第28話 本城咲希の贖罪④

 

 ——Re:Re:八月三日。午前九時二分。

 第二学生寮 二階個室。


 人の姿をした化け物に、魂ごと身体を喰い千切られるような感覚を覚え、本城咲希は仮部屋の隅にあるベッドの上でハッと目を覚ました。身体からは多量の汗が吹き出し、身に纏っているルームウェアはじっとり湿ってしまっている。

 それから彼女は、自分がグラウンドを全力で駆け抜けた後のように浅く速い呼吸を繰り返し、心臓がバクバクと早鐘を打ち続けていることに気がついた。



「…………」



 咲希はぼやけた視界で真っ白な天井を見上げながら、そっと胸に手を当てる。

 そうして、手のひらに伝わる熱と鼓動が紛れもない現実のものであると確信すると、不快感を露わにしながら、そっとベッドから起き上がった。



 ……最近、夢を見る頻度が増えてきた。

 今、わたしが「現実だ」と認識しているこの世界ですら、わたしたちの集合意識……つまりは、わたしたちが創り出した夢なのだとすると、今まで見ていたあれは、本当に〝夢〟なのだろうか。それとも——。



 咲希は、自身がつい先ほどまで見ていた〝夢〟について、静かに考えをめぐらす。

 はっきりとした内容は覚えていないが、いつもとてつもない恐怖に襲われたという漠然とした感覚だけが現実の身体に刻み込まれているのだ。

 そして、その夢の内容を思い返そうとするたびに、激しい頭痛に襲われる。

 そんな現象を、咲希はこの不可思議な世界で目覚める以前から度々経験することがあった。

 けれど、この世界で目覚めてから……いや、正確には、ループ現象が起こり始めたあの日以降から、ほぼ毎日といってもいいほど同じ悪夢に苦しめられるようになった。


 咲希は汗で額に張り付いた前髪を掻き分け、右手でそっとこめかみを抑え込むように頭を支える。それから、言葉にするのも憚られるような感情を溜息として部屋に吐き出すと、枕元に置いてあるシルバーフレームの眼鏡を手に取り、泥水を目一杯含んだような重たい足取りのまま部屋を出た。

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