第7話 白昼の夢

 

 夢を見ていた。


 微睡みの中でも「これは夢だ」と、はっきり知覚できるほどに幸福で、愉快で、現実離れした、夢らしい夢。


 そんな夢の中で、彼女は存在したかもしれないもう一つの人生を歩んでいた。


 優しい両親に恵まれ、正しい愛情を注がれて育ったわたし。

 クラスメイトと何気ない話で盛り上がり、大切な時間を共有するわたし。

 部活動に入り、同じ目標を掲げる仲間たちと汗を流すわたし。

 憧れの相手と並んで、夕暮れの帰り道を少し遠回りして歩くわたし。


 第三者から見れば、それは学生時代という限られた期間の中で、誰もが一つは当たり前に経験するような、いたって平凡で意外性のない現実味のある夢。

 しかし、彼女にとってその夢は、現実とはかけ離れたファンタジー世界で起こる、紛れもない幸福な出来事として映っていた。


 いくら願っても叶わない。

 命を秤にかけても、届くことはない。


 それほどまでに幸福で、残酷な夢——。



 ……あぁ、終わって欲しくないなぁ。

 もう、ずっとこのまま、目が覚めなければいいのに……。



 彼女は、夢の中で夢の終わりを拒絶する。

 しかし、それが夢である以上、終わりはいつか必ずやって来る。

 それが〝夢〟というものの、絶対的で普遍的な性質。


 やがて、幸福にまみれていた彼女の夢にも終わりやってきた。

 それまで鮮明に見えていた理想的な光景が、石を投げ入れられた水面のように揺れ広がり、ゆっくりと霧散していく。


 両親の微笑みが、友人の声が、煌めく汗の粒たちが、顔に集まる微かな熱が、音もなく消えていき、そして——。

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