いらしい。ここは島国らしいし、観光客も多いのかもしれないな。探検家などと呼ばれる人たちもいるくらいだ。探検する場所もあるんだろう。さっきの人たちのようにあれだけの怪我をする人が出る場所もあるということになる。
この異世界は安全ではない。それはもう確定した。そして、俺たちが招かれた者であるならばその危険に足を踏み入れることになるかもしれない。それは困る。俺だけならまだいい。だけど
「こちらになります。ここがアメムガリミス教会……さぁ、勇の者を無事に招き入れられたことを神に感謝しましょう」
通りの真ん中にでかでかと建てられた大きな十字架を飾られた建物。そこを中心として通りが四つに分岐して東西南北へと伸びている。そこで黒服たちが一斉に片膝をつき礼拝を始めた。なんで外で? と不思議だった。着いたなら中で祈りを捧げればいいのにと。
しかし、礼拝を始めたのは彼らだけではなかった。近くにいた町の人たちも膝を折り手を組んで教会に飾られた十字架へと向けて祈り始めた。中には仮装……いや、探検家たちの姿もある。通行人が全員ではないけど、その光景は少し奇妙だと感じた。
「さぁ、貴殿方は中へどうぞ」
俺たちは黒服の男に連れられて教会内へと足を踏み入れる。そこには立派な礼拝堂が備わっているが参拝している人は少ない。そりゃあそうだよな、みんな外で祈ってるわけだから。奥の扉から廊下へと出て階段を上がって折り返し、いくつか目の部屋へと入る。
「ご自由にお座りください。ただいまお飲み物をご用意致しますので」
そう言って黒服の男は一度その場を離れた。今は彼一人だ。他の黒服たちは教会の外に残ったからだ。集まった町の人たちの対応をしているのだろうか。どうして教会内へと案内しないのかも不思議でならなかった。
とにかく、俺たちは言われた通りにしておく。備え付けのソファーに高校生たちを座らせ、俺と
この中で一番そわそわしているのは
「…………!」
様子を見ようと思ったら目が合った。たまたまこちらを振り向いた時に見てしまったらしく、驚かせてしまったのかもしれないな。それでも目を逸らされたりということはなかった。もしかしたら、彼女もみんなの様子を確認しようとしていたのかもしれない。
「お待たせ致しました」
黒服の男が戻ってきた。コーヒーカップが七つ乗ったトレーを持っている。それをソファーの前にあるテーブルへと置き、自身は俺たちの対面側の椅子に腰掛けた。カップを一つずつ丁寧にテーブルへと移していく。
「どうぞ、お二人もお座りになってください」
「……いや、俺たちはこのままでいい」
「そう……ですか。せめて、お飲みになってください。これにだけは自信がありますもので」
「…………」
そう言って黒服の男は誰よりも先にカップへと手を伸ばし、それを顔の前に持っていくとその薫りを楽しむように鼻腔を拡げた。そしてゆっくりと口元へと運んでいった。
「んん……」
漂ってくる薫りと彼の表情からそのコーヒーが絶品であることはなんとなく分かった。だけど、誰もそれに手を伸ばさない。警戒している。それも当然のことだ。この男はまだ俺たちに名前すら明かしてはいない。味方だと決まったわけでもないのに、そう軽々しく出されたものを口に入れることなどできはしない。
「あの、先に話を聞かせてください」
そう切り出したのは
「そう、慌てないでください。きちんと説明はさせていただきますし、私は貴殿方の味方です。警戒をする必要もありませんよ」
「…………それはこっちが判断することだろ。それに、警戒させてるのはあなた自身の責任だ。そろそろ名前くらい名乗ったらどうなんだ?」
「あぁ、そうでしたね。これは申し訳ありません。自分で言うことでもありませんが、この町では私を知らない者はおりません。ですが、招かれし勇の者である貴殿方の前で普段通りにとは参りませんでしたね」
黒服の男は椅子から立ち上がり、肩から垂れ下げた帯のようなものを直しながら姿勢を正し、改めて一礼をした。
「私はこの町で神父をしております。名をキヤス……キヤス・ニポフと申します」
「キヤス神父、ですか?」
「はい、その通りでございます。どうかお見知りおきを」
神父。まぁそうだろうとは思っていた。ここは教会だしな。あの黒服だってテレビの特集だったりで見たことはある。実際に目の当たりにするのは初めてだけど。しかし、何故神父が俺たちを?
「あなたは神父でここは教会だと言うのなら、どうして外で礼拝していた人たちを中へと案内しないのですか?」
「それは、信仰する神が違うからですよ。我らの教会は規律が厳しく、他教徒の礼拝を拒んでおります。しかし、私はそれを無くしたいのです。今はまだ教会の外でしか親交を深めることはできませんが、いずれは……」
「だがよ? それはあんたの信仰する神に対しての反逆ってやつじゃないのか?」
「そう言われる方もやはりいます。ですが、私は他の神を崇拝しているわけではありません。人によって崇める神はそれぞれに違いますが、その信仰心だけは同じであると信じたいのです」
嘘をついているような表情ではなかった。それは真実であり、この人の願望のようなものだろう。そんな風なことを考えていると、窓際にいた
「……うん、美味しいわ」
「ありがとうございます」
「キヤス神父、あなたの気持ちは分かったわ。でも、ではどうしてあたしたちをこの教会へ招いたの? あたしはあなたの神に何の思い入れもないわよ?」
「…………構いません。貴殿方は我らによってこの世界へと招かれました。それは我が神によるお導き。貴殿方に信仰心を強要するつもりもありません。ですが、我が神のご加護は否応なしに受け取って頂くことになります」
「加護?」
「はい。では、その辺りについても詳しくお話することに致しましょうか。まずはそうですね……。貴殿方をこの世界へと招くことになった経緯からお話しましょう」
ようやく本題に入れるようだ。なんだろうな。少しワクワクしてるのか? それともこのドキドキはやはり恐怖心からくるものなのか? 俺は……俺たちはこの世界に何を求められるのだろうか。そして、無事に元の世界へ帰ることはできるのだろうか。
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