第29話 本城咲希の贖罪⑤
軽い朝食を済ませた一同が各々朝のルーティーンに取り掛かる中、キッチンでましろの食器皿を代わりに洗っていた水嶋深月は、二階からダイニングルームへ降りて来る人の気配に気がつき、そっと入り口に目を向けた。
「おはよう。今日は随分と遅かったわね。夜更かしでもしたの?」
深月はフリルのついた白いワンピース型のルームウェアを身に纏い、ダイニングルームの入り口に立つ本城咲希へ問いかける。しかし、いくら待っても彼女からの返答はない。
そこで深月はようやく咲希の身体の異変に気がつき、怪訝な表情のまま、流し台の水を止めて咲希へと近づいた。
「……どうしたの? すごく、顔色が悪いけれど」
明らかに正気が失われた真っ青な顔。
着ているルームウェアも相まって、今の彼女はまるで死化粧された王族の姫のようにも見えた。
深月はそんな咲希を心配そうに見つめるや否や、近くに掛けてあったタオルで濡れた両手を拭くと、発熱の有無を確かめるため、彼女の首筋にそっと手を伸ばす。
しかし、咲希はそれを軽く叩いて払いのけると、微かに吐息の混ざったような声で深月に向けて言葉を放った。
「……別に……何でもない」
ただそれだけ伝えると、咲希はおぼつかない足取りでいつも彼女が座っている定位置まで移動し、倒れ込むように腰掛ける。
「ちょっと、本当に大丈夫? 熱でもあるんじゃない? 朝食は部屋に持って行くから、戻って寝ていた方が——」
「何でもないって言ってるでしょ。……それ以上、話しかけないで」
普段通りの突き放すような棘のある態度。
深月は一瞬、他に何か言い返そうかとも考えたが、咲希のその態度を受け、困ったように笑みを浮かべた。
それから、作り置きしていたハムエッグとグラスに入った一杯の水……そして、戸棚にしまってあった風邪薬を二錠だけ取り出して咲希の前に並べると、中途半端にしていた洗い物を再開したのだった。
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