第30話 本城咲希の贖罪⑥
——Re:Re:八月三日。午前九時四十五分。
第二学生寮 一階共同スペース。
深月に差し出された薬が効いたのか、朝食を食べ終える頃には、咲希の顔色もすっかり良くなっていた。
そんな咲希を含めた一同は、それぞれ朝の身支度をあらかた済ませると、いつものようにダイニングルームに隣接する共同スペースへとやって来ていた。
「——さて。今日の予定だけど、……まぁ、出来ることも限られているわけだし、各々自由に活動するって方針でいいかしら?」
例のごとく、進行役を務める深月が一同に問う。
「意義な~し♪」
「右に同じく!」
これまたいつものように、ましろが間延びした声で言葉を返すと、茜音がそれに同意する。
それを横で眺める由衣は小さく首肯し、咲希は無言で賛同の意を示す。
既に定型化しつつあるこのやり取り。
それを一瞥するに留めた深月は、そそくさと締めの言葉へと移った。
「それじゃあ、何か異変やトラブルが起こった時には、すぐ寮に戻ってくること。いいわね?」
「了解っス! ……ところで、深月さんはこれからどこか出かけるんスか?」
グループ間での重要事項を確認する傍ら、唐突に手足の腱を伸ばし始めたジャージ姿の深月に対し、茜音が率直な疑問を投げかける。
「ええ。少し辺りを走ってこようと思って」
「……そ、そうっスか。……気を付けて」
深月の言う「少し」が、自分たちの尺度とは異なることを思い返しながら、苦笑交じりの言葉を返す茜音。それから、ふと隣に目を向けると、茜音と同様の考えを持っていた由衣と偶然目が合った。どうやら考えていることは同じらしく、体力が平均以下である者同士、波長が合ったようにも感じられた。
そんな二人のやり取りを首を傾げて見ていた深月は、同様の質問を他の四人にも投げかける。
「みんなは、これから何か予定あるの?」
「あたしは研究室でゲーム~。って言っても、対戦相手がいないんだけどねぇ~」
「わたしと茜音ちゃんは日用品の買い出しに行ってくるよ。何か必要なものとかあったら言って」
「由衣にゃ~ん、エナドリ買ってきてぇ~。……あー、あとポテチも~」
「……ましろちゃん。それ、この前も頼んでなかったっけ? 体調とか大丈夫? ちゃんと歯磨きしてから寝てる?」
「だいじょ~ぶ、だいじょう~ぶ。してるしてる~」
「……ましろさんっ! 自分でよろしければ、いつでも練習相手になるっスよ!」
「マジぃ~? んじゃ、あとでカスタムやろ~」
「ぜひっ‼」
「…………あれ? 買い出しは?」
——と、まるで宙に浮かび上がるような軽い会話の続ける三人を尻目に、深月は残るもう一人の少女に訊ねる。
「それで、あなたはどうする?」
そう問われた眼鏡の少女——本城咲希は、少し考える素振りを見せた後で静かに答えた。
「……少し、出かけてくる」
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